文化祭の近づき
「というわけで、もうすぐ文化祭があるので実行委員を各クラス二人ずつ決めてください」
担任の先生から言われたその言葉を聞いて、クラス中が「え~」と嫌な空気が流れだした。
そりゃあ、実行委員会の仕事をするのなら部活か自由な時間を過ごしていたいからな。
俺も全く同感で、実行委員をする気など毛頭ない。
ただ、うちのクラスにはこういった催しが大好きな人物が一人いる。
「先生」
ほれ来た。
俺の後ろの席にいる流星が喜々とした表情で手を挙げていた。
「俺と涼がやりまーす」
「はっ?」
全くの初耳な情報に思わずそんな声を出してしまった。
おかげで只今絶賛大注目され中だ。
「冬島さん、やってくれるの?」
「えっと、俺は……」
俺が返答を躊躇っていると、後ろから流星に肩を掴まれてコクリと頷かれた。
いやお前、確かにこの情景は感動的に周りは見えるだろうが、俺にとってはこのタイミングで頷く意味がよくわからないし、なにより力強く肩を掴んでる時点で全く説得力がないのよ。
……肩がギリギリって音を立ててるからそろそろやめようか流星君。
「はあ……。やりますよ」
結局、あまりにも掴まれてる肩が痛かったのでしょうがなく引き受けた。
19
「てなわけで、しばらく帰りが遅くなるから」
俺が家で夜ご飯を食べながら緋色と陽和に今日あったことを話すと、二人はキョトンとした表情で俺を見据えた。
「な、なんだよ」
「いえ、涼くんがそのようなことをするイメージが全くなくて……」
「こればっかりは決まったことだからな」
半ば強制だったような気がするが、そのことを二人に言ってしまうと学校に、いや、流星の家に突入しかねないのであえて黙っておく。
「まあ、お兄ちゃんのことだから周りの雰囲気に怖気着いたんでしょ」
「まあ、そんなところだな」
嘘は言っていない。確かに雰囲気に吞まれたし、ほぼ断れる空気じゃなかった。
俺がそのことを思い出して遠い目をしていると、陽和が一瞬呆れた表情をしたような気がした。
「陽和?」
「へ?」
「いや、何というか……」
陽和はキョトンと首をかしげて不思議そうな顔で俺を見る。
「いや、何でもない」
なんだか、陽和の澄んだ瞳を見て言及する気が失せてしまった。
前から思ってたけど、陽和って無意識に相手の気持ちをコントロールしてそうで怖い。
ただ、そのおかげで全くイラつかないし大目に見るならストレスもほぼ溜まらない。
なので、一緒にいてとても落ち着くし、そばに居たいとも思ってしまう。
「陽和」
「はい?」
「……これからも傍にいてくれるか?」
「ふぇ!?」
唐突な質問に陽和は明らかに動揺する。
これからもそばにいてほしいと思ってしまって聞いたことだったのでそこまで動揺しなくてもいいのにと思ったが、このシュチレーションは下手すると愛の告白にも繋がりかねないので、すぐにヤベっと気づいた。
「それってつまり……」
「いや、違うから!本当にただの好奇心だから!」
必死に弁明すると、陽和はほんのりシュンと落ち込んでしまった。
「陽和、大丈夫か?喜怒哀楽が忙しそうだけど」
「え?あっ、ごめんなさい。大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
「お、おう」
いきなり元気に振る舞うのでわざとらしく感じてしまい、余計に心配になってしまう。
本当に大丈夫なのかと陽和の額に手を当てる。
「す、涼くん!?」
「大人しくしてくれ」
優しく囁くと、陽和は健気にコクコク頷いた。
フーム、熱はないな。ただ、陽和の顔が赤くて熱があるのではないかと思ってしまう。
「陽和、顏赤いけど大丈夫か」
「あ、あまり見ないでくださいっ!」
「へいへい。それで、頭痛とか吐き気とかないか?」
陽和の額から手を放しつつそう聞くと、陽和はほんのり残念そうにしながら「ないです」と答えた。
「そうか。ただ、今日はあんまり無茶をすんな。体に障る」
俺がそういうと、陽和がため息をついた。
「涼くんって本当に……」
「ん?」
よく聞こえなかったので聞き直そうとすると、陽和が「なんでもないです」と首を振って微笑んだ。
「そういえば、最近悩ましい病が私を襲ってまして」
「え、マジで?大丈夫?どんな病気だ?」
「ふふ。ナイショです」
陽和はそう言うと、悪戯っぽく笑って唇の前に人差し指を立てた。
その様子に思わずドキリとしてしまったので、自分はまだまだだなと思う。
………ちなみに一つ気になっていたことがある。それは……
「あれっ、私今すごく空気……」
そう。緋色がなんか空気と化している。
……………大丈夫だ緋色。俺はちゃんと見えてるからな。




