家族遭遇はきついよね
目が覚めると、まず映ったのは白銀色の髪だった。
その髪はとても美しく、どこか見慣れたようなものだった。
俺はその髪がどこか愛おしくて、起きたばっかりのぼんやりした視界で捉えてそっと抱き寄せた。
「ちょっ!フユ、くん⁉」
その驚いた声と同時に蒙昧とした意識が一気にクリアとなっていく。
どうやらアキのことを抱きしめてしまっていたらしい。サイテーだな俺……。
「アキ、おはよう。あとごめん」
とりあえず謝らなきゃいけないなと思い、体を起こしながら謝るが、アキは「いい、よ。ダイジョブ」と顔を赤くしながらも笑って見せた。
大丈夫そうには見えないのだが、本人が言うのであればまあいいだろう。
それよりも腹減ったし、何か朝飯作るか。
そう思い、俺は「んぅー」と呻って体を伸ばしながらキッチンへと向かう。
しかし、その移動はアキが俺の手を握ったことによって止められた。
「どうした?アキ」
「えっとね……。その、今日、は、私が、朝ごはん、作った、の」
「え、マジで?」
アキは淡々と頷く。テーブルを見てみると、四人分の朝食が並んでいた。
いやはや、まさかアキが作るとは。一年前までは「フユくんと一緒じゃないと作れない」とかなんとか言ってたのに。
アレか?俺の為に作ったから例外ってか?おこがましいわ。
「フユくん?」
俺が疑問に思っていると、業を切らしたアキが不満げに上目遣いで俺を見つめた。
うっ……。そんな目をされると、申し訳なるじゃないか。
「うっ、うっ、フユくん食べてくれないんだぁ……」
「食べます食べますとも!」
とうとう泣き出したアキに俺は急いで椅子に座って箸を持ち、テーブルの上にある朝食を口の中へと一気にかき込んだ。
するとアキは先ほどの泣き顔はどこへやら。めちゃくちゃ嬉しそうに俺を見据えながら椅子に座った。
「美味しい?」
「いや、ふつ……」
「ああん?」
「はい!美味しいです!いやマジサイコーっスね!」
そう言うと、「えへへ」とアキははにかんだ。
この通り、アキはたまに腹黒さを露にする。いや本当に怖いからやめてほしいとは思う。心臓に悪いし。
まあ、口に出せば殺されるのは間違いないから口に出さないんだけどね。
「お兄ちゃん、グットモーニング!」
「涼くん、おはようございます」
「ああ、二人とも。おはよう」
アキに対して恐怖を抱いていると、陽和と緋色がリビングへとやってきた。やった!二人が居れば腹黒秋穂も怖くない!
「今、なんか、言、った?」
「何も言ってないです。はい」
心を読むのはやめて頂きたい!特にアキは読まれたくない!殺される!
ただ、そんな恐怖は露知らず、アキはただ笑って「朝ごはん、食べて」と陽和と緋色を自分の料理へと促している。
それに対して二人は「おいしそー!」と目を輝かせている。
本当に、今日お騒がしくなりそうだ…………ん?なんか忘れているような…………あ!
「そうじゃん!今日陽和とアキの親御さん来るんだった!」
俺が気づいたようにそう言うと、みんなはえ、今更?みたいな顔された。そんな顔しなくてもいいじゃん。
ともかく、時計を見るとまだ時間に余裕があるので、親御さんたちの分の昼食も作らないと!それに服装も寝間着じゃ恰好がつかない。
「あ、やばい。卵がない。買い出し行ってくるわ!」
俺が急いで家を出ていくのを横目に三人は――。
「「「――何やってんだあの人」」」
と、首を傾げるのだった。
42
「いやー、買いすぎたな……」
あの後、スーパーに行くやらタイムサービスをやっており、あっちらこっちらと回っていたらこんなぎりぎりの時間になってしまった。
早く帰って昼飯作んないと。
そう思って家の扉を開けると――。
「いやーん!陽和、久しぶりねぇ~!」
「ちょ、お母さん、離れてください……あ、涼くん助けてください!」
「……」
…………………………………………………………バタンっ!
