嫉妬は身を滅ぼします。
クリスマスイブ、それは良き人にとっては聖日。あえて遠回しな言い方にするが孤独な人にとっては血の涙を流すような日だろう。そんな日に俺たちは少なくとも校内の人たちに楽しんでもらうためにクリスマスパーティーを催していた。
クリスマスパーティーの会場である体育館ではたくさんの者たちが足を運んでおり、クリスマスパーティーが始まるのを今か今かと待っている。
どのように待っているかというと、それぞれがクリスマスパーティーに対する期待を友人に談笑しながらその時をただ待っていた。
例えばこのように……。
「楽しみだな」
「ああ。何やるか知ってるか?」
「いや。ただ先輩に聞いたら例年は生徒会に選抜された人が準備してるらしい」
「生徒会が選抜してるなら堅苦しくなるんじゃ」
「それが選抜された人の中に流星がいるらしい」
「まじか。そりゃ楽しみだ」
流星の名前が出された途端にクリスマスパーティーの期待が高まるのは訳が分からないが、少なくとも俺たちがしてきた準備は足を運んできた人たちに楽しんでもらうためにしてきたものと言える。
そんな俺たちはというと、体育館のステージ脇の奥で円陣を組んでいた。
「いいか。これまでしてきたことは無駄じゃない。練習してきたことを来てくれた奴らにぶつけてやろうぜ!」
流星のその喝に俺たちは「おう!」と答え、より気を引き締める。
「フユくんと、陽和、ちゃんは、今日何、もしない、けど」
「秋穂さん、それは思っても言わないべきでは?」
アキの呟きに陽和がツッコミを入れると、その場に笑いが起きる。
このやり取りで大分みんなの緊張がほどけたようだ。
流星が「ともかく」というと、緊張のほどけた雰囲気はそのままに、その場が再び静まる。
「今日は本番だが、何も緊張することは無い………と言いたいが、もう既に緊張はないようだな」
流星のその言葉に、皆がニヤリと笑う。え、これはニヤリとした方がいいのか?いやまあ、ニヤリとはしておくが。その表情を見て流星はコクリと頷いて、すぅっと息を吸った。その先に放たれた言葉は……。
「楽しんでけよおらああああ!!」
「おおおおお!!」
俺たちに気合を入れるのに十分な言葉だった。
34
あの喝から数分がした後、俺と陽和は特に出番がないので観客席へと移動していた。
その移動した先には、我らが妹の緋色のところである。緋色の座っている所の隣に座ると陽和も俺の隣の席に座った。
「あ、お兄ちゃん!」
隣に座った俺に気付いた緋色はそう言った途端に俺の腕に抱き着こうとしてくる。まあ、させるわけもないのだが。俺は抱き着こうとしてくる緋色の手をぺしっと叩き、叩かれた緋色は「いたっ」とわざとらしく叩かれた手を撫でている。
「愛しの妹を叩くなんてサイテー」
「言い方に気をつけろ。ったく」
「反省の色がないんだけど……」
「当たり前だろ」
俺が緋色の手を叩いたことに対して反省?するか馬鹿者。むしろ反省するのは緋色だと思うので、緋色に冷たい視線を向ければ、緋色はチッと舌打ちをした。こいつ、いつの間にか腹黒くなってるような気がするんだが。あとずっとスルーしてたけど、陽和さん、緋色に対して羨ましそうな眼差しを向けるのはやめなさい。こいつ絶対に調子に乗るから。
そうこうしているうちに時間が過ぎていき、体育館全体の明かりが消え、次の瞬間には用意されていた司会台に流星が立っており、そこだけがライトアップされていた。どうやら始まったようだ。
流星が姿を現した瞬間、体育館全体が「わあああ」と歓声に包まれる。それに流星は片手を揚げ、その場を静寂に制す。
静寂に包まれたのを確認した流星はマイクを口元へ運び、口をゆっくりと開いた。
「待たせたなお前ら!クリスマスパーティー、開会だあああ!!」
流星が開会を宣言すると、「わあああああ!!」と先ほどよりも騒がしい歓声が体育館全体に響いた。ため口に違和感を覚える者が出てくると思ったが、この場では正解のようだ。ほとんどの者が歓声を上げ、無礼講と言わんばかりに楽しみ始めている。
無礼講。そう、無礼講だ。聖夜だといわれる今日こそ無礼講であり、皆が楽しめる日。その楽しめる日を彩るために俺たちはクリスマスパーティーを催しているのだ。
「さあ、まずは生徒会長のありがーたい言葉を頂くぜ。お前ら、よーく聞いてろ」
流星はそう言うと持っていたマイクをすぐ傍に座っていた生徒会長に渡す。今知ったけど生徒会長って男だったんだな。その生徒会長は少し呆れ気味にマイクを手に取ると、先ほど流星が言っていたありがたーい言葉を語り始めた。
「生徒会長の渡辺海斗だ。今日は皆が楽しむための会だからそこまで長くは話さないが、今日はとことん楽しんでほしい。今日という日が、皆にとっての思い出に残る日であることを願っている。以上だ」
彼が言い終えるとたくさんの拍手の音が響き、体育館中を包む。その拍手を聞きながら生徒会長、ああ、渡辺海斗か。その海斗は流星にマイクを返すと、再び元居た場所に座った。
それを確認した流星は再びマイクを通して「さて」と口を開く。
「それじゃあ前置きはここまでにしておいて、さっそく有志の奴らの出し物だ」
その言葉を聞いた会場にいる者たちは皆、待っていましたと言わんばかりに歓声を上げる。
