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ハマナス:海辺の出逢い
昔、祖母が植えていた
ハマナスは薔薇の仲間
秋の午後にはグランとふたり
ぷっくりと横に張ったローズヒップを
集めて乾かしお茶にして飲んだ
仕事でやってきた東の国の
寒い海辺の砂浜で
出会えるなんて思ってなかった
ピンクの花と朱色の実が
途切れることなく続いている
その人はハマナスの茂みを前に
ゆるりと立っていた
金の髪が風に揺れる
ハマナスの花と実を摘んで
何を思っているのだろう
声をかけたかったけど出来なかった
きっと大切な思い出に浸っている
そんな気が何故かしたから
ダウンジャケットのフードを被った女性が
ハマナスの向こうの波を見ている
この国の人は
悲しいことがあると海を見に来るという
話しかけてもいいのだろうか?
たどたどしくても彼女の言葉で
声をかけたら目線をくれるだろうか?
朱く輝いてもどこか寂しい心の中身を
少しだけでいいから交換してみないか?
海辺に咲くこのハマナスが見ている前で
君に声をかけてみたかった
君と話がしたいんだ




