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世界一可愛い君と家族生活(仮)をしてみた件。  作者: 瑠璃
第1章 世界一可愛い美少女
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傍にいてほしい君がいるから

「ひどい目に遭った……」

「おっ。流星お帰り」


 俺たちが談笑を楽しんで休憩時間の残り時間も残りわずかというところで、男子たちに連れていかれた流星が戻ってきた。流星の顔を見てみるとなんだか少しやつれているようにも見え、表情がさえていないあたり、本当にひどい目に遭わされたことが分かる。

 そんな流星は俺を見つけると、涙目になってくっついてきた。


「すず~!なんで助けてくれなかったんだよぉ!」

「そりゃ助ける理由なんて無いからな。お前の自業自得だ」

「う」


 俺が流星の手を振り払いながら冷淡に告げると、流星は何も言えないと曇った表情をさらに暗くする。今回ばかりはさすがに彼の不手際のせいでもあるし、なによりこれを機に自分の行いを正してほしいと思っているのだ。なので今回は助けなかった。それだけの亊。


「それよりほれ。渡にばっか仕事押し付けんじゃねえよ。しっかり自分の仕事してこい」


 俺が淡々とそう告げると流星は「分かったよ……」と少々訝しんだ表情で司会台へと向かった。

 さて、そろそろ休憩時間も終わるし、席に戻ろうかと思ったその時、何者かが「冬島……」と凛とした声で俺の名を呼んだ。

 ふと振り返るとそこには背丈の乏しい生徒会副会長の大星沙穂がいた。


「今、相変わらず身長が乏しいなと思わなかったか?」

「気のせいだ。それで、何の用?」


 頭の中を見通すのはやめて頂きたいと思いつつそう問うと、沙穂は「ああ……」と不服そうにしながらも俺の質問に対してポワっと頬を赤くした。


「そのだな……。ええと」

「?どったの?ああ、もしかしてさっきの歌変じゃなかったかって?めっちゃうまかったよ。プロいけるんじゃないかって思ったくらいだ」


 先ほどの沙穂の歌唱を称賛すると沙穂は「ありがとう」と言って少し頭を下げるが、顔はやはり赤く染まっている。


「ありがとうなんだが……、そうじゃなくてだな……」

「じゃなくて?」


 聞き返すと、沙穂はさらに顔を赤く染める。なんだか湯が沸騰しそうな勢いで赤くなっているが大丈夫だろうか。俺が心配していると、沙穂は赤くなっている顔とあまり変わらない紅色の唇を動かした。


「そのだな……。明日、クリスマスだろう……?」

「そうだな」

「……その、あの、もし良かったら、私と一緒にクリスマスを過ごしてはくれないだろうか……」

「え」


 沙穂はそう言うと顔を真っ赤どころか沸騰させそうな勢いで紅色に染めて、口をわなわなと動かして自分は何を言っているのだろうかと物語らせている。しかし、俺も言われていることが一瞬理解ができなかった。一瞬止まった思考を再起動させ、クリアにさせた頭で今の状況を分析する。

 つまりは沙穂は俺と二人きりでクリスマスを……。と、いかんいかん。女の子に対して不埒な思いを抱いては駄目だ。そう思い頭に降りかかった煩悩を振り切るようにブンブン首を振るが、やはり気になってしまう。


