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夏の魔法  作者: 九曜平祐
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エピローグ

 夏休みが明け、始業式を終えた生徒会室。

 早速招集された生徒会のミーティングは今後の予定を確認するだけであっさり終わる。

 書記と会計は先に退出、俺は戸締まりと施錠の責任を負う会長につきあって、帰る前に職員室に寄り、鍵を返却した。

 グラウンドから野球部とサッカー部のかけ声が聞こえる昇降口で靴を履きかえ、校舎を出る。

 清輝と「おつかれさま」を交換し、校門に向かって歩き出した。

「その後、なにかおかしなことは?」

「なにも。清輝は?」

「私も。あれは本当にあったことなのか、自信がなくなってきたわ」

 その気持ちもわかる。

 今、思い返してみてもあまりに荒唐無稽で、人に話せば夢物語と笑われるだろう。

 でも、俺のスマホには奇跡のささやかな痕跡が残されている。

 ご褒美と称して一緒に撮ってくれた写真。

 魔法のアプリもインストールされたままだ。

 もしかしたらまだ使えるのかもしれないけど、試していない。

 人の身には過ぎた力だ……なんて説教くさいことを言うつもりはない。

 なにか副作用があるかもしれないし、いざ問題が発生したとき俺一人じゃ対処のしようもないという、凡人らしい懸念を抱いているだけだ。

 それに、使って消えてしまったりしたら、あの思い出が現実だった証しがなくなってしまう。

 だから、写真の存在と共に清輝には伏せている。

 彼女はあの魔法にあまりいい印象は持っていないだろうし、まだ残されていると知れば不安に思うかもしれない。

 不誠実と言われれば、そうなのだろう。

 でも、些細な秘密を抱えていることくらい、許してくれるんじゃないかと思う。

「二人揃って共通した内容の幻覚を見る可能性って、どのくらいなんだろうな」

「それだけで十分、奇跡と呼べるくらいに低い確率ね」

 俺と清輝の関係に、それほど大きな変化はない。

 あの日の翌日、会って話をしたけど、話題は専ら俺達が遭遇した超常現象についてで、間違ってもデートと呼べるような雰囲気じゃなかった。

 今日も教室で、そして生徒会室で、奔放な会長とその使いっ走りの副会長という役回りはそのままだ。

 不思議な体験を共有して、少しだけ精神的な距離が近づいたような気もするけど、俺の願望、もしくは錯覚と言われれば否定はできない。

 それでも、俺の内面ではあの一日──と言っていいのかどうか微妙だけど、カレンダー上は過ぎ去ったただの一日に過ぎないのは確かだからあえて「一日」と扱う──は大きな転換点となった。

 一つには自分の気持ちをはっきりと自覚したことがある。

 元々清輝のことは好ましく思っていたけど、それが自分で考えていた以上に強い感情だと突きつけられた。

 そしてもう一つ、このままなにもしなければ、俺達は卒業を機に別々の道へ進み、その道が再び交わることはないらしいとも悟った。

 卒業後、俺と清輝の関係になにかしらの進展があったら、未来から時間をさかのぼってくる、その行き先に中三の夏休みは選ばなかっただろう。

 そして多分、清輝はそのことを多少なりとも残念に感じてくれていたんだと思う。

 彼女が見たいと言った「少し違う結末」がどういう内容なのか、それはわからない。

 俺と親しくなる未来を望んでいたと考えるのは、虫のいい思いこみかもしれない。

 それでも俺は、清輝がどう思うにせよ俺自身は、彼女の側で一緒に歩んでいける未来の訪れを希う。

 もちろん、俺の意思を一方的に押しつけるわけには行かない。

 だけど、ただ成り行きに任せて日々を過ごすんじゃなくて、せめて自分の気持ちを伝えたいと思う。

 俺の願いがかなうかどうかはわからない。

 嫌われてはいないと思うけど、好意とまで呼べる感情を持ってくれているかどうかは、なんとも言えない。

 未来から来た清輝は、割とはっきりそういう想いを示してくれていた気がするが、あれは本人も言っていたように、思い出補正とやらの為せる業だろう。

 そして仮にOKをもらえても清輝が祖国へ帰るなら遠恋確定だし、それを理由にお断りされる可能性だって大だ。

 それならそれでいい。

 少なくとも、中学時代、本気で自分を好きになった男がいたという記憶を清輝のなかに残せる。

 挑んで、それでダメならその結果は潔く受け入れよう。

 でも挑まずに諦めるのはイヤだ。

「あぁ、そう言えば」

 校門へ向かう途中、清輝が思い出したように尋ねた。

「自由研究、どうしたの?」

「……実は小説を書いた」

「小説!? 内容は……」

 言いかけて、清輝の目に理解の光が宿る。

「もしかして、人騒がせな魔法使いのお話?」

「ただのボーイ・ミーツ・ガールだよ」

「返ってきたら読ませてほしいわ」

「……覚悟ができたらな」

「覚悟?」

「恥をかく覚悟」

「笑ったりしないわよ」

「……まぁ、そのうち」

「約束よ?」

「そのうち」

 まだ夏の強さを残す陽射しが照りつける。

 俺は目を細め、陽炎の揺らめく先に続く道を見据えて静かに息を吐いた。


《了》


この物語のヒロインは、以前、個人的に書いた小説の脇役でした。

それが妙に気に入ってしまって、いつか彼女を主役にした物語を書きたいと思っていたんです。

今回、ふと思い立って書いてみました。

しかし、ずいぶん戸惑いました。

いつもはまず物語の起承転結を考えて、それに合わせてキャラを配置するのですが、今回はまずキャラありきで、そこからどう着地するか考える…という手順で進めたので、勝手が違ったんです。

おかげでストーリーは最初に考えていた内容からどんどん変わっていきました。

元々はループものでもタイムトラベルものでもなかったんですけどね。

ただ、書き上げたものを読み返してみて、自分なりに納得のできるお話になったな、と思っています。

楽しんでもらえたら嬉しいです。

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