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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

わたくしの婚約者は阿呆ですから。

作者: めるめる琉

「ミールハルマ! 俺は貴様との婚約を破棄し、真実の愛で結ばれたこのアマンダ嬢と結婚をする」


 あらあらまあまあ。今日も今日とてわたくしの愛おしい阿呆の婚約者様は可笑しなことを叫んでおられます。


「まぁ、ハーマス様。そんなに大きな声で」

「ここにいる者たち全てが証人だ! 貴様がアマンダにした非道な仕打ち、今この場で白日の元に晒してやる!!」


 あらあらまあまあ。こんな貴族も通う学園のパーティーで、たかだか子爵子息のぼんくら息子が一体何をしているのかしら。


「ハーマス様、今はそのようなことをするような場ではございませんわ」

「黙れ! 貴様はそうやっていつも俺のことを馬鹿にして! そう言う態度が気に入らないのだ!」


 あらあらまあまあ。大変ですわ。

これだけ衆目を集めたら、大変なことになりますわ。取り返しがつかなくなりますわ。

落ち着くのですわたくし。

慌てて扇子で口元を隠して、ほんの少し困ったように眉を顰めて小首を傾げます。

扇子の下では、婚約者である男のあまりの愚行に失笑してしまいます。


本当に、わたくしの婚約者は阿呆ですわ。





 ハーマス様は子爵家の一人息子。そして伯爵令嬢であるわたくし、ミールハルマの婚約者ですの。


 わたくし、ハーマス様に恋愛感情はございませんが、嫌いではありませんの。弟のような存在……というと、語弊がございますわね。

 この男、昔からもう阿呆で阿呆でどうしようもない馬鹿な男で、まあそこも可愛いところよねと思っていたのに、学園に入学してからの阿呆っぷりは全くもって目を見張るものでございましたの。


