お風呂にする?ご飯にする?それとも・・・
『一年全員リレーを行います。一年生の皆さんは指定されている場所へ移動してください』
そのアナウンスとともに、一年に該当する者が全員動き出す。
そして無論、俺たちもだ。
「涼、大丈夫か」
「何が」
「いや、何というか、すごく顔が強張ってるから……」
俺はふと、自分の顔に手を添える。
確かにいつもよりも顔に力が入っている……ような気がする。
「ま、気張ってるのはいいことだし、いつもどうりやればどうとでもなる」
流星はそう言ってバシバシと背中を叩いてくる。
それに対して俺は「いてえよ」と一発、お返しとばかりに背中を叩き返しておいた。
「はっはー。素直じゃないですなあ、涼君や」
「何を根拠に……」
「櫻井さんのこと考えてたんだろ?」
「なっ」
図星をつかれて俺は驚愕の表情を作る。
先ほど陽和に応急処置を施し、今は陽和は前から4番目に居るので出場するのが確定である。
処置はしたものの、けがをした状態で臨むとなると、こちらとしては中々の心配事である。
「まあ、人を思う気持ちは大切だし、いざとなればお前が助けてやれ」
ニヤニヤされながら言われてなんか腹が立ったので、とりあえず脛も蹴っておいた。
12
「位置について……ようい」
パン!
勢い良く鳴った火薬音が辺りに響き渡り、その音とともにリレーがスタートした。
戦況は陽和のクラスが圧倒的に速く、とうとう陽和にバトンが渡った。
縦割りリレーよりも若干遅くはあるが、簡単に追いつけるようなスピードではないため、そのままバトンを渡すべく、陽和は手を伸ばした。
…………本来渡すべき人の隣に立っていた俺に向かって。
「「「「「「………………は?」」」」」」
グラウンド全体が一体化したかのように皆、そんな声を上げる。
声を上げていないとすれば、俺と顏を真っ赤にさせながら口をはくはくさせている陽和ぐらいだ。
しばらく静寂に包まれたが、流石にこの状況は好ましくないので、俺は渡されたバトンを陽和に向けて渡した。
「お、お返しします……」
「ど、どうも……」
…………………………………。
き、気まずい……。
俺と陽和含め、学校に今いる人たち全員がそう思ったのは言うまでもない。
13
「きつかったー」
「お疲れ様です」
運動会も終わり、俺たちは家へ帰るべく、帰路についていた。
結局、優勝したのは俺たちのクラスで陽和のクラスは惜しくも2位に入った。
「そういえば怪我は大丈夫か。帰ったらもっかい見るけど」
「お陰様でだいぶ楽になりましたよ」
陽和は微笑みながらそう答えるのでちょっと安心した。
……ただ、すこし残念でもあるが。
「そっかー。もしも痛かったらおんぶして帰ろっかなーって思ってたんだけどなー」
「えっ、あ、もう!涼くんはそうやって!」
ポカポカと肩辺りを叩いてくる様子が本当に可愛らしい。
写真を撮って永久保存しておきたかったが、生憎とスマホは充電中の為持ってきていない。
「おっちゃんは今日来なかったな」
「あれ、お昼ごろにメールで来れなくなったって送られて来ましたよ」
「生憎と、今はスマホを持ってない」
まあ、あの人は忙しいのだし仕方がない。
ただ、今日はとても印象に残るような日だった。もちろんいい意味でだ。
「今日は陽和も頑張ってたし、寿司でも出前取るか」
「それよりも私が作りますよ?」
「頼む。それだけはやめてくれ」
「どうしましょうかねえ」
「頼むからああああ!」
帰路の間、俺は今日一の大声をあたりに響かせた。
14
「着いた……」
「帰宅に満足感を抱かなくてもいいでしょうに」
俺たちはようやっと帰宅し、今は鍵を開けるためにカバンから鍵を取り出している最中だ。
「そういえば、涼くんは明日何しますか?」
陽和が唐突に聞いてきたので、鍵をカバンから取り出しつつ口を開く。
「明日は緋色のお見舞いに行くつもりだよ」
「緋色?」
「妹の名前」
俺がそういうと、陽和は「ああ」と遠い目をした。
「ブラコンなんでしたっけ。妹さん」
「ああ。早く兄離れしてほしいもんだよ」
俺は苦笑しながら鍵を開けて扉を開けた。
そして中に入ろうとした瞬間、俺とよく似た黒髪に青みがかった瞳を持つ少女がいた。
「お帰りなさいお兄ちゃん。お風呂にする?ご飯にする?それともわ・た・s」
バタンッ!
…………………………………。
「陽和、今日はお前の家に泊まってもいいか?」
「えっ!まあ、涼くんが望むのであれば……」
「いや、そこは拒否しようよ!」
変態、もとい緋色が扉をあけてツッコんできた。
「お前、なんでここに居るんだよ」
「あれ、聞いてないの?」
俺がコクリと頷くと緋色は「しょうがないなぁ」と呆れ気味にため息をついた。
「私、病院退院したんだ」
…………………………マジでか。
この日、俺は3人分の寿司を頼んで財布の中が空っぽになった。




