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其の十三 其の十四

十三

 かんざしの一本で、自分が生きていけるような気がしている時の何たる充足感よ。Tシャツには白字で、我愛虎 と赤字で書いてある。髪は丸くまとめて、かんざしを付ける不思議な違和感。自分はかんざしの使い方なんて知らんけど。

 

描いたイラストの女の子を見て、背景も描かないといけないとか思ったりしたが、それもやめて一人で眠りに落ちた。


何でもいいから自分を表現しなくてはと焦る心、でも、こんな時代に生きているだけでも十分すごいんだよ。なんて天使は言ってくれる。

書くとある程度のところで、どん詰まりをおこして迷路に迷い込む。本は読めども脳がぎっしりで、視神経渋滞。


今はベッドの中で、眠たくならないけど、頭がすごく頑張っているのが分かるので、休めてあげたい。映画館にでも行きたいが、今月はお金がカツカツ。来月まで上映しているだろうか。海の少女の映画。


 自分がどうしてこんなに海に憧憬を抱くのか、それはきっと自分が内陸部に育ったからなのかもしれない。あの生命力を想うと、なんだか心が晴れやかになるような、しかし畏怖も抱くような。

 しかし、その感情が十九も終わりの年ごろにはなかなか感じられなくなっていた。先週、海を見に行くために、電車に乗って、ビーチに向かった。その出先で色々買ったり、食べたりしたので、そこでお金を使いすぎた。


 あの感情が、海を見慣れて親近感を覚えたからなのか、自分が大きくなってしまって味わえなくなった。


 だが、四月の上旬の日向の力強さが、海で感じられなかった生きる喜びのような力を与えてくれて、海辺で会った女神と同じ大学で、同じサークルで、もう自分は生かされてるとしか思えなかった。


十四


「涙太君は夢とかある?」

 キャンパスの食堂でリナが涙太に訊いた。

 リナは、いつも千歳と一緒にいることが多いのだが、今日目が合った時には一人だった。今日もポニーテールで輝く淡い黄色の髪。

 緑の床が濁った抹茶の色にも見える。

 きっとたくさんの学生に歩かれて彩度が落ちてしまったのだろう。抹茶の海に漂う二人は、ともに弁当を広げて向かい合う様に座っていた。晴れた空だった。


「俺は表現者になりたい。」

「そっか。なれるといいね。」筑前煮のレンコンをつかみながら彼女はそう言った。

「リナ氏は何になりたいの。」

「私は……。」


待ち構えていたであろう質問返しになのだが、少し考えている様子を見せた。


「私、空を飛ぶ夢をよく見るの。本当にしょっちゅう。」

「うん。」

「だから空を飛びたい。」

「先の見えない時代だし、ずっと生きてたら、いつかできるかもね。」

「涙太君は超能力使えるんでしょ。なら、そのうち空飛べるようになるかもね。」

「俺のは一時的の一点集中で、透視も高三になってやっとだから。……どうだろう。」


超能力で得るものがあるとすれば、意思の継続がなにかを成すのに必要だという事だけ。


「空を飛ぶ夢を何度も見るということは、きっと心の底ではもう空を飛んでるんだろうね。」

「そうなの。何かの拍子に人類のリミッターでも外れて、ふわっと夢見たように飛べないかなって思う。そう思いふけりながら年を取るのが何故か幸福なの。もう何年になるだろう。」

「ところで涙太君、明日はまた海に行くの?」

「いや、高速を走って空港に行こうかな。ハイウェイで音楽を流してストレス発散しながら飛ばしたい。」

「ねえ、私も行っていい?」

それって……リナさん、デートじゃないの?いいの?


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