はぷにんぐ発生です!
あれから二週間、運動会もとうとう明日に迫っていた。
そんな中、俺たちはいつもどうりに近くの公園で練習を行っていた。
「はあっ……どうですか、涼くん……はあっ……」
「おう。凄いぞ陽和。7秒9だ」
本当に最初と比べたら、二週間で本当に頑張ったなと思う。
まあ、比べる内容がひどすぎるだけなのだが、それは敢えて言わないでおいた。
「そんなにタイムが縮まるなんて……本当に涼くん様様ですね」
「俺は補助に回ってただけで、頑張ったのは陽和自身だ。ホント、よく頑張ったよ」
「またそうやって自分を棚から降ろす……。本当に涼くんがいなかったら私はここまでできていませんからね?」
「まったく……」と呆れ気味にため息をつかれる。
最近となって、こうした遠慮のない会話が多くなってきた。
流石に最初は遠慮気味に話していたはものの、料理を作ろうとする陽和を怒鳴る度に遠慮していた自分が馬鹿らしくなってきてしまったのだ。
「あれ?涼……?」
俺が内心で陽和に対する苦労を思い出していると、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
ふと振り返ってみると、そこにはとてもチャラそうな……んんっ!もとい流星がいた。
「おお、やっぱり涼か。珍しいな。涼が公園なんて」
「お前こそどうした。バスケ部は運動会準備担当のはずだろ」
「俺の内なる声が遊べとうるさくてなあ」
「要するにサボったと」
冷たい視線を送ると流星は「そんな目で見ないで?うふん」と気持ち悪く体をしならせる。
「……それで、なんで涼が櫻井さんと居るか説明してもらおうか」
そうニヤニヤしながら言った流星の視線の先には陽和がいた。
とりあえずニヤニヤがイラついたので脛を蹴ってニヤニヤを苦痛の表情に変えておいた。
「別に。たまたま知り合っただけでそこから付き合いが続いてるってだけ」
「……ほんとにそれだけかー?」
「……流星。学校中に十三又してるのをバラされてカノジョたちに愛想を尽かされるか、大人しく引き下がるか選べ」
「ぐっ!今日のところは見逃してやろう。だがいつか……」
「逆襲してきたら問答無用でバラスからな」
「さーせんした」
きれいな土下座をかます流星を見て、今日はよく眠れそうだと内心でにやついた。
10
「あの、口止めしておかなくてよかったんでしょうか……?」
流星が帰った後、俺たちも帰ろうということになり、その帰路の途中で陽和がそんなことを口にした。
「あー……。あいつ、結構節操ないけど本当に嫌なことはしてこないから大丈夫……だと思う。」
「本当に大丈夫なんですか、それ」
そこまで疑念を抱かれてしまうと、こちらとしても何も言えなくなるので流星に申し訳なさが出てくる。
流星……、お前の知らないところでお前に対する好感度がちょっと落ちたぞ。
「そんなことよりも、今日はデザートにプリン作ってあるぞ」
「ほんとですか!?」
とりあえず食べ物で釣っておこうと言ってみれば、陽和は目を輝かせて反応してきた。
実は陽和があまり料理が得意ではないと知り、心配で仕方なく毎日俺の料理をごちそうしているのだが、まさかここまで食いついてくるとは思わなかった。
「お前、本当に甘いもの好きだよな」
「涼くんがつくるものでしたら何でも食べますよ?」
無意識なのだろうが健気なことを言ってきて、顏が羞恥に染まる。
だが、陽和はそんなことには気づく気配すら見せずに続けた。
「あっ、でも掃除はきちんとこまめにしてほしいですね。人は料理できるだけで食っていけると思ったら大間違いですよ」
「へいへい。ちゃんとしますって」
「この間もそう言って結局は私がしたじゃないですか」
呆れられた目線を送られてきて少々呻く。
確かに料理は得意だが掃除は大の苦手なのだ。今は陽和に任せっきりだが、もしも陽和がいなかったらと思うと……背筋に悪寒が走った。
「ぜ、善処します……」
「ほんとですかねえ」
改めてちゃんとしようと思った瞬間は一瞬にして疑念へと変わってしまったのだった。