 阿呆の性の目覚め。下半身の欲望を解き放った阿呆は己の欲望のために突き進みましたわ。

阿呆のハーマス様はコネ入学で、貴族の授業についていくこともできずに多くの平民たちと同じクラスにおりました。

わたくしですか? わたくしは勿論特進クラス。学年でも上位三人から漏れたことはございませんわ。

そのハーマス様がお選びになった娘が、アマンダ様。

平民でありながら、それはそれはとても可愛らしく、そしてそれはそれは大きなお胸とプリッとしたお尻をお持ちの方でしたわ。

婚約者のわたくしから見ても、とてもお似合いの……その、お馬鹿さん? というのかしら。なんだか幼な子のカップルのようなおふたりでしたの。


「ハーマスさまぁ、アマンダなんだか胸がきゅんってしますぅ〜」

「アマンダ! 俺もだ! 君を見てるとギュンッ! となる!!」

 という会話を実際耳にした時は、浮気云々よりも、小さい弟の初恋を見守るような甘酸っぱい気持ちと、なんとも恥ずかしい気持ちになりましたわ。


 そして、ちょっと羨ましくもありましたの。

わたくし、ハーマス様と婚約して8年、まともにハーマス様と会話できたことがございませんの。

それなのにアマンダ様はハーマス様と楽しくお話ししていますの。わたくしには、とてもできないことですわ。





「非道な行いなど全く身に覚えがございません。ハーマス様、きちんとお調べになりましたか?」

「何を言う! アマンダの証言があるのだ! 良いか、貴様とは婚約破棄だ!」

 ハーマス様が高らかに叫んだその時でした。

「そんなに言うのなら、婚約破棄すればいいわ。今この場にいる皆がハーマス子爵令息の不貞行為の証人だもの。ね?」

「なっ……」

 思わぬ横やりに絶句したハーマス様が口を開く前に、会場中から拍手が沸き起こりました。

「良かったわねミールハルマ」

 現れたのはわたくしの親友のビアンカ様でございました。

「はは! ようやく婚約破棄か。おめでとう」

 付き添われているのはビアンカ様の婚約者の公爵子息ドルマン様。

「おめでとうございます!」

 二人に触発されるように、周りからは歓声が沸き起こります。

皆様も、お二人の目に余る言動を目撃してしまった被害者のような方たちですものね。


「……ありがとうございます。でも政略結婚は貴族の義務と心得ておりますの。わたくしもハーマス様と結婚すると覚悟していましたのよ」

「……み、見苦しいぞミールハルマ! 無様に俺に縋りおって!」

 ああ、阿呆のハーマス様は、こんな状況でも元気いっぱいですこと。まぁ、元気だけが取り柄ですものね。


「とりあえずハーマス様、アマンダ様がされた非道な行いとやらをまとめておいてくださいます? あとで全部論破して差し上げますから」

「なんだと! 証拠などなくとも、皆も見ているはずた! アマンダは罵倒され、物を盗まれ、噴水に突き飛ばされ、階段から突き落とされたのだぞ!」

「あらそうなんですの? どれもこれも初耳ですわ。皆様もご覧になったことはございまして?」

 周りを振り返れば、誰もが首を傾げ、名乗り出るものは現れない。

「嘘よ! みんなミールハルマ様の味方をしているのよ!! 信じてドルマン様!」

 あらあらまあまあ。そこでどうしてドルマン様の名前が出てくるのかしら。

どうせお馬鹿さんだから身分も高くて容姿も優れている公爵子息のドルマン様に粉をかけるつもりなんでしょうけれども、残念ながらドルマン様はわたくしの親友のビアンカ様と相思相愛なのよ。

と言うかこの子、ビアンカ様がどういう方なのかご存じないのかしら? 本当、類は友を呼ぶのね。この子も本当お馬鹿さん。お馬鹿も過ぎると可愛くありませんわ。

ほら見てドルマン様が不快そうに眉を顰めてしまわれたわ。お可哀想に……。でもビアンカ様は相変わらず完璧に微笑んでらっしゃっるわ。さすがですわ。わたくしならきっと、扇子の下で嘲笑してしまいますわ。


「それならば、学園の映像記録を見ればいいんじゃないかな?」

 あらあらまあまあ。ドルマン様が面白いことを提案しましたわ。

「ちょっと、何よ映像記録って……」

 慌てるアマンダ様の声。やっぱりお馬鹿ね。それじゃあ嘘をついていたのだと自供しているようなものじゃないかしら。


「確かにそうね。ミールハルマがそんなことするはずないもの。映像を見れば何よりもの証拠になるわ」

 あらあらまあまあ。ビアンカ様までそれに賛同されて……。いつもの完璧な笑顔もどことなく意地悪く見えますわ。そんなことをされたら、アマンダ様の虚言が完全にばれて、騙されたハーマス様が道化のようになってしまいますわ。

「いけませんわ。流石にそれはお可哀想ですもの……」

「やはりミールハルマ! 貴様はアマンダを虐げていたな! 映像記録を証拠に訴えてやるぞ!!」

 ああもうどうしてこうも阿呆なのかしら。裁判なんかになったら、絶対勝ち目はありませんのに。

「いけませんわハーマス様。全てアマンダ様の虚言なんですのよ? きちんとお調べになってからにしないと」

「黙れ! 貴様はそういつもいつも俺をいいように扱いおって! 貴様の罪を白日の元に晒してくれるわ!!」

 あらあらまあまあ聞く耳もたずですわ。困りましたわ。


 そんな困った様子を見せたわたくしを見て何故か勝利を確信したハーマス様は、ドルマン様の提案に乗って映像記録を確認することになりましたの。

わたくし以上にアマンダ様が大慌てですけど、ハーマス様はそうと決めたらお譲りにならない方ですものね。

ほら見て? 勝利の美酒に酔ってこちらを見てニヤニヤしておりますの。

もう、負け確定なのに、本当にお馬鹿で可愛いお方。



 そうして公開された映像記録に映っていたのは、当然自作自演でいじめを偽装するアマンダ様。

よりによって学園の舞台に投影されたそれに、ハーマス様は絶句しております。

ですがアマンダ様の自作自演など皆わかりきっていたことで、ハーマス様以外は驚きもしませんでした。しかし問題はここから。


 平民を虐げるハーマス様とアマンダ様。

学園の備品をふざけて壊すハーマス様とアマンダ様。

ハーマス様とアマンダ様が淫らな行為に耽る映像まで流れて、もう生徒も教師も大パニック。


『そこのあなた、ハーマス様がごめんなさいね? お怪我はしていないかしら……詫びの品を後でお渡しさせて頂きますわ。何か困ったことがあれば、我が伯爵家が助力いたします。本当に申し訳なかったわ』

