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其の一

「思索なんかする奴は、

 枯野原で悪霊にぐるぐる引きまわされている

 動物みたいなものです。

 そのまわりには美しい緑の牧場があるのに。」

 

新潮文庫 『ゲーテ格言集』「人生の憂うつ」 高橋健二 編訳 p195 


 鬱屈とした感情が体を取り巻き、これは自分のものではない黒い靄であることも明らかであり、私はこれをどう、気分良く処理しようかと考えていた。

 寝込めば、つまり好きなだけ布団に籠ると言うのも一つの方法ではあるが、それは私の選択肢になかった。できないというわけではなく、私の中でそれが不快感を及ぼすからだ。

 外を歩いて、冷たく白い空をしたビーチを目指した。砂浜を裸足で歩いていると、体の電磁波が抜けていき体内の素粒子運動を乱すモヤを解放できるからだ。


 いわゆるアーシングという行為だが、これを公園の砂場で行うと子連れの母親たちに怪訝な眼を向けられてしまう。やはり私の行動をも肯定してくれるから、海は心が広くて大好きだ。


 自分のことを悪魔のように感じてしまう時、決まって私の胸は穢れている。よく考えたら、それすら愛すべき自分自身なのだが、そう思えない。

 神に祈りを込めてたどり着いた細粒の広場、鼓動のような波、乾いた海風。海水浴場の春。ビーチサンダルを両手に持ってコンクリートから一歩踏み出してみると、髪が不自然に温かく感じた。

 

 あの人は絶対に会ったことのある人だ。心の奥底で、海辺に立ちながら佇む女性を見て思った。それは薄い確信で、表層の思考では、この人は大丈夫だという思いだった。見知ったような気がするが、どうも思い出せない。やっぱり初対面だろうか。

 髪をかき上げるぐらいで、あとはマネキンのようにずっと座って動かないので、私は只々通り過ぎたのだった。



 数日が経ち、私は体術を習うために学校に行った。そこでまた、海辺で見かけた彼女がいた。なんだか、それは当たり前のことのように感じたし、出かける前に靴ひもを固く結んだとき、何か石でできた運命の歯車が回転をし始め、炭酸の入ったビタミンドリンクみたいな色のエネルギーが石の歯車にまとうイメージが浮かんだのだ。

 彼女の髪はそんなエネルギーの輝きを淡くしたような金髪で、黄色の成分はくすんでいるような気もするさらさらとしたロングヘアだった。背丈は165cmほどでシルエットは華奢だけれど、どこか力強さがあって、彼女の精神性にそれは大きく反映されていると思った。彼女は見知った人でないのに。

 どうやら新入りは自分だけみたいで、まだ、講師の人が居ないので、生徒の中の快闊そうな人が私に話しかけた。

「君、背高いね。初めて来て唐突だけど、みんなの連絡先グループに入れてもいい?」

「はい、お願いします。」

 追加したグループには「体術サークル」と名付けられていた。

 そうなのだ。ここは大学で、体術の学校と言うわけではなくサークル活動なのだ。

「実は今日は先生が来ないんだ。」快闊な男は、花前はなさきと名乗り、自分も、宝賀ほうが涙太るいたです。と名乗った。

「みんな、宝賀涙太くんだ。仲良くしてやってね!」

 花前が十人程の部員に呼び掛けると、「はーい。」とか、「よろしくね。」と次々気のままに口を開いた。

 金髪の彼女は、片足に重心をかけて笑いながら話し込んでるのに、体術素人から見ても体幹にブレがないことがわかる。なんだろう、背中の独特の張りがあるというか。

 そもそも体術って何なんだろう。紙コップを念力で少し動かしたり、八割でカードの透視ができる超能力は高校の研究会で伸びた能力なのだが、体術もそのノリで入ってしまった。

 彼女が友達に断りを入れて、背筋を伸ばして揺れないで彼女が私に近づいてくる。なぜかその顔は、私に興味津々の様子だった。

「ねえ、」目を輝かせて肩を叩く。

「はい。」失礼の無いよう振り向く。

 彼女は周りに気づかれないようになのか、歩きながら目を逸らして近づいてきて、静かに耳元で囁いた。

「あなたさ、魔法使いっしょ。」

「え?」


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