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第四話!!!! 疾風、魔界茸をマウに押し付ける!!

 

 しばらくの間、元来た道を食料調達しながら歩いて来た疾風とマウは、食べられそうな物を手に、小さな川のほとりまで戻って来ました。



「ねぇ……これ、本当に大丈夫かな……?」


「大丈夫だって! 私、前に本で見た事あるから!!」



 マウが心配するのも無理はありません。何故なら、ふたりの両手にはどす黒い茸や、見るからに怪しい紫色の茸。妬けただれた様な毒々しい赤い茸。果てには、成金が欲しがりそうな金色に輝く茸まで。正に茸尽くしでした。



「疾風……その本、信じて大丈夫なんだよね……?」


「あんまり念おさないで……不安になってくるから……」



 ふたりは採って来た茸を地面にごろごろと置くと、今度は火起こしの準備に入ります。



 周りから手頃な枝を拾って来るマウ。それを適当に積み重ねると、頃合いを見て、少し離れた所にいる疾風に声をかけます。



「はやてー、用意出来たよー」


「わかったー」



 疾風は左手を振り、積み重ねた枝からマウを避難させると、めい一杯開いた左手を積み重ねた枝に向かって伸ばし、空いた右手で動かないように支えます。


 そして、マウが安全な所まで避難したのを確認すると、何の躊躇もなくこう言いました。



「業火!!」


「きゃあ!!」



 瞬間、もの凄い勢いで燃え上がる小枝達。マウはそれから身を守るかの様に地面にうずくまります。



「ねぇ、疾風……何時も思うんだけど、もうちょっと火、弱く出来ない?」


「しょうがないじゃない、業火しか使えないんだから……」



 疾風はそう言うと、魔界茸を地獄のたき火からかなり離れた場所で一個ずつ手頃な細い枝に刺し、それを数本地面に突き立てると、マウと一緒に細い倒木に座り、魔界茸が焼きあがるのを待つのでした。




 しばらくすると、ひとつの茸から煙が出て美味しそうな汁が滴り落ちます。



「はい」



 丁度食べ頃になった茸を、何の躊躇いもなくマウに差し出す疾風



「あの……ちょっと待って」



 マウは遠慮するかの様に両手を差し出し、後ろにのけ反ります。



「どうしたの?」


「私、あなたの事を信じて無い訳じゃないけど……」



 差し出された枝の先に指を差し、疑いの眼差しを向けるマウ。



「一口目に、金色茸は難しいかな……」



 ですが、疾風はマウとは真逆の反応を見せます。



「え? そうかな? これが一番美味しそうじゃない?」


「だったら、疾風が最初に食べてみてよ」


「良いわよ」



 あっさりと毒味役を買って出る疾風。マウに差し出した枝を自分の方に向けると、枝の先に刺さった金色の茸を口元に持って来ます。



「え……? は、疾風? 本当に大丈夫なの? やめた方が良いんじゃ……」


「大丈夫だって! それに、さっきも言ったけど、ちゃんと本で見た事あるやつだから!!」



 マウの心配を他所に、金色茸に齧りつく疾風。瞬間、焼ける様な熱さが疾風の口の中を襲います。



「ひゃひっ! ひゃひっ!!」


「大丈夫!? 疾風!?」



 焼きたて茸を口内で転がしながら、腹筋運動するかの様に上半身を前に後ろに動かす疾風。それでも、何とか焼きたて茸を飲み込むと、口から舌を出し、涙ぐみながらこう言いました。



「舌、火傷しちゃった」


「もう、びっくりさせないで!!」



 大声を出しながらも、マウは安堵の表情を浮かべます。



「ごめん、ごめん……でも、マウ。この金色茸、普通に美味しいよ?」



 疾風は、マウに謝りながら、食べ掛けの金色茸を差し出します。



「え? 本当に?」


「うん。何かね、金色の味がしたの」



 一瞬、後ろに引くマウ。



「……それって、駄目なやつなんじゃあ……」


「うそうそ、ちゃんと本に載っている通り、しめじっぽい味がしたよ。だから大丈夫だって」


「うーん……そこまで言うなら……」



 疾風の言葉を信じたマウは、金色茸を食べようと腹を括りますが、まだ不安があるのか、少しびくびくしていました。



「私の食べた所と、反対側を食べてね」


「う、うん……」



 少しずつ食べ掛けの金色茸に近づき、小さく口を開くマウ。一度疾風に目をやると、疾風はマウを安心させるように力強く頷きます。それを見たマウは、背中を押されたように「はむり」と食べ掛け茸に齧りつきます。



「……どう?」


「……おい……しい」



 マウは、左手を口元に当てながら顔をあげ、騙されたかのような笑みを浮かべます。



「美味しい! 美味しいよ! これ!!」


「でしょう!? 私の目に間違いは無かったのよ!」



 のけ反るように自信満々に胸を張る疾風。そのまま、自分の食べ掛けの所から二口目を頂きます。



「うん、美味しい!」


「でもさ、疾風……」



 地獄のたき火で焼いているどす黒い茸に指を差して、マウはこう言いました。



「これには、毒が