其の十五 其の十六
十五
朝の弱い自分は、集合時間を十一時にしてリナ氏を駅に待たせて車を走らせた。
ホームの外の車の乗降所に停まり少しも経たずに、金髪の彼女を見つけた。今日の雰囲気はいつもと違う輝きを放っていた。
いつもの彼女はストレートかポニーテール、古着の白Tシャツで、いつものからし色のスニーカーに、飾らない美人の雰囲気で、それでいてよく笑う顔がかわいい。
今日は金の髪が緩い三つ編みのおさげになっていて、キャップを被っていた。口紅は紅い。ハイネックの黒いスニーカーを履いて、スキニーのパンツに、いつもの様な古着風のデザインのパーカーを着て英字が胸に記されている。「every moment」下段に1959と書いてある。
着ているものは同じなのに、あまりに雰囲気が違って大人っぽい。
車窓の外にいる彼女に手を振ると、ちょうど向こうもこちらを少し見てから近づいてきた。車種も色も伝えているので、きっと確認しに来たのだろう。自分も車から降りて手を振った。
「涙太君、おはよー。みて、これ、後ろが猫になってるの!」
リナは涙太に背を向けて見せた。
「本当だ、パーカの裏に猫がいる。かわいい」
「でしょ。これ、自分で描いたんだよ」
「え!そうなの。すごいな。……ていうか、今日髪型いつもと違う。いいね。」
「涙太君の雰囲気の真似。涙太君なんか不思議な感じだから。」
リナは底のほうから笑いながら話をする。かわいい。
二人は車の中に乗りこみ、なおリナは会話に途切れがない。
「空港なんていつぶりだろう。着いた頃にはご飯向こうで食べられるね。何食べようかな。ね。」
「あ、うん。」
「ちょっとー、しっかりしてよー!。宝賀涙太発進!」
十六
リナは背が高くて、180ある自分の隣に並んでも、数センチしか違わない。感性が独特で、フードコートの水を取りに行くときのことを、「カランカランしてくる。」なんて言ったりする、
明るくて素直な笑顔はとても愛らしい。
「こんなところで家系ラーメン食べられるとはね」
「俺も久々に食べた。うまい」
フードコートの一角に座り、ガラス張りの壁から差し込む快晴の心地が二人を照らしていた。
食べ終わり皿を戻しに行くときに、台湾でのあの人の面影を見てしまった。胸がえぐられる思いだった。夢の中で言っていた。本当はあの時、呼び止めてほしかったと。
二人はラーメンを堪能してから、ショッピングをした。
「私さ、黒髪にしようかなーって思ってるんだけど。」
たしかに初対面の強烈さは、本来、華やかさと言うより、凛としていたからだったのかもしれないとも思った。だとしたら、黒の方が似合うかもしれない。
「似合うと思うよ。」
「ほんと。ありがと。」
リナは前髪を触ってから、少し気恥ずかしそうに笑った。
やり切れない思いだった。夢に出てくる彼女にまだ話ができるんじゃないかと思ってしまうし、台湾で出会った目の大きな彼女も忘れられないし、だから、夏野菜を食べると、夢に出た涙ボクロの少女を思い出すし、魯肉飯を食べるとあの大きな瞳が吸い寄せてくる。
感傷に浸り、今の出会いを大切に出来ないなにかが影を作る。
十年経ったら。もう完全に違う運命をたどる地球の住人だと思うと悲しくなる。
結局、自分の人生を振り返ると、きちんと想いを伝えなくてその場限りの関係で終わっていた。ならば今日でなくても、リナ氏にいつかちゃんと好きだと言わないと後悔が増えるだけだと思った。
ありがとうございました!感想、評価など頂けるととてもうれしいです。とりあえず星だけでも!