そう、実は俺たちが準備していた出し物だけでは足りず、有志を応募し、各自に出し物を出してくれと頼んでおいた。ちなみに俺たち全員、何が出されるかは知らない。つまり本当にサプライズだ。
どんな奴が出てくるのかとそわそわしていると、最初に出てきたのは俺のクラスメイトの男子二人組だった。
「トップバッターはこいつらだ!コンビ名は『冬島涼に嫉妬している男』だ!とくとご覧あれ!」
…………今なんつった。確か『冬島涼に嫉妬している男』って……。
「どうも。私たちは冬島涼に嫉妬している男です」
「具体的に何に嫉妬しているのかというと……」
その二人、コンビ名が『冬島涼に嫉妬している男』だから『嫉妬男』にしとこ。その嫉妬男たちは俺の方をギロっと憎しみの籠った目で睨んだ。
「世界一可愛い美少女と謳われている櫻井さんをたぶらかし、さらにめちゃくちゃ可愛い妹もおり、さらにさらに白銀の妖精と謳われている萩原さんと幼馴染。これは理不尽すぎるだろおおお!」
「だから俺たちはこの場でアイツの、冬島涼の秘密を暴露してやります!」
「……秘密?」
俺に秘密があるとしたら冬島家の真実ぐらいなのだが、あの者たちがそのことを知っているわけがない。なにせそれは国家秘密レベルの事柄なのだから。
「冬島!ステージ上に上がれ!」
「えぇ……?」
「えぇじゃねえ!いいから上がれ!」
無理やりすぎないかと思い流星の方へ視線を向けると、視線に気づいた流星は「いいんじゃねえの?」と肩を竦めている。俺はしょうがねえなと溜息をつき、すぐさまステージ上へあがる。
そのことを確認した嫉妬男たちは俺をキッと睨むと、再び意味わからん演説を始めた。
「いいですか!こいつは……」
「こいつは……家で鼻をほじっているんです!」
「えええええ⁉何でお前らがそれを……って、え?」
取り敢えずその場の雰囲気で乗り切ろうと棒読みでそのセリフを言おうとしたが、嫉妬男たちは俺の全く身に覚えのない事をほざいて俺に向かってニヤリと笑った。
あ、こいつらありもしないことを言って俺の評価を下げようとしてんな。確かに普通の人間なら失望するような情報かもしれないが、相手が悪い。なにせ、陽和とアキは毎日俺の家にいるのだから。
陽和とアキの方を交互に見てみると、お互いなんだか疲れたような、それでいて怒っているようにちょっとピクピク目尻が引きつっている顔で状況を見据えている。
うん。分かる。分かるぞ二人とも。イラつく気持ちはよくわかる。俺だって今すぐ殴りたい気分だ。
俺が二人の気持ちに共感していると、嫉妬男たちはすぅぅっと思い切り息を吸い込み、一気に言葉を吐き出した。
「櫻井さん!あんたは騙されている!ここはいっそ俺を選んでください!」
「萩原さんも騙されてる!だから俺を選んでくれ!」
俺の評価を下げようとした次にこれだ。つまり嘘で陽和とアキの中の俺への評価を下げて自分の評価を上げる。なんともクズが考えそうなことだ。陽和とアキはそれぞれステージ上から離れた場所にいるのだが、ステージからわかるくらいに怒りの表情をしている。というか何かオーラっぽいものが二人から漏れ出ているような気もするんだが。
そのオーラが嫉妬男たちも見えたのか、「ひぃっ!」と情けない声を上げ始めた。そんな中、今のこの怖い状況を作り出してしまっている二人はというと、陽和は席から、アキは持ち場から離れ、ステージへと向かっていた。その時の嫉妬男たちの表情が「来るな、来るなあああ!!」とものがたっているのだが、自業自得なので二人が足を止めることは無いだろう。
そしてとうとう二人がステージ上に立ち、二人へと体を向ける。無論、怒りのオーラは出したままで。その瞬間、俺を含め会場中の皆がこう思っただろう。「あ、こいつら終わったな」と。その証拠に、会場中の皆が目を逸らしてみなかったことにしようとしている。
2人はそんなことは気にした様子はなく、お互いに見つめ合って頷くと、二人を代表してと言わんばかりに陽和がずいっと前に出た。
「お二人が先ほど俺を選んでほしいと申しておりましたが、それのお返事を今しますね」
そう言った後、二人は合わせるようにすうっと息を吸って、口を開いた。
「「ごめんなさい。あと死ね」」
二人はそう言ってニコッと笑顔を作った。ただ、その笑顔に色はなく、おぞましさだけが残っていた。その笑顔を真正面から見た嫉妬男たちは「「ひゃ、ひゃい」」と情けない声を上げてその場にへたれこんだ。
シーンとしばらく時が止まったように時間が流れるが、ずっとこのままってわけにもいかない。
「りゅうせー。この二人、いったん連行するわー」
俺が止まった時間を打ち消すようにそう言うと、流星が「たのんだー」とニヤリと笑って言った。
すぐさま俺は陽和とアキを元の場所に戻るように促し、嫉妬男たちをステージ脇へと連行した。
それを見た流星は「えー、それでは、クリパ再開しまーす!」とマイク越しに声を体育館中に響かせる。
ちなみに嫉妬男たちはというと、精神が崩壊したかのように体全体の力が抜けていた。もう目が逝ってしまっているので俺でもどうしようもない。
クっ!許せ!俺は哀れみを込めた目で嫉妬男たちを見て、そしてその場を後にした。




