学校での生活
その日、夢を見た。
まどろみの中、家族と笑い合っている夢。
二度と戻ってこない幸せをかみしめてる、そんな夢。
俺はそんな幸せをつかみ取りたくて、確かな感覚のある右手を精一杯伸ばした。
刹那、熱く赤い炎が現れ、つかみ取ろうとした幸せが焼き払われ、俺の周りを包み込んだ。
「っ!」
俺は言葉にならない悲鳴を内心で上げた。
そして炎は人のような形に変形していき、やがて形作られた口が開かれる。
「あなたなんていっそ……」
「っ!」
俺は瞼を開き、ベッドから飛び起きた。
「またか……」
ここ最近はこの夢をよく見る。
というよりかは4年前頃からずっとこの夢を見続けているばかりだ。
「……夢と分かっててもつらいな」
俺の息は絶え絶えにも等しいほど荒れてるし、何より涙が頬を伝っているのが感じ取れる。
……ああ、考えてもしょうがない。
俺はとりあえず、滅入るような表情をしているであろう現状を洗い流すべく、洗面所へと向った。
5
「オース、すずー。相変わらず死んだ顔してんな」
「朝っぱらから失礼な感想をありがとう」
俺が教室に入ると、中学からの親友、というより悪友である少年、椿流星が失礼な感想とともに挨拶をしてきたので、軽いツッコミを入れながら挨拶をしておく。
「あ、涼。今日って部活なしだっけ?」
「おう、そうだが。何故そんなことを聞く」
「いやー、またカノジョの一人がさ、今日デートしよーってラインがきた」
そう言いながらスマホのチャットアプリを見せつけてくる流星に大きなため息を一つつく。
この椿流星という人間は何人もの女性と良好な関係を持っていて、はっきり言うのであれば人間性のない者といっても差支えのないようなヤツなので、この学校での評判はあまりよろしくない。
「お前、昨日も行ってなかったか?何人の女の子を侍らせてんだよ」
「今のところは13人だな」
「うん。死ね」
俺が誠心誠意、丹精込めて言った言葉でも流星はケラケラと笑うばかりなので本当にクズな奴だなと思う。
「おいおい、俺は誠実な気持ちで女の子と向き合ってるんだぜ?勇気を出して告白してきた子に淡々と断るのは俺のポリシーに欠けるってもんだ。ならいっそハーレムを築いちまった方が俺も幸せ。告白してきた子たちも幸せ。正にWinWinじゃないか」
「お前、それ単に堂々とハーレム作ります宣言してるだけだぞ」
「大丈夫。責任はとる」
「いつかお前が女の子に刺される日が来ることを切に願ってるよ」
こいつ、いつか絶対に刺されるなと心の中で期待していると、何やら廊下が騒がしいことに気が付く。
「おっ、何やら騒がしいですなあ」
「見に行ってみるか?」
俺がそう聞くと流星は「そうだな」と頷きつつ廊下に向かう。
俺も荷物を机の横にかけ、廊下へと向かうと、騒ぎの中心にいる人に目を向ける。
「ねえ、櫻井さん。今日、放課後暇?暇ならちょっと遊ばない?」
その者こそ昨夜、隣人だと発覚した少女の櫻井陽和だった。
「なあ流星。コレって何がどういう状況なんだ」
「お前、櫻井さんが今話しかけている人知らねえの?」
俺が「知らん」と言わんばかりに首を横に振ると、流星は呆れ気味にため息をついた。
「あの人、そんな有名なん?」
「有名も何も、今話題になってる高校生俳優の佐神渡だよ」
あー、どうりでどこかで見たことのあるイケメンだなと思った。
どうやら渡が今、陽和に遊びのお誘いをしている最中なのだろう。
その光景を見ていたギャラリーがだんだんエスカレートし、ここまでの人数となったのだろう。
そのお誘いを受けている当の本人の陽和は笑みを一切崩さずに口を開いた。
「すみませんが、今日は用事がありまして、お誘いはお断りさせていただきます」
淡々とした素っ気ない返事に渡は狼狽え、周りはさらにザワザワとさわぎだした。
ちなみに隣にいる流星はこれ以上ないほどニヤニヤしていた。
どうやらイケメンが遠回しではあるがフラれた瞬間を見れたことが嬉しいようである。
……性格悪すぎん?
俺が流星にニヤニヤはやめとけと注意しようとした瞬間、学校のチャイムが学校全体に響き渡った。
そのチャイムを聞くや否や、群がっていた者たちが自然と教室へと戻っていった。
流石に、俺たちも席につかなきゃいけないので、教室へと足先を向けた瞬間、陽和が一瞬こちらを見た気がしたが、チャイムが早くしろと言わんばかりに響き渡るので、足早に教室へと歩みを進めた。