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コルチカム:僕だけに
「土も水もなくて咲くから」
そう言われて買ってしまった拳大の球根
本棚の上に置いて開いた花は
ヒョロヒョロで幽霊みたいだった
それが「裸の貴婦人」と呼ばれる
イヌサフランだと知ったのは
買ってから暫く経ってからのこと
幽霊みたいなその花は
愛情込めて見つめていたら
いつしか元気に育ってくれた
次々とつやつやの大きな
スズランのような葉っぱを伸ばす
ちょっぴりの土とちょっぴりの水
植木鉢の中のレディはご機嫌そうだ
「安い女なんて思わないでね」
そんな声が聞こえてきそうなほど
紫の色を湛え妖しい魅力を放つ
ほんのちょっと手をかけただけで
こんなに綺麗になってくれるなら
庭に植えたらどうなるだろう?
僕の君もそうだろうか?
勇気を出して「僕と暮らそう」って言ったら
もっと生き生きと輝いてくれるかい?
君の本来の美しさを見せてほしい
これからもずっと僕だけに……