「……親子の再開に水を差すのは良くないからな。ナイス俺」
「全然ナイスじゃないんですけど⁉」
とりあえず別の場所で時間をつぶそうとその場を後にしようとすると、陽和が涙目で扉から飛び出してきた。
無論、さっきまで陽和にくっついていた謎な女性も携えながら。
「あれ、その人ってもしかして……」
よく見ると陽和の髪と同じ栗色だし、目鼻立ちもどこか陽和に似ている。
「もしかしなくても私の母ですよ。はぁ……」
「まあ、陽和ったらこんなイケメンな子を捕まえちゃって!お母さん鼻が高いわあ」
そう言う陽和のお母さんは俺と陽和を交互に見てニヤニヤしている。うん。何というか、陽和とは真逆な性格だな。濃いと言えばいいか?
「えっと、陽和のお母さん……」
「あら、そんなに堅苦しくしないで頂戴!あと、私の名前は櫻井胡桃よ。気軽にママって呼んで頂戴☆」
「は、はあ」
うわあ……。道理でさっきから陽和が渋い顔をしているわけだ。そして陽和の気持ちも良く分かる!なぜなら俺も苦手だと一瞬で理解したからだ!
「すまないね涼くん。姉さんはこういう人なんだ」
「あ、おっちゃん」
俺が思わず渋い表情を作っていると、門脇総合病院の院長である門脇颯太が俺の家からひょこっと顔を出した。
「おっちゃんも来てたんだな」
「僕も来ちゃまずいかな?」
「いや。けど、忙しいから来ないんだろうなとは思ってた」
年越しだからこそ、それにバカ騒ぎしてケガする人なんかは例年結構いる。
なので颯太は結構忙しいんだろうなと思っていたがまさか来るとは。
いや、今はそんなことどうでもいいや。今はただ――。
「――俺を猫可愛がりしてくる胡桃さんをどうにかしてほしい」
そう言って俺の頭を精一杯撫でてくる胡桃を見据える。彼女は意外にも俺よりも背が高く、俺は視線を、というか顔を上に向けるしかなった。
「やだもー。涼くんったら!ママって呼んで頂戴って言ったでしょ☆」
「マジでどうにかしてくれこの人」
ウザったらしいったらありゃしない。もしかして陽和が親御さんから離れて一人暮らしをするようになったのってこれが原因じゃ……。
「もう!お母さん!涼くんをそんなに可愛がらないでください!慣れちゃいます!」
「あら、陽和ったら必死になっちゃって。もしかしてこの子の亊好きなの?」
「ええ!好きですとも!大好きですとも!だから離してください!涼くんを可愛がるのは私の特権です!」
その瞬間、その場の時間が止まった。…………えっと、とりあえず離して。
43
俺たちはお付き合いについて、胡桃さんと颯太さんに説明した。ちなみに、お父さんはまだ来ていないようだ。胡桃さんが待ちきれずに早めに出発し、それに伴って付いてきたのが颯太だったということだ。
……陽和のお父さん、不憫すぎん?
ともかく、胡桃さんたちにお付き合いのことを話すと、二人は好印象だった。
「いいじゃないいいじゃない!私はそんなにイケメンで可愛い男性と付き合うのは反対しないわ。むしろ大賛成よ!はあぁ、若いっていいわねえ」
「僕はとやかく言えるような立場じゃないけど賛成かな。多分、慶君も賛成じゃないかな」
「慶?」
「櫻井慶。私の夫よ」
首を傾げると胡桃さんが補足してくれる。
陽和のお父さんか。胡桃さんがあの分、苦労しているんだろうな。
俺が慶さんに同情していると、ピンポーンと軽快なインターホンの電子音が家中に響き渡る。
「はーい?」
誰だろう。アキは両親と、自身の家で会うと事前に聞いているので彼女の訳が……いや待て。
俺は何か嫌な予感がしながらも、そっと玄関の扉を開けると――。
「やあ、涼くん。久しぶりだね」
案の定、アキと同じ白銀の髪をたなびかせ、青年のような顔をしている成人男性。
アキの父親である萩原隆平がそこにいた。