『業務員さん、申し訳ございません。ハーマス様がこれを壊してしまいましたの。わたくしの私財から弁償致しますわ……本当にごめんなさい』

『ここは今立ち入り禁止なの。中庭には入らないでくださる? あ、ごめんなさい覗かないでくださいな。猫に春が来ているみたいで……』

 そしてどうしようもないハーマス様の尻拭いに奔走するわたくしの姿も投影されて恥ずかしいやら何やらで……。最後など、ハーマス様とアマンダ様の逢瀬の時間をお守りするそんな役回りに、『全くもう、ハーマス様ったら。本当に節操なくなってしまって。またアマンダ様に避妊薬入りのお菓子を用意しないと……』

 そんな独り言までバッチリ放映されてしまいましたの。

因みに避妊薬入りのお菓子は男子生徒に差し入れとしてお渡しして頂いておりましたわ!


 そんなハーマス様への献身がバレて恥ずかしがるわたくしにドルマン様とビアンカ様が気をかけてくださり、わたくしの独り言など打ち消すようなアマンダ様の動向を映し出してくださいましたわ。


 わたくしは恥ずかしさのあまり悶えておりましたが、あとから聞いた話ですと、アマンダ様が平民の女生徒を虐めている映像や、学校の備品や他の生徒の持ち物を盗みになられているところが映し出されていたみたいです。その後はもう、ハーマス様とアマンダ様のド修羅場でございました。


「もうお前など知らぬこの盗人め! 俺はやはりミールハルマと結婚する!」

 とハーマス様が宣言されてわたくしの意識は再浮上。

一度は婚約破棄は了承みたいな雰囲気になりましたが、わたくしハーマス様のことは嫌いではありませんのよ? 弟のような存在……というと、語弊がございますけれど。


 そうしてなんだかんだで婚約は覆されることはなく、わたくしは学園を卒業後ハーマス様と結婚することになりましたわ。


――勿論、ただ結婚するわけではございませんけど。





 その話し合いは、王城で行われました。

「子爵家はハーマスはお飾りで、実質ミールハルマが実権を握るのでしょう? 後継の子ができたあとは、ハーマスは去勢しましょう」

 と、にこやかにビアンカ様がおっしゃいます。

「それとも去勢だけではダメかしら? 始末してしまう? どうせお飾りの領主なんていらないもの。子供が育つまで、ミールハルマが子爵領主になればいいじゃない」


 その場には、わたくしとハーマス様。わたくしの両親の伯爵夫妻に、ハーマス様のご両親の子爵夫妻。ビアンカ様とドルマン様がいらっしゃいます。


 ハーマス様はずっと床に頭を擦り付けて泣いておられますわお可哀想。

「私はミールハルマは婚約破棄して子爵家は断絶してもいいと思うの。無能な後継者ハーマスじゃあ、領民が可哀想だもの。それにこれはお父様……国王陛下のお考えでもあるのよ?」

 王位継承権第一位で、次期女王であるビアンカ様はそうおっしゃいます。


 もともと子爵家の財政は火の車。その上ハーマス様はポンコツ。そこで白羽の矢が立ったのがわたくし。優秀なわたくしがハーマス様と婚約して子爵家を盛り返す……とのことでした。


