アホ共の末路
何とか騒ぎの根端を解決させた俺たちは、お参りを済ませる前に、駆けつけた警察官に事情聴取をされていた。
「それで、傷を見るに10センチ辺りの刃物で刺されたと思われます」
「なる程……。ありがとうございます」
はぁ……。何が悲しくて警察官に事情聴取されなきゃいけないんだよ。いや、俺は何も悪いことはしてないし、むしろ功労者だ。
ただ、あそこまでの処置を施した高校生となると、当然怪しまれる。
面倒臭い世の中だなぁ……。
「あの、もういいですか?人を待たせてしまっているので時間は掛けたくないんですけど……」
「あぁ、すみません。でしたら、次の質問で最後にしましょう」
俺が恐る恐る尋ねると、警察官が申し訳無さそうな顔でそう言ってきた。
うっ……。すみません。そんな顔されるとこっちが申し訳無くなるから止めてもらっていいですか。
そんな思いも露知らず、警察官はメモを握りしめながら最後の質問を投げかける。
その質問は―――。
「――コードネーム『烈』という者に聞き覚えはありますか?」
「っ!」
コードネーム『烈』。
世界で特に暗躍している暗殺者。
俺の母と父の仇でもある。
俺は『烈』の名を聞いた次の瞬間、それを口にした警察官に掴みかかっていた。
「『烈』が、今、日本に居るんですか!?」
「それは分かりませんが、それらしき痕跡が最近多々見られるんですよ。なので、警察で対処しているのですが……」
『烈』は今まで、沢山の人を「国の発展の為に」という言い訳を下に殺してきた。
ただ、そんなこと、一介の医者として見過ごすわけにはいかない。
この世界に、命より尊いものなど無いのだから。
「――あのー、放していただけるとありがたいです……」
「え、あ、ごめんなさい。少々興奮してしまいました」
俺は慌てて警察官に掴みかかっていた手を放す。
「それならいいのですが、余りに好戦的だと、取り押さえる必要性が出てきますので」
「マジでサーセンした!」
全力で平謝りをかますと、「いえいえ、いいんですよ」と笑顔で言ってくれた。天使だ……!
「それより、やはり『烈』のことを知っているんですね」
「まあ、過去に間接的に因縁ができまして……」
「なる程…、それで……。」
警察官は、全てを見通すような目でこちらを見てくる。
え、俺、なんか変なこと言ったか?
しかし、しばらくして、警察官が再び口を開いた。
「その因縁というのは……」
「涼くん、無事かい!?」
警察官の言葉を遮るようにこの場に現れたのは、アキの父、萩原隆平だった。
この人、留守番のために家に居たのだが、アキの母に全て投げて来たのだろうか。
ご愁傷様です……。お母さん。
「涼くん、服が破けているけど怪我は無いんだね?」
「あ、はい。大丈夫です」
「そっか、良かったぁ……」
隆平さんは安心したのか、ホっと小さく息をついた。
本気で心配してくれる辺り、やはりいい人だな。
恐らくアキから聞いて、純粋にとても心配して来てくれたんだろう。
俺はその気持ちが嬉しくて隆平さんに優しい言葉を掛けようと――。
「君は秋穂の婚約者だからね。何かあったらと思うと秋穂が悲しむ」
「…………え?」
え、ちょ、ちょっと待て。
俺と秋穂が婚約者?
いやいや、聞いてもいないんだが。
あ、もしかして、親父が勝手に許嫁にしてたとか?
なら、もう親父はいないから婚約云々は俺が無しと言えば無しになる。
そんなこんなで俺が混乱していると、隆平さんが「あれ?」と不思議そうに首を傾げた。
「もしかして覚えてないかな?昔君がよく言ってたじゃないか。『僕とアキは将来結婚する』って」
「昔のおれ何言っとんねんアホおぉおお!」
「ちなみに、秋穂はこれに対して快く『うん!』と返していたよ」
「昔のアキも何言っとんねん!」
「違うのかい?」
「違うも何も、それは子供の頃の口約束でしょ!?」
「え?」
「え?」
……………………………………。
「…………………さて、それじゃあさっさとお参りして帰るとしますか!」
「涼くん、逃さないよ」
48
あの後、隆平さんからそれはもう隠れては逃げ、隠れては逃げを繰り返していたが、隆平さんも一応警察官。
騒ぎに駆けつけた警察官が、「萩原刑事も手伝ってください」と猫のように首根っこを掴まれて連れて行かれてしまった。
ただ、俺も俺で、隆平さんに追いかけられたせいでお参りが出来なかった。
ちなみに今は家で緋色、アキと共にゴロゴロと寛いでいた。
「お兄ちゃん、そこにあるお菓子取って」
「自分で取れよ。俺だって疲れてるんだ」
主に隆平さんに追いかけられて。
ここまで疲れたのは運動会ぶりだ。
いや、もしかしたらそれ以上かもしれん……。
「フユ、君?大丈、夫?」
「あ、ああ。それより、アキ達はお参りできたんだろ?何をお願いしたんだ?」
こいつらは俺が事情聴取を受けていた間にいつの間にかお参りを済ませていた。
少しは待ってくれないのかなと思ったが、そこはあえてツッコまないでおこう。
すると二人は、少し気まずそうに視線を俺からズラした。
「どうしたんだ?二人共俺から目を逸らして」
「えっと、ね。フユ君。ビックリ、しないでね」
アキはそう前置きした後、更に気まずそうに俯いてしまったが、そのまま口を開いた。
「あの後、フユ君を、待とう、って、しばらく、待ってたんだけど……」
「そりゃありがとうございます。それで?」
「全然、来ないから、先に、済ませよう、と、したら、ナンパされて、」
「マジかよ!大丈夫だったか?」
俺の心配にアキは「大丈夫、だったん、だけど………」と話を気まずそうな目で続ける。
「陽和ちゃんが……」
「陽和がどうした?……まさか、怪我でもしたのか!?」
「ううん、その逆」
逆?……………まさか!
「お察しの通り、ナンパ嫌いな、陽和ちゃんが、相手、の股間を、蹴り上げたの」
「アイツバカなの!?」
「お陰で出禁」
「あ、違った。ドバカだった」
どうりで今この場に陽和が居ない訳だ。
恐らく今、胡桃さんに絶賛シバかれ中だろう。
いやまぁ、それは良しとしよう。
だが、もう一つ気になることがある。
「…………まさか俺も出禁じゃないよな?」
俺がそう言うと、二人は物凄いスピードで目を逸らし、愛想笑いを何処とでもない壁へと向けた。
まさか…………。
「お兄ちゃん…………出禁です……………」
………………………………………………………………………………。
「よし、二人共こっち来い。びっちりシゴイてやる!」
「いや、何で私達!?」
「騒ぎを、起こしたのは、陽和ちゃん。理不尽」
「うるせえ!連帯責任じゃゴラァ!」
「「いやあぁあああ!」」
――――その後
「何やったらこうなるんですか?」
「ん?調教」
陽和に緋色とアキの、抜け殻と化した姿が見つかって、
事態は余計にややこしくなるのだが、それはまあ、どうでもいい話だろう。




