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世界一可愛い君と家族生活(仮)をしてみた件。  作者: 瑠璃
第2章 白銀の妖精
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冬島家の実力

 なんだかんだありながらも、俺たちは何とか本殿にたどり着いていた。

 もう本当に疲れた……。陽和はともかく、緋色は馬鹿を発動するわ。アキはそれに怒るわで、周りの視線も痛いし、何より俺へのストレスが半端じゃなかった。

 もし陽和がいなかったらもうとっくに逃げ出しているところだよ。


「涼くん?大丈夫ですか?具合が悪いとか……」

「ああ、大丈夫だよ。少し疲れただけ」

「そうですか?ほんとに具合が悪いときは行ってくださいね?おんぶしますから」


 そう言って腕を捲し立てる陽和は心配そうに俺を見つめる。

 というか、おんぶねえ……。ホントにできんのか?あ、ちなみに俺の体重は68キロです。


「フユくん、順番、きた、よ」

「え、ああ、そうだな」


 陽和とそうこう話しているうちに、いつの間にか本殿へと並んでいた目の前の行列がなくなっていた。

 さて、それじゃあさっさとお参りして帰ることといたしますか。

 そう思って手を合わせようとしたその瞬間だった。


「きゃあああ!!」


 突如聞こえた耳を貫くような叫び声に俺たちは思わず驚きながらそちらを向く。

 そこには、叫んだと思わしき女性と、そのすぐそばに血を流して倒れている男性がいた。


 「だ、誰か、誰か彼を助けてください!お願いします!」


 叫んだ女性がそう叫ぶが、誰も答えてくれる気配がない。

 それはそうだ。なんたって、あの場に医者がいるわけがないのだから。

 だが、彼女は叫ぶ。ほんの少しの生にしがみつく。


「お、お兄ちゃん……」

「……ああ、分かってるよ」


 そっと袖を引っ張ってくる緋色に俺はそう答えて頭を撫でながら、その場へと向かう。

 人混みをかき分けながら、何とかたどり着いたその場には、叫んでいたと思わしき女性と、今も尚血を流しながら必死に生へとしがみついている二十代半ばの男性が倒れていた。


「すみません。この男性が要救助者ですか?」

「……?あなたは……?」

「冬島涼って言います。って、自己紹介している場合じゃないな。応急措置を始めますが、触っても?」

「え、ええ!お願いします!冬島先生!」

「『先生』じゃなくても結構ですよ」


 そう言いながらそっと傷を見る。

 ふむ、どうやら刺傷のようだ。ただ、そんなには深くない。今すぐ手当すれば、後傷もなく治療することが可能だろう。


「陽和!聞こえるか!?すぐ救急車を呼べ!あとおっちゃんもな!」

「は、はい!」


 聞こえてきた俺の世界一かわいい彼女の元気な返事を聞いて少しホッとする。

 ここから門脇総合病院まではそう遠くない。

 精々、掛かっても5分にはこの場にたどり着いているだろう。


「すみま、せん。通ります。通し、てく、ださい……あ!フユくん!」


 病院までの距離を再確認していると、人混みをかき分けて走ってくるアキに俺は驚きながらも彼女に優しく声をかける。


「アキ、どうしてここに」

「どうして、ね。私も、分から、ない。でも、誰か、隣に、いた方、が、フユくんも安心、するでしょ?」

「……そう、だな。うん。ありがと」

「ううん。どう、致しまし、て」


 ちょっと嬉しそうに微笑むアキにほっこりしつつ、俺は要救助者に向き直る。

 改めて見ると、不自然な傷口だ。

 確実に刃物で刺されたような刺傷なのに、明らかに急所が避けられている。

 まるで意図されたかのような……。


「……フユ君?」

「ああ、悪い。ちょっと考え事をな」


 いかんいかん。今は目の前の患者に集中だ。

 俺は急ぎ気味に男性に手を伸ばす。


「そういえ、ば、フユ君は、医療器具、いま、持ってない、よね」

「ああ、持ってないな」

「じゃあ、どうや、って」

「医療器具は持っていないが、止血する事はできるだろ?」

「?」


 アキは「何いってんだコイツ」といった表情で首を傾げる。

 悪いがアキ、答えている暇はない。俺は心のなかで胡桃さんの顔を思い浮かべながらそっと自身の和服に手をかける。

 ごめんなさい。胡桃さん。そう念じながら俺は、そのまま和服をビリビリと破りきった。


「……!フユ君!?」

「悪い。けど、今はこうするしかないんだ」


 俺はそう言いながら男性の傷口を埋め込むようにして、破った布片を押し当てる。

 そしてその布片はどんどん赤く染まっていき、布片の全体を赤で覆い尽くす。

 そのため、もう一度和服を破りきり、押し当て、赤く染まり、もう一度。ただそれをひたすら繰り返す。

 最初は、布片が赤く染まる勢いが凄まじかったものの、繰り返していくうちに、どんどん勢いが収まっていき、落ち着き始めた。

 ――よし。後は布片を押し当てながら待つこととしよう。

 そう思いながらもう一度和服を破りきろうとしたその瞬間、聞き慣れたサイレン音が耳の中へと伝わってくる。

 そう、救急車である。


「やっと来たか……」


 俺は思わず尻餅をついて、額に浮かび上がった汗を腕で拭った。

 いやはや、こんなに疲れたのは久しぶりだよ。

 俺は心のなかでそう愚痴りながら、そっと目をつぶって空を仰いだ。


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「おつかれ、フユ君」

「おう、ありがと。アキ」


 ハンカチを渡してくるアキに感謝の言葉を伝えながらそれを受け取り、汗を勢いよく拭う。


「ああ、違、う」

「ん?何が?」

「ほっぺに、血がついて、る」


 アキはそう言ってハンカチを取って、俺の頬を力強く拭う。痛いですアキさん。


「そういえば、あの男、の人、大丈夫、かな」


 アキが言うあの男の人とは先程俺が応急措置した彼のことだろう。

 彼はあの後、救急車で運ばれていき、今はおそらく門脇総合病院で治療中だろう。

 そんな彼の容態はというと、俺が止血しまくったお陰で、血圧は安定しているとのこと。

 ただ、傷を塞いだわけではないので、いつまた傷が開くかわからない。そのため、きちんとした治療を受けることが大事になってくるだろう。


「まあ、今はそんなことよりも、さっさとお参りして帰ろうぜ!」

「この人はっ……(怒)」


             47


 涼たちが救急車の乗員達に男性を引き渡していた頃、人混みに紛れて怪しい素振りを見せていた者が一人いた。


「――依頼失敗。暗殺対象は生存か。」


 その者は淡々とそう呟き、苦渋な表情を見せる。

 顔を見るに、涼達と年齢はそこまで大差はなく、幻想的な顔をしている。


「……だが、殺せはしなかったが、いい情報は手に入れることが出来た」


 あの少年、恐らくまだ学生だが、とんでもない医療の腕前だ。

 こちらに引き込むことが出来れば相当な戦力増強だろう。


「おい、お前どうしたんだよ。」

「いや、さっき暗殺がどうのって聞こえたんだが…」


 目立ち過ぎたようだ。早めにここから立ち去ることとしよう。

 彼はその瞬間、人混みに紛れて静かに姿を消した。

 

 今後、この出来事が切っ掛けで大事件を引き起こす。

 しかしそれはまだまだ先の、ずっと先のお話。

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