「その、大星さん。それはどういう……」

「はーい、みなさーん!休憩時間は終わりでーす!用のない人は席に戻ってくれー」


 言葉の真意を聞こうとしたその瞬間、流星の声が体育館内に響き渡った。

 それを聞いた沙穂ははあっと小さくため息を吐いた。


「どうやらこれ以上は話すことはできないようだ。今のやり取りは忘れてくれ」

「えっ?あ、大星さん!」


 そう言った沙穂は自分の持ち場へと戻るべく歩き始める。

 俺はその足を止めようとその名を呼ぶが、彼女が歩みを止めることは無い。俺はただ、その様子を見つめることしかできなかった。

 その時、俺は気付くことができなかった。彼女が、少し苦しそうな表情で胸を押さえていたことを。


                   36


 あの後、クリスマスパーティーは順調に進み、残りは締めくくりである渡のエンディングセレモニーのみとなった。


「それじゃあ、今日の締めくくりとして佐神渡のエンディングセレモニーだ!とくとご覧あれ!」


 流星のその言葉と同時にステージがライトアップされ、そのステージの上には渡がマイクを持って佇んでいた。

 渡はそのマイクを口許へと近づけて一泊置いた後、口をそっと静かに開いた。


「佐神渡です。今日の締めくくりとして歌を歌わせていただきます。大星さんほど上手くはないのでそこはあまり期待しないでください」


 渡が冗談めかしにそう言って笑うと、体育館内にいる皆もつられて微笑する。渡はそれを見て一層笑みを深くした後、「聞いてください」とその場を静寂に包みこんだ。

 しばらく静寂が続く中、穏やかな曲が流れてきて渡はそれに合わせて歌いだした。


「雪が降る中で~、僕は退屈だった~♪」


 彼が歌いだすと、体育館中が温かい空気に包まれ始める。

 彼は先ほど、自分は沙穂ほどではないと卑下していたが、全くそんなことは無い。劣っているどころかむしろ同格とまで言えるほど渡の歌声も素晴らしいものだった。

 彼の歌声に感心しながら沙穂の方を見ていると、沙穂も彼の歌声に夢中のようで目が彼だけを映していた。

『私と一緒にクリスマスを過ごしてはくれないだろうか』

 沙穂の方を見た瞬間、その言葉が思い返される。

 いやまあ、彼女はそんなつもりはなくただ友好を深めたいと思っているだけかもしれない。

 ただ俺も一応思春期真っ只中な男なわけで、そういった意識はしてしまうものだ。

 そんなことを考えていると渡が歌い終わったようだ。いつの間にか、響いていた曲が無くなっていて渡はペコリとお辞儀をしており、その拍子に体育館中の皆が拍手を彼に送る。

 そして渡はステージ脇へと消えていき、ステージを照らしていた明かりが消え去った。

 後は流星が閉会宣言をすればこのクリスマスパーティーは終了だ。少々名残惜しくはあるが、楽しめたのでよかったとしよう。

 そう思い流星を見ると、彼はもう閉会宣言をするべくマイクを口許へ運んでいた。

 これでこのクリスマスパーティーも終わりかと思ったその時だった。


「さて、それじゃあ今日のクリスマスパーティーはこれにて閉会。かいさーん……と言いたいところだけど、ここでちょっとサプライズ企画だ」

「……は?」


 初耳な情報に思わず首を傾げる。

 そんな企画など俺は一ミリも聞いていないのだ。


「陽和、サプライズって何を……ってあれ。あいつどこ行った?」


 陽和は何か知っているのではないかと陽和の方を向くと、つい先ほどまでいた陽和の姿が見当たらなかった。いや、彼女だけではない。緋色やアキでさえもどこにも見当たらなかった。

 一体どこに行ったのだろうかと思っていると、突如ステージが再び明かりに包まれる。

 そしてそのステージ上には陽和、緋色、アキの三人が並んでおり、手にはそれぞれ一輪の花が携えられていた。……なんか嫌な予感がする。


「涼、ステージに上がれ」

「やっぱり俺をご指名なのね」


 俺が嘆息をこぼすと、流星が「いいから上がれ」と急かしてきた。

 正直断りたいが、周りが俺のことを見つめている中で断ることなど到底できない。

 しょうがないなと溜息を一つつき、俺はステージへと足を進めた。

 その道中、男子からは嫉妬の目を、女子からは期待の眼差しを受けて足を止めたくなるほどいたたまれなさを覚える。が、そんな弱い心を打ち消しながら俺はステージ上へとたどり着いた。

