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バーベナ:いつもと違う朝
昔見た植物図鑑に
「ビジョザクラ」って花があって
さぞ綺麗なんだろうと思いながら
白黒の写真を恨めしく思った
それがこの花だったんだ
夏の乾燥を越えて秋に真っ盛り
ピンクの色を湛えて
いとも可憐に咲いている
「ビジョ」て感じじゃないな
強いて言うと「美少女」?
なんてことを考えながら
玄関先の小さな鉢植えを眺める
マイカー通勤の準備中だというのに
「ゴミ出しといて」と背中に妻の声
家の向かいは小学校
角の集積所まで軽いけど大きな袋を
掴んで歩く
手ぶらになった戻り道
校舎の3階から手を振ってくれる女子がいた
僕たちに子どもはいない……
その子はあどけない笑顔で
まるで疑うことを知らない無垢な心で
ああ
あんな娘が欲しいな
なんて思いながら出勤する
玄関先のバーベナが心なしか小さく揺れた
いつもと違う秋の朝……




