イチャイチャは危険
目を覚ますと、穏やかな朝だった。
カーテンの隙間から差し込む淡い光が俺のぼやけた視界をクリアにし、聞こえてくる鳥のさえずりは俺を起こそうとしているかのように鳴いていた。
俺はそんないつもどうりの朝が心地よくて再び目を閉じ……。
「お兄ちゃん、グットモーニング!今日の朝ごはんなにー?」
……ようとしてやめた。二度寝をしようとしたらこのザマだ。
俺は朝っぱらからうるさい変態実妹、もとい緋色の方へと恨みを込めて視線を向ける。
すると緋色は青みがかった黒目を瞬かせ、首をキョトンと傾げた。
「お兄ちゃん、なんでそんなに怒った目をしてるの?」
「……もしお前が俺に二度寝を邪魔されたらどう思う?」
「え、お兄ちゃんを抱き枕にしてもう一回寝るけど」
「お前に聞いた俺が馬鹿だった……」
後悔気味にはあっと溜息をつきながら体を起こす。すると「キャッ」と緋色がわざとらしく顔を赤くした。
「お兄ちゃん、そんな大胆な……」
「大胆……?」
コテンと首を傾げると、緋色が視線を下へと向ける。俺もそれにつられて下へと視線を向けるとそこには下半身裸の…………って!
「お前、もっと早く言えよ!俺の兄としての威厳が無くなりそうになったんだけど⁉」
「えー早く言えっていっても、お布団で隠されて見えなかったし……。それよりもお兄ちゃんのって意外と可愛いんだね」
「マジマジと見んな!」
必死に手で隠すと、緋色は「ごめんごめん。冗談だよ」と手をひらひら振ってカラッと笑う。その仕草に少しイラっとしながらもまずは隠さなくてはと思い、タンスへと手を伸ばして着替えを掴む。
その様子を見ながらニコニコ、いや、ニヤニヤしていた緋色は「そういえば……」と呟いて指を伸ばして頬にあてる。
「陽和さんがキッチンに侵入してなんかしようとしてたけど止めに行かなくていいの?」
「それ最初に言えよ!クソっ!あいつがキッチンを使うと大変なことに!」
「何気に恋人をディスってるお兄ちゃん流石だわ」
緋色が苦笑しているが、俺はそんな場合ではない。とんでもない事実を聞いた俺は一秒にも満たない速度で着替え終わり、陽和を止めるべく目にもとまらぬ速さで部屋へと出て行った。
その速さを目の当たりにした緋色は――
「陽和さんも大変だねえ」
と誰にも聞こえないほどの声量でそんなことをぼやいたのだった。
39
「うん、美味しい、ね」
「ありがとう」
アキが心底美味しそうに朝ごはんを頬張りながら称賛してきて、俺は頬を緩めながら称賛の言葉を甘んじて受ける。
「ところで……」
「ん?」
「……あれ、どうする、の?」
そう言ったアキの視線の先には、リビングの隅でうずくまっている陽和の姿がある。あの後、キッチンに侵入した陽和が俺にこれでもかという程こっぴどく叱られ、今はへそを曲げ中だ。
俺はアキの視線に同情して「あー」としばらく考えた後、陽和の方へと体を向けた。
「陽和ー、大丈夫かー?」
「……いいえ」
だいじょばないらしい。俺ははあっとため息をつき、席から立って陽和の前へと立つ。陽和は俺が近づいてくるのを足音で気付いたのか、俺が陽和の前に立った途端に俯かせていた顔を上げた。
陽和は髪をボサボサにさせながら濡れた澄んでいる瞳が俺を見据える。泣いている顔も可愛いな。そういえば男の子って女の子が弱ってたり泣いてる姿を見たら可愛いなと思うことがあるって聞いたことがあるのだが、それのせいなのだろうか。と、そんなことはさておき、俺は陽和の目線に合わせるようにしゃがみ込むと、陽和の顎に親指と人差し指をそっと添える。
「涼くん⁉」
陽和が驚いた表情で俺を見据えるが抵抗は無い。今はその方が都合がいいので「大人しくしてくれ」と陽和の耳元で囁くと陽和はこくこくと健気に頷いた。俺はその苦笑して陽和の瞳をジッと見つめる。その瞳にはどこか期待と不安が混ざってとろけたようなそんな瞳が――。
「――心配しなくても何もしないよ」
そう言って笑いながら陽和のボサボサになった髪を撫でて整えると、陽和は安心したかのようにホッと息を吐いた。
その仕草にちょっぴり男心が傷ついたものの、いつもの陽和だと安心もする。
いくら恋人になったからっていきなりこんな行為に及ぼうとすることはできないし、陽和自身を傷つけかねない。陽和のことは絶対に大切にすると決めてんだ。簡単に手を伸ばすわけにはいかない。
俺が決意を改めて心にしていると、背後から「フユくぅん」と明らかに暗い声が飛んでくる。
ふと後ろを振り向くと、そこにはこめかみをピクピクさせながらニッコリ笑っているアキの姿が――!
「つい、この間に、付き合い、はじ、めたばかりなの、に、いきなりそん、なことをするの?」
「ち、違うんだ!別にそういったことをしようとは……!な、陽和!」
笑っているようで笑ってない瞳に後ずさりしつつ、陽和の方へと向き直ると、陽和は妙に顔を赤くしている。……あれ?
「その、危うく涼くんに犯されてしまうところでした……」
「問答無用おおおおおお!」
「待ってくれえええええ!」
――結局、このやり取りに終止符が打たれたのは夕方ごろでしたとさ。(泣)




