其の六
六
運命は春、綺麗に咲く。綺麗な花びらが舞うようになって、青春の音沙汰がついにやってきそうである。そう、これが恋と言う感情か。
食堂で彼女と目が合ってしまったのだが、会釈をして食券を買いに行くと、後ろから話しかけられた。リナが肩を叩いたのだ。
「涙太君、お昼食べようよ。」
振り向く間もなく彼女が言った。目を細めて居た。サークルで一緒だった女子も一人いて、仲が良さげだった。
ブラックジャックで21を当てた時よりもドキドキしていた。
リナと、その友達の千歳は弁当を持っていて、私が食券で何を買ったか内緒にしたので、クイズ大会となった。
「ラーメンだ!」
「違う。」
「うどん?」
「ノン」
食券の列は二十人ぐらい並んでいて、そのうち変な名前の料理を言う大喜利になっていた。
「泥因果焼き」
「違う」
「ポーションオイル混ぜそば」
「ちがうで。」
「粗茶腕」
「それちがうでって言ったで?」
「そ。」
笑うリナの顔が愛しく見えた。
スキニージーンズにオーバーサイズの黄土色のニット、銀色の指輪を右手の人差し指にして、あと静かに良い匂いがする。
今世の経験、心動かされた経験が、三十六億年以上の輪廻転生の記憶以上に役に立つだろうか。
直感と言うものは、きっと物凄い経験の裏付けにすぎない。だから、頭で考えて作るものよりも、ある意味投げやりに作り出されたものの方が美しいのかもしれないし、そうでないかもしれないと思った。
それが、意図的な感動を引き起こせなかったとしても、自分が受けた感銘を人に伝えることができなくても、自分の中で当たり前と思っていることが誰かの心を直撃して静かに震わせることが可能なのかもしれない。そうだ、やはり描こう何かを。うん。
自分は何かを創作すべきなのだ。女の子と話せたことが嬉しくて、自分のことについて急に思いが巡ってしまった。
実際には一瞬の出来事で涙太は概念としてそれを思ったに過ぎないが、それが終わるのを感じ取ったかのようにリナがこう言った。
「ここの学食めっちゃまずいやつあるよ。ハズレ引かないといいね。」
──―今日は、学食のカレーは二度と食べないと誓った日であった。
「お詫びに私のことリナ氏って呼んでいいよ。みんなそう呼んでる。」とリナが言う。
カレーの味が独特なのは思い出せるのだが、どうおかしかったのかは後になると、夢の話みたいにうまく説明できなかったから、友達に話そうと思ったが断念した。そもそも大学内に友達はいない。
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