 それを見た流星はニヤリと笑って声を発する。


「みんな聞け!涼は明日の十二月二十五日に誕生日を迎える。そしてこれはその前祝いだ」


 流星がそう言って陽和の方をちらりと見る。陽和はそれに対して小さくコクリと頷いて左手に持っていたマイクを口許へ運んだ。

 そして陽和はすうっと小さく息を吸った後にマイクに向かって声を発した。


「涼くん、お誕生日おめでとうございます!」

「「おめでとう。フユくん(お兄ちゃん)!」」


 陽和がニコッと笑うと、それに合わせるように二人も微笑みながら花を渡してくれた。

 なるほど。そういえば明日誕生日だわ。すっかり忘れていた。

 正直どうでもいいって思ってたからすっぽり頭から抜けてたわ。危ない危ない。

 ただ、そのことを口にしてしまうと情けないのであえて言わないでおく。


「……涼くん、女の子三人からお花を貰って感謝の言葉一つないというのは少々頂けませんよ」

「はいはい。……ありがとうな。三人とも」


 そう感謝の気持ちを伝えると三人は笑みを深くして「どういたしまして」と嬉しそうにしている。

 恐らくではあるが、これは三人が流星に頼んで行ったものだろう。あとで流星にもお礼を言っておかないとな。

 なんともこそばゆい気持ちに苦笑していると、「それじゃあ、今度こそお開きにしまーす!」と流星が言うが……。


「ちょっと待ってください!」


 それを大声で誰かが制止した。その者こそ……。


「陽和……」


 そう。我らが陽和である。


「……涼くんにまだ伝えられていないことがあります」


 陽和はそう言うと、再び俺の方へ向き直り、俺を見つめる。

 その見つめる瞳がとても澄んでいてつい心臓のあたりがドクンと熱くそれでいて強く高鳴るが、それを陽和に悟られないようにできるだけはやる気持ちを抑えつつ、俺は「何?伝えられていないことって」と陽和を見つめ返した。


「涼くん、文化祭前、私に『傍にいてくれるか』って聞いてきましたよね?」

「……あったな」


 この子、何を言い出すのかと思えばとんでもないことを言い出し始めたぞ。家の中ならまだいいが、ここは体育館。公衆の目が気になってしょうがない。だが陽和はそんなものはどこ吹く風で気にした様子はなく、淡々といながらも微笑みながら続ける。


「その質問、今お答えしますね」

「……」


 俺はただ陽和を見つめることしかできなかった。陽和の栗色の髪を、澄んだ瞳を、桃色の唇を、陽和自身を。見つめれば見つめるほど胸が痛くなる。恋というのは実に難病だな。天才と謳われた医師の家系さえもこんなにしてしまうのだから。

 陽和は俺を見つめる。そして俺も陽和を見つめている。そして陽和は……。


「涼くん、私はずっと涼くんの傍にいます」 


 今俺が一番言って欲しい言葉を口にした。

 陽和は何度俺の気持ちを救ってくれれば気が済むのだろうか。いや、そんなことは一生来ないだろう。俺がそれをさせたくないのだから。その感情はなんとも強欲で、傲慢で、狭量だ。

