表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
富羅鳥城の陰謀  作者: 薔薇美
7/25

とんだ不覚

あくる朝。


「――んが――」


 サギは朝ご飯の目刺しを(かじ)ったとたん苦い顔をした。


 目刺しはまったくサギの気に入るものではなかった。


 だが、口直しに茄子(なす)茗荷(みょうが)の味噌汁をズズッと(すす)ってお椀を箱膳へ戻すと、


「――あっ?」


 その一瞬の隙に皿の目刺しが二尾だけになっている。


「わしの目刺しがのうなっとるっ。まだ三尾あったのにっ。誰が盗ったんぢゃっ?」


 サギは疑わしげに我蛇丸、ハト、シメを順に見やった。


「うん?盗ったのは奴ぢゃろう?」


 我蛇丸はじっと横目で気配を(うかが)うと、


 シュッ。


「そこぢゃっ」


 疾風のような黒い影をパッと鷲掴みにした。


「ニャッ」


 黒い影は静止すると目刺しを(くわ)えた黒猫であった。


「にゃ、にゃん影っ?な、何で、にゃん影が江戸におるんぢゃっ?」


 サギはビックリと黒猫を見る。


「にゃん影なら富羅鳥山の小屋を出た時から、ずうっとサギの後ろにくっ付いてきておったぢゃろうが」


 我蛇丸はサラリと言って、にゃん影の後ろ首から手を放した。


「あっ、そいぢゃ、夕べの黒い影もにゃん影ぢゃったのか――」


 忍びの者ともあろうものが忍びの猫の追跡に気付かなんだとは。


 サギは面目丸潰れであった。


「いやぁ、わしもにゃん影にはまるで気付かんかったのう。江戸の町はごちゃごちゃと人だらけぢゃけぇのう」


 ハトは気にもせずに笑いながら丼鉢の納豆をネバネバと掻き混ぜる。


「サギもハトも間抜けなんぢゃ。わしは気付いとったぞ。はっきりとは見えんかったが、にゃん影が黒い影のようにスッスッとサギにくっ付いとったのはちゃんと気付いとった」


 シメはフフンと鼻の穴を膨らました。


「シメにもはっきり見えとらんなら及第点ぢゃ。にゃん影、立派な忍びの猫になったのう」


 我蛇丸はにゃん影に自分の目刺しもくれてやる。


 にゃん影は目刺しをムシャムシャと食べ終えると満足げに口の周りをペロリと舐めた。


 どことなく勝ち誇り顔している。


 もうサギに黒い影の正体が知れたので今更、隠れるつもりはないらしく、後ろ足を頭の上にピンと伸ばして悠々と毛繕いを始めた。



(とんだ不覚ぢゃ。にゃん影にしてやられたっ)


 サギはにゃん影を睨みながら目刺しをブチッと食いちぎる。


(にゃん影め、いつかニャフンと言わせてやるからのう)


 苦くて美味くもない目刺しであるが、にゃん影にはもう一尾たりともやるまいと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