ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
宿屋ピーピー日和 ②
2日目。
ジェイドはゲッソリした顔でテーブルについていた。
昨日と同じようにスライムたちがお皿を運んでいる。
注意を受けてから、少しまっすぐに進めるようになっていた。
「あら、あなた大丈夫?顔色悪いわよ?」
「大丈夫も何も、ベッドにスライムたちが乗ってきたんだからな……。
冷たいしベタベタするしで、熟睡できなかったんだが……」
「気に入られてよかったじゃない〜」
何事もなかったかのように笑顔で答えるリンダ。
それを見たジェイドは気まずそうに顔を逸らして呟いた。
「君も同じ状況だったのに、元気そうだな……」
「だって一緒に寝られて嬉しかったんだもの〜。ね〜?」
『ピ〜!』
『ピピ〜!!』
リンダの呼びかけに、テーブルの下で待機しているスライムたちがピョンピョン飛び跳ねる。
「まぁ、悪気はないんだろうが……」
「それよりあなた、ごはん食べちゃいましょ!
もう昨日みたいなことにはならないと思うから!」
「そうだといいな……。ご丁寧に一匹一匹頭下げに来たし」
ジェイドは朝食を終えると、薪割りのために外に出た。その後ろを5匹のスライムがピョンピョンとついてゆく。
「俺は今から薪割りするんだぞ?危ないから、ついてこないほうがいい」
『ピ〜!』
『ピ〜!ピ〜!』
どうしても譲れないようで、スライムたちはジェイドの正面に移動して主張を始めた。
それを見たジェイドはふと、考えなおす。
「そうか……。俺がルオーロに行っている間、リンダの薪割りも手伝ってくれたんだったな。じゃあ。お前たちが?」
『ピッ!』
『ピ〜!』
嬉しそうに大きく飛び跳ねるスライムたちを見て、ジェイドは口元を緩めた。
「なら、手伝ってもらおうじゃないか。でも危なくなったら止めるからな?」
『ピ〜!!』
ジェイドが斧を持ち出そうとすると、なんとスライムたちが取っ手にまとわりついて動かそうとしている。
慌てて止めに入った。
「いやいや、斧なんて持ってきたらダメだろ。危ないって」
『ピー?』
ジェイドはしゃがみながら、優しく声をかける。
「持ってこようとしてくれたのは嬉しいよ。でもこれは人間の道具だからな。本当に危ないんだ』
『ピ……』
『ピィ……』
残念そうに黄色い体を震わせるスライムたち。
どうしてもお手伝いがしたいらしい。
ジェイドは眉を下げながら。彼らにできることがないか考えた。
「じゃあ。お前らはこっち。木の方を頼むよ」
『ピッ!』
「ああ、でも最初の方は見てろよ。運んで欲しくなったら呼ぶからな」
『ピ〜!!』
さっそく、薪割りを観察するスライムたち。
ジェイドの動きを観察し、呼ばれたら移動して薪を運ぶようになった。
20回も割らない内に、スライムたちは声掛けしなくても、割られた薪と丸太を運ぶようになる。
「……お、いい子だなぁ」
「ピ」
「ピィ……」
「よし、ちょっとこっちにも頼むぞ。でっかいやつは無理するなよ?」
決して早くはないが。一生懸命に手伝うスライムたちを見て、ジェイドは優しく微笑む。
「……リンダの言ってたこと、やっと腑に落ちたよ。お前ら、ちゃんと人の手を見て、覚えようとしてるんだな」
『ピ~~!』
「って、ちょっと待て!?こっちに来るな!まだ斧持ってるんだからな!」
感激したのか、スライムたちが猛スピードでジェイドに飛びかかる。
ジェイドは慌てて斧を手放した。