世界一可愛い君の家事力
「あー、疲れたー」
俺はエレベーターの中で体を伸ばし、硬くなった体をほぐしていた。
ちなみに流星は朝言っていた通り、カノジョの一人とデートだそうだ。
「しっかり営んでくるぜ」と満面の笑みで言われたのでとりあえず「刺されて死ね」と言っておいた。
そんなことを思い出しているとエレベーターがピンポンと軽快な電子音を響かせて扉が開く。
とりあえず一昨日、スーパーで買いだめしておいたので今日は勉強やら読書やらと時間をつぶそうと自分の家の扉を開けて中へと入る。
すると、中には誰もいないはずなのになぜか栗色の髪をゆらりとたなびかせる少女、陽和が俺の家の中にいた。
「おかえりなさいませ。冬島さん」
なんかナチュナルにお帰りなさいって満面の笑みで言われたけど、今、内心では物凄く怖い。
だが、そんな恐怖を抑え込み、俺は質問するべく口を開いた。
「お前、どうやって家に入った。というか不法侵入で警察に通報するけど構わないよな」
「いやいや、構いますよ!?」
珍しく声を荒げて突っ込んできたので思わず笑ってしまった。
「わ、笑わないでください……」
「悪い悪い。それでどうやって家に入ったんだ。鍵はバッチリ閉めていたはずだが?」
笑ったことに対して謝りながらそう質問すると、陽和は「反省してないですよね」と不服そうに睨んだ。
「その……叔父様に冬島さんの家の中は汚いから掃除しといてくれと……」
「おっちゃんバカなの?」
とてもじゃないが、叔父がすることとは思えない。
確かにゴミ屋敷にしていた自覚はあるが、それを姪にやらせるとか……ん?ちょっと待てよ……。
よくよく考えれば俺のせいじゃね?
「流石に最初は遠慮しましたよ?ですけど叔父様に冬島さんの部屋を映した写真を見せてもらって、これはもう私がやるしかないなと……」
俺が内心で妙な思考を繰り返していると、陽和が申し訳なさそうに言った。
流石にこんな表情を見ると責める気がなくなってしまう。
俺は「はあ…」と陽和に聞こえないくらいの小ささでため息をついた。
「あっ、あと夜ご飯もついでに作っておいたので手洗いうがいをしたら早速食べましょうか」
「えっ」
こんな間の抜けた声を出してしまったのはしょうがないことではないだろうか。
陽和のこの言い方だと夜ご飯も一緒に食べるといってるもんだ。
「お前、いいのかよ」
「はい?何のことですか?」
有無を言わせぬようなパーフェクトスマイルを向けられた。
あっ、こいつ話聞く気ないな。
「冬島さん」
「ハイハイ」
もう何を言っても無駄そうなので従順に手を洗うことにした。
7
「どうぞ。オムライスです」
俺がテーブルの席に着くと、日和はそう言って明らかに言っている料理名とは全く違う物体を俺の目の前に置いた。
「……お前、今なんつった」
「オムライスですと言いましたけど」
俺はもうバカ野郎と叫びたかった。
本人がオムライスだと言っているが、俺の目には白いご飯の上に黒い物体を乗せた明らかに人前に出してはいけないものが映っている。
「櫻井。お前、普段料理するか?」
「いえ、今日が初めてです。けどおいしそうに出来てよかった」
…………大馬鹿野郎と叫びたくなった。
どこがオムライスだ。どこがおいしそうだ。そもそも料理の概念から学びなおしたほうがいいと言うべきレベルである。
「何してるんですか?早く食べないと冷めちゃいますよ」
流石にいつまでもオムライス(?)を睨んで不思議に思ったのだろう。早く食べろと急かしてきた。
ええい。いつまでもこうしてちゃ作ってくれた人に迷惑だろう。
大丈夫だ。毒ではあるまいし、死にはしないだろう。
さっきから黒い物体から「おおおおお」という悲鳴が聞こえてくるのもきっと気のせいだ。
俺は覚悟を決め、スプーンを手に取り、オムライス(?)をすくいあげて口へとほおりこんだ。
「ぐはっ!」
無論、テーブルに突っ伏した。
うおおお!まずいいいいいい!
去年、バレンタインで緋色が「本命チョコだよ♡」と言いながら渡してきたチョコがあったが、それもかなり酷く、丸一日寝込む羽目となった。
だが、これはそれをはるかに上回り、最早俺の体中の細胞が拒絶反応を起こしている域にまで達している。
「ご感想は?」
俺が料理の不味さに奮闘しているのは露知らず、笑顔で陽和は聞いてくるので、俺は必死に意識を留めながら口を開いた。
「これからは俺が作ります……」
……その日から、俺の家のキッチンの入り口付近に「涼以外立ち入り禁止」という張り紙が張られたことは言うまでもない。