至高のご褒美
二日後、俺は学校で流星に緋色と陽和について話していた。
「ふうん。緋色ちゃん退院したんだ」
「ん。で、陽和のことを凄く敵対視してて」
「愛しのお兄ちゃんだからな」
「愛しいは余計だ」
あいつがブラコンなのは認めるが、それを公衆の面前で言うのはやめてほしい。
そういった意味を込めて睨んだが、流星は反省の色なしに続ける。
「まあ、誤解が解けてほしいなら行動で示せばいいんじゃないか?」
「行動で示せって、また随分と無難な方向性だな」
「いや、意外と女の子は行動で示せば信頼してくれる」
驚いた。流星がこんなに女性に関して真面目に答えるのは意外だった。
いや、こいつのことだから経験が豊富に蓄えられているのだろう。
「あ、これは付き合ってた人からフラれたときに言われたことな」
「一言余計だばか」
前言撤回。売り言葉に買い言葉じゃねえか。
やっぱりこいつに頼った俺が馬鹿だったわ。
………頼るといえば……。
「そういえば陽和に運動会のご褒美あげてない」
そう。陽和が俺のことを頼ってくれて、運動会で結果を出してくれた。
彼女の頑張りには尊敬の意を示すべきだろう。
すると俺の呟きに流星が「へ?」と反応した。
「何々、櫻井さんにプレゼントでも送るの?」
「それは本人に聞いてから決める」
極めて真面目に答えると流星が「ほえー」と感嘆の声を上げた。
「涼さ……」
「ん?」
「もはやカップルレベルか親レベルの思考になってるよな」
流星の言葉に思わず「ぶっ」と吹き出してしまう。
本人が今ここにいなくてよかった。もしもここに陽和がいたら彼女は頬を赤くして家に帰るまで口を利いてくれなくなってしまうだろう。
まあ、現在進行形で俺が顔を赤くしているのだが。
俺が顔を赤くしてるのを見て、流星は「お熱いことで」と茶化し気味に言った。
別にそういった感情や関係も持っていないので、流星に拳骨を一発おみまいした。
18
「ご褒美、ですか?」
読書をしていた陽和が先ほど俺が言った言葉を反芻する。
「ん。運動会頑張ってたからな」
「お寿司食べたじゃないですか」
「あれは自分へのご褒美」
カラリと笑うと、陽和は困ったように儚く微笑んだ。
「そうですねえ……」
陽和はしばらく考え込むと、思いついたと言わんばかりに可愛らしく指を立てた。
「それじゃあ、この間の頭なでなでの続きをお願いします」
「え」
腑抜けた声を出してしまったのは、もうしょうがないことだった。
なんたって意外だったからだ。
「ほんとにそれでいいのか」
「逆に他に何があるのですか」
「料理と書いて謎の実験と読む何かに付き合わされるのかと」
「涼くん、私の亊をどのように思っているのか教えてもらいましょうか」
にこやかーに距離を詰めてくるのでソファの端に座っていた俺はその場から立って、陽和の向かい側に座る。
そんな行動に対して陽和は不服そうに頬を膨らませた。
「いじわる」
「へいへい。じゃあ、これで勘弁してくださいよー」
俺はそう言うと、再び陽和の隣へと移動して陽和の頭に手を優しく乗せた。
「あ」
「え、違う?」
慌てて頭から手を離れさせようとすると、陽和がブンブンと首を横に振って、離れさせようとした手を掴んで止めた。
「この前の続きなんですから最後までちゃんとやって下さい」
なんと健気な子なのだろうかとふと思った。
行かないでと言わんばかりの澄んだ瞳がしっかりと俺を捉えている。
その様子がなんとも可愛らしく思ってしまって、俺は空いていた左手で陽和を……。
「ただいまー。お兄ちゃん、お腹すい……あ」
「「あ」」
……………………………………………………。
「緋色、これは……」
「お兄ちゃんの裏切り者おおおお!」
「待ってくれええええ!」
あ、兄としての威厳が……!ポジションが……!
「ふっ。まあ、体のいいハエ払いになったんじゃないですか?」
「お前は一回黙ろうか」
ニコニコしながらえげつないことを言うのはやめて頂きたい。
「ううぅ……。お兄ちゃんの裏切り者ぉ」
結局、この後の夜ご飯でご機嫌を取り、やっと口を利いてもらえるようになった。




