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世界一可愛い君と家族生活(仮)をしてみた件。  作者: 瑠璃
第1章 世界一可愛い美少女
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世界一可愛い美少女

 6月下旬、暖かく、それでいて肌寒い時期。要するに梅雨の季節。

 外はザァァァという雨の音で包まれていた。

 そんな中、俺は何の気もなしに傘を手にして帰ろうとしていた。

 ちなみに周りに人がいないのは、日直のおかげで俺の帰る時間帯が大分遅れたせいである。

 こんな寂れた空間に対して俺はため息を一つついた……その時だった。


「……あ、あの……冬島涼さんですよね……?」


 突如として背中から呼ばれた俺の名前に、俺は無意識に振り返った。


「確か君は……」


 振り返った視界には一人の少女が佇んでいた。

 よく手入れの行き届いた栗色の髪、よく透き通った大きくて可愛らしい瞳、目を引き寄せられてしまう桃色の唇。一言でいうのであれば、とても端正な顔立ちをした少女だった。


「ああ……、なんか用か。櫻井陽和さん」

「あ、私の名前知ってたんですね。別のクラスなのに」

「そりゃまあ、毎度学力1位の奴の名前ぐらいは覚える」

「それを言うあなたは毎回2位を記録してますよね」


 それに,こいつの場合……。


「……世界一可愛い美少女……。」

「っ!……その呼び名はやめてください……」


 こいつ、即ち陽和は「世界一可愛い美少女」なんていう痛々しい通り名で呼ばれてしまっている。

……まぁ、本人非公認らしいが……。この反応が何よりの証拠だ。見てみろ。めっちゃ顔赤いぞ。


「悪い悪い。それで、俺に何の用?」


 ちょっと期待を込めて聞いてみる。

……いや、断じて愛の告白を期待しているわけではない。そう、決してそんな……。


「あ、そうでした。これ、廊下に落ちてたんですけど、冬島さんの名前が書いてあったので」


 そう言って陽和が差し出したのは一枚のハンカチだった。

「あ、ああ、俺のだ。ありがとう」

「いえいえ。」


 そう言われながらハンカチを渡された現状に、先ほどの不埒な期待に大変反省をした。

……はい、すいません。告られるという期待をしてしまいました。誠に反省しております。

 俺が心の中でいたく反省していると、陽和はクスリと小さく笑った。

 その様子がなんとも可愛らしく、思わずその笑みを凝視してしまう。


「……あの、そんなに見つめられると困るのですが……」

「……あっと、ごめん。見惚れてた」

「みほっ……!」


 陽和は急に林檎のような赤さを頬に宿した。


「もうっ!女の子にそうゆうのはあまり言わないで下さい!」

「え、ええ……?」


 率直に言っただけなのだが、なんと理不尽な話なのだろう。


「……それで、用はもう無いな?」

「え、ええ、まあ……。」

「そうか」


 用が済んだのなら速攻で帰らせてもらおう。

 そう思って、校舎の昇降口から出ようとしたその時だった。


「……あれ?もしかして雨降ってます?」

「ああ、降ってるぞ。天気予報見てねぇのか」


 朝は一ミリたりとも降っていなかったが、天気予報では午後から雨が降ってくると予報されていた。

 だが、陽和は雨が降っていると聞くなり、急に困った表情となった。


「……どうしましょう。こうなれば走って帰るしか……。」


 後ろからボソボソと陽和の声が聞こえてくる。

当の本人は小声で喋っていると感じているかもしれないが、全く小声じゃない。なんなら、昇降口辺りによく響いてしまっている。

 なんともドジっ子なところを見てしまって、後悔の念を込めてため息をついてしまう。

 反応を見るに、傘を忘れてしまったのだろう。

 俺はそんな様子が見るに耐えなくなり後ろを振り返り、そして同時に手に持っている傘を陽和に差し出した。


「……え?」

「ほれ、やるよ。傘ないんだろ?」


 陽和はとても驚いた表情で首を横に振った。


「もらえません。もらえばあなたが濡れてしまいます」

「別に構わん。濡れても速攻で体を温めりゃいい」


 「それに体は丈夫な方だ」と胸を叩く。


「……分かりました。」


 大変渋々ながらも陽和は差し出された傘を手に取った。……嫌か。そんなに男の傘をもらうの嫌か。

そう思いながら陽和の顔を覗き込むと、陽和の目もこちらに真っすぐ向けられた。


「いつかちゃんと返します」


 向けられた瞳はやはり澄んでおり、その上、優しいんだなと分かる。


「……?」


 再び陽和に見惚れていると、陽和が小さく小首をかしげた。


「……お返しなんていらねえよ。」

「……意外と素直じゃないんですね。」

「うっせ」

「フフッ。すみません」

       

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「それじゃ、冬島さん。傘、お借りしますね」

「おう」


 陽和は傘をひらいて、昇降口を出て行った。それと同時にこっちに小さく手を振っている。

 俺はその小さな背中を見送った後、途方に暮れていた。その理由は……。


「……可愛かったなぁ」


 無論、陽和のことを想像していたからである。

 いや、ホント……可愛かった……。

 「世界一可愛い美少女」という通り名も頷ける。それくらいの美少女だった。

 だが、いつまでもここに居座るのもよろしくない。


「……さて、帰るか」


 俺は、家へ帰るべく雨が降っている外へと歩みだした。


「濡れるけどな!」


 さあ、全力ダッシュで帰るぞおおおおおおおお!

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― 新着の感想 ―
[良い点] これから2人とどうなるか、妹とになんて説明するのかなどがすごく楽しみ。 更新早くていいですね! [気になる点] 二位って、平凡なのか…! [一言] 陽和ちゃんや、妹の見た目がすごく気になり…
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