「婚約破棄してしまいなさいなミールハルマ。あなたは私が面倒を見るわ」

「嬉しいお言葉ありがとうございますビアンカ様。でもわたくし、幼い頃からハーマス様と婚約しておりますの。それに子爵領への責任も情もございますわ」

「ミールハルマ!」

 ハーマス様が涙でぐしゃぐしゃになったお顔を上げます。お顔を上げて良いという許可は貰ってないでしょうに。子爵に怒られておりますわ。うふふ! 本当に可愛らしいお方。


「子供も沢山欲しいですし、去勢もしなくて良いですわ」

「ミールハルマ……ミールハルマ……俺はお前を、誤解していた……。学園でも、いつも守ってくれていたし、俺は本当に……なんてバカだったんだ……」

「あらあらまあまあハーマス様……」

 わたくしは微笑んでハーマス様を見下ろします。


「いいですのよ。ハーマス様。許して差し上げます。これから二人で、子爵家を盛り立てていきましょうね?」

 わたくしの言葉に、ハーマス様は再び泣き崩れました。


「仕方ないわね……。それが本来の取り決めですものね。今回は学園で起こったこととして丸く収めてあげるわよ。でも子爵家夫妻は責任を取らされるわ。これは陛下から勅命がくるけど、仕方ないわよね。本当この程度ですんで良かったわね。ミールハルマに感謝するのよ?」

 ビアンカ様がそう締めくくりました。

これから大人たちが奔走することになるのでしょう。



 ああ……これでしばらくは、ハーマス様は大人しくしているでしょうね。

わたくしに感謝をして、わたくしに頭が上がらず、わたくしの言いなりで、わたくしの尻に敷かれるのでしょう。

本当に可愛い、わたくしの愛おしい婚約者様。





「次に不貞行為及び、ミールハルマ及び伯爵家に害を及ぼすようなことがあれば、薬でおかしくしてしまいましょう」

 後日、ハーマス様を除いた者で取り決めた条約です。

伯爵夫妻、蒼白になった子爵夫妻が書面に判を押します。

立会人は、ビアンカ様とドルマン様ですわ。


「うふふ。その時は、アマンダ様にハーマス様を差し上げましょうか」

「あら、相変わらず優しいのねミールハルマ」

「だって、アマンダ様お可哀想でしょう? せっかく貴族になる夢を持たれたのに、娼館送りだなんて……」

 アマンダ様を娼館に送ったのはビアンカ様です。

窃盗罪で腕を切り落とされ、子爵令息をたぶらかした罪で娼館送りですって。本当お可哀想な方。

「なりふり構わず結ばれたいと願った男と一緒になるんだ。泣いて喜ぶだろうさ」

 ドルマン様もそうおっしゃいます。

「そうですわね。きっとアマンダ様も喜んでくださいますわね。その時は子爵家の地下に二人の御住居を用意してあげましょう。鉄格子付きにはなりますが」

 わたくし、ハーマス様を心の底から愛おしく思っているのですもの。アマンダ様との恋を成就させてあげられなかったこと、本当に申し訳なく思っていますのよ?

「その時は、アマンダ様も一生面倒見て差し上げますわ。ハーマス様を去勢しないお約束ですから、無用なトラブルを避けるためには、アマンダ様に子ができない処置をしなくてはならないですものね」

 きっと喜んでくれるわ。なにせ真実の愛で結ばれた相手なんですから。


「子供は三人は欲しいですが……それまで持ってくれるかしら?」

 わたくしはそう疑問を口にしました。

 ビアンカ様もドルマン様も、伯爵夫妻も笑っております。子爵夫妻は、もう何も喋りません。


「まぁ、無理でしょうね」


 わたくし、ハーマス様に恋愛感情はございませんが、嫌いではありませんの。弟のような存在……というと、語弊がございますわね。

ハーマス様の行動は本能的で利己的、会話も支離滅裂。常識が通じない、阿呆でどうしようもない生き物。見た目は美少年だから、観賞用の珍獣ペットと思っておりますの。


 だから、薬でおかしくなったとしても変わらないのです。

害を成す阿呆が、害を成さない阿呆になるだけです。


「全く、わたくしの婚約者は阿呆ですから」

数ある作品の中からこの小説をお読みくださり、ありがとうございます!


連載中の「全てを許した聖女様」

https://ncode.syosetu.com/n0351hw/

阿呆に比べたらだいぶシリアスですが、こちらも宜しくお願いします(^-^)

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