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其の九 其の十

 肉を食べることに罪悪を感じたり感じなかったり、とにかく血肉になることに対する感謝を絶対忘れてはならないのは確かなことなのだ。

「いただきます。」と不意に言い忘れて食べてしまうことがある。

 母からもらったコンディショナーはもう出にくくなり、黒髪の男には不必要だと思ったので、髭を剃るときに塗ることにした。髪が柔らかくなるなら髭も剃りやすくなるだろうと思って。

 またも中国料理のことを思い出した。これってなかなかないことで、あの匂いを日本で彷彿とさせるのは難しいような気がしている。でもこんなに身近にある。不思議なことだ。

 

 ところで、いつの間にか小さいうちからの自分の夢は、大きく見えない何かに否定されているような気がして人に具体的に言い出せなかった。

 そうするうちに、自分でも何が何だか分からなくなり、自分の中で人格の分離が行われた。それは外から見て理解できるものではないし、適性診断で、こちらの自分ならこうするが、あちらの自分ならああするといった、程の些細な分離だった。


 現代人はみんな頑張っている。何もできていないと思うような一日でも、見えないどこか想念が地上にあるだけで世界が少し救われている。

 

 何かの縁で、思いもしなかったところに急に行きたくなったり、そこで美少女と出会う奇跡が起きたり、空虚なのに充実した果実は、私の中でどのベクトルを選ぶかを結末から逆算したがる。

 明日は体術サークルだ。何を習うんだろう。部屋の棚に置いて光に照らされたデジタル時計がまた、昔好きだった人の誕生日になっていた。今年の夏は強い光が揺らぐだろうか。


 此処まで生きてこられたこと、すべてタイミングよくあらかじめ決めて生まれてきたような気がするし、なぜか感謝の念が湧いてきて、どうしようもないほど大きな感情になって私は太陽に小さく手を合わせた。

 そんな日もあれば、どうしても気持ちの悪い日もあって、耳障りな何かに心を乱されて自信を喪失したり。

 

 自分が一番怖いのは、自分にできることなんて何もなくて、ただ生かされているだけなんじゃないかと絶望してしまうことだ。

人間は多面体だ。矛盾していようが何だろうが、それも一つの面を見ただけにすぎない。


 生きているだけで人間は周りの空気と相互に関与し、遠くにいるような絵本の作者とだって、最終的な奥底の共通意識では繋がっている。

 だから、生きるというのは一人に対してどれだけの値打ちがあるか、それは星一個分でも足りないのだ。


 痙攣の通りに眠る、大空に羽ばたいて義務教育機関を卒業していったはずなのに、もうすでに変な温かさのアスファルトに裸足で着地してしまって羽根は使い物にならなくて、


「どうしよう、天使だったはずなのに。私は地上に堕ろされてしまった。もう飛ぶ気力がない。こんな自分に価値なんてあるんだろうか。地上の命は皆ブライトに見えるし、自分は人間になりきれない。あんな大きな声で笑えるなんて羨ましいや。」


 なんてみんなは思っているのかな。自分だけなのかな。痙攣が収まるように願いを込めて薬を飲んだ。

 

 ペットボトルに入った水を枕元に置いた。これは大学の講義が終わってから買ったもので、お昼に買ったのでそれから二十四時間以内に飲み切らなくてはならない。目が覚めたらまた飲もう水を。

 

 そう思い432hzのヴィヴァルディ「四季・冬」をかけて眠りについた。


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