第1話 勇者召喚、大失敗!?
――神界、召喚の間。
神々が見守る中、召喚の儀式が行われている。
それは、神界における定例事項のひとつ――勇者召喚。
地上が魔王に荒らされるたび、神界は「直接干渉禁止」の大原則に従い、代理人として人間を呼び出し、力を与え地上を救わせる。
いつもピカーッと光って拍手喝采、はいお疲れ様でした、なのに――
「最終段階。座標固定‥‥固定‥‥固定が――あれ?」
召喚を担当していた神の声が、最後で見事に裏返った。
同時に、祭壇中央にある巨大魔法陣から、パチパチと情けない火花が散る。
「おい、勇者はどうした」
「媒介の聖杯も反応ありません」
「勇者の魂、所在不明です!」
ざわ‥‥っと、神々の間に動揺が走る。
私も、台車に積んだ水差しを抱えたまま、思わず眉をあげる。
「‥‥失敗、だな」
祭壇上段の、七柱の上級神が並ぶ席から低い声が聞こえた。
「小規模奇跡担当女神レミル前へ!」
その瞬間、周りの神たちが一斉に私を見る。
「え、わ、私?」
「ほかに誰がいる」
私は水差しを抱えたまま、おずおずと祭壇中央へ進む。
七柱の鋭い視線が刺さる。
「勇者召喚に失敗した、世界の負荷が増大する前に、代わりを用意する必要がある」
「つまり、代打?」
「語感は軽いがそうだ」
さらっと言うなこいつら。
え、まって、もしかして私がその代打って事?
「あのー、その代打って誰ですか?」
「そなた以外に、誰がいる?」
「いや、私小規模の奇跡担当ですし、神界でも掃除とお茶くみ、ロウソクの交換が専門なんですけど――」
「下界ではそれを”雑用”と呼ぶらしいな」
私は「いや、神界でも雑用ですからね」とツッコミを堪え。
「ほかの候補は?」と、質問すると。
別の上級神が肩をすくめながら言った。
「全員手が離せないし、我々は直接干渉は禁じられている。派遣できるのは、お前だけだ」
は?なんでそうなるの?てか私は神ですらないってか!
「決定だ。勇者の代わりとして、そなたを地上へ送る」
「ちょ、ちょっと待っ――」
言い終わる前に、床に新たな魔法陣が浮かび上がってきた。
勇者召喚の魔法陣より少し小さい。
中には、見慣れない刻印が書かれている。
魔法陣が光、手に集約する。
手を見ると輪っかに鎖みたいな模様。
「説明は簡略化する。そなたの神としての権限は限定的だ、奇跡発動はにはポイントを消費する。残量ゼロで――」
「はい?ポイント?」
「残調ゼロで、神力を失い人間に堕ちる」
さらっと、恐ろしい事を言わないで。
「ちょっと、それ重要な説明じゃない!?、簡略化しないでよ」
「説明は条文にすべて記載してあるが長いから読まないように」
「読ませてよ!!」
目の前に突き出されたのは、掌ほどの透明な板、薄い光が文字を形作り、細かい条項が延々と並ぶ。
【女神派遣緊急ガイドライン 改訂第17版】――うわ、小さい文字。
「第三十三条、資格喪失時の扱い…」私は早口で読み飛ばし――止まる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
備考
・当局監視の下、すべての奇跡発動は記録される
・派遣女神の最終判断は神界調整局が行う
―――――――――――――――――――――――――――――――――
監視?最終判断?なんか嫌なワードが混じってる気が。
「質問です!」私は透明な板を掲げた。
「この”調整局”って、具体的に――」
「時間がない!」
上級神がかぶせてくる。
「魔王の侵食が想定よりも早い、魔王は待ってくれない」
そうやって、いつも大事なところは流される。
神々の雑用をしていると、嫌と言うほど実感する。
「でも、勇者は?もう一度召喚を試してみては?」
「不要だ」
沈黙を続けていた、銀髪の上級神が初めて口を開いた。
低く、静かな声で「今回は、勇者は要らない」
一瞬、空気が固まった。
他の、上級神たちがちらりと銀髪の上級神を見る。
誰も何も言わない、その沈黙は言葉よりも重たい。
「転送陣、起動します。」
「ちょ、まだ心の準備が!」
「必要ない。君は準備しなくても準備ができていない」
そのとき、耳の奥でピコンと電子音が鳴った。
謎のウインドが自動で開き、見慣れない画面が立ち上がる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【派遣神識別 登録:雑用女神—補佐級】
【女神ポイント:100/100】
【注意:残量ゼロで資格剥奪(人間化)】
【監視:調整局オンライン】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ねえ、最後に一個だけ」私は顔を上げる。「魔王って、ただの魔物だよね?」
答えたのは、銀髪の上級神だった。
「……どうだろうな」
召喚の間に光が満ちる。
足元に魔法陣が現れ、地上へのゲートを構成していく
召喚担当神が宣言する。「派遣、開始!」
「ちょ、ちょっと待って! お弁当とか、持ち物とか、心の準備とか――」
バシュウウウウッ。
光が世界を塗り替え、視界が反転する。
最後に見たのは、端に座る銀髪の上級神。
あの人は、やっぱり何も言わなかった。
――そして私は、色のある世界へ落ちていった。
読んでくださって感謝です!
「おもしろかった!」「続き読みたい!」「先が気になる~!」
と思ったら、下の★★★★★をぽちっとしていただけると嬉しいです。
面白ければ星5つ、イマイチなら星1つでも押してもらえれば嬉しいです。
ブクマしてくれると作者が小躍りします!