 俺はそんな気持ちが狂おしいほど強く、自分では到底抑えきれないのだ。そんな家系なのだから。

 そう、今だってそうだ。俺はこの感情を伝えるべく口を静かに開いた。


「俺はさ、ずっと陽和のことを『大切な友人』ってことにまとめてた」

「……はい」


 陽和は今度はこっちの番と言わんばかりに目をつむり、優しく返事をしてくれる。

 そう、友人だ。俺は陽和に対してその距離が一番いいと自分の気持ちに嘘をついて逃げていた。

 けど、たった今陽和が逃げている俺の手を取ってくれたのだ。俺もそれに報いるべきなんだ。


「けど、友人ってだけじゃ足りなくて、違うなって心のどこかで思ってた」

「……はい」


 陽和のその返事はどこか心弱く、それにつられて俺も目尻が少し熱くなり始めた。

 あ、ヤバい。早めに終わらせないと。

 俺はそう思って陽和に……


「好きだ。陽和。傍にいてほしい君がいるから、世界一可愛い君の事が世界のだれよりも好きだよ」

「……!」


 今の、陽和に対する好きで好きでたまらない気持ちを伝えた。

 陽和はそれに目を見開き、涙を流す。


「……しも」

「え?」

「……私も涼くんのことが好きです」

「陽和……」


 陽和に好きだと言われて、俺の胸の仲がじんわりと熱くなる。

 好きな人に好きだと言われて嬉しくないわけがないのだ。だからこそ、俺は今、心が満たされたのだから。


「陽和、俺と付き合ってくれますか……?」


 俺がそっと優しく、熱のこもった言葉でそう問うと、陽和は嬉しそうに涙を流しながら微笑んだ。

 そして陽和の答えは……。


「はい。喜んで」


 一言でも俺の心を満たす返事をしてくれたのだった。


                    37


「流星。君、仕組んだでしょ」


 クリスマスパーティーの片付けで残っていた俺は、別に残らなくてもいい渡にそう問い掛けられていた。


「仕組んだって何が?」

「無論、あの二人のことだよ」


 渡はそう言うと、そっと微笑んだ。クソっ、こいつ、性格がいいからこそ質が悪い。

 俺は心の中で悪態をつきながら、渡の質問に対して「ん」と首肯を返しておいた。

 すると渡は「やっぱりね」と納得したようにうんうんと頷いた。


「櫻井さんのあの行動力はいい意味で異常だった。だからこそ、誰かの手を借りていたのが自然だと思ったんだけど合ってるかな?」

「さあな」


 遠回しにもう答えんぞと示すと、「つれないねえ」と渡は苦笑する。


「今回の櫻井さんの勝因は、流星の手を借りたことだけなのかな?」

「いや、それだけじゃなく、緋色ちゃんや秋穂ちゃんに隙を与えなかったことも勝因の一つだ」

「手を貸したって今認めたよね」

「それがどうした」

「開き直った⁉」


 渡がちょっとオーバーリアクションでイラっときたが、そこは敢えて無視をした。偉いぞ俺。

 そんなことはさておき、確かに陽和に手は貸したが、それは今回の機会の設けだけでそれ以外は俺は何もしていない。なので彼女が緋色や秋穂を威嚇し牽制したことに関しては彼女自身の力である。

 実際、一番危うい恋敵の秋穂にさえ何もさせなかったのだから本当に凄い手腕だと言える。

 ただ……。


「このままだと、緋色ちゃんと秋穂ちゃんが黙ってないな」

「だろうね。あの二人もかなり冬島のことが好きだからね。いくら付き合っていると言っても、あんな最前線にも等しい場所ならいつ欠落するか分からない」


 そう。今回のことを経て、緋色と秋穂がどのような手段を用いてくるか分からない。だからこそ涼たちの関係は危ういと言える。

 ただまあ……。


「俺には面白くさえあればオールオッケーだけどな」

「そう言うと思ったよ。全く」


 渡はそう言ってため息を一つ。俺はいつもよりもより一層深くニヤリと笑った。


                     38


 してやられた。

 フユくんに振り向いてもらうためにこっちにわざわざ来たというのに、何もできずにあの女にフユくんを取られてしまった。これでは本当に本末転倒ではないか。

 ふと横を見ると楽しく談笑しているフユくんとあの女、櫻井陽和が目に映る。

 もしあそこに私がいれば、フユくんはもっと楽しく笑うはずなのに。

 完全にしてやられた。けど、陽和ちゃん、これで勝ったと思わないでね。そしてフユくん。いつか私がフユくんのハートを打ち抜いてみせるから。


「待ってて、ね」


 私がそっと小さく呟くと「なんか言ったー?」とキッチンにいるフユくんが話しかけてくる。それに私は……。


「うう、ん。なんでも、ない」


 と微笑んで見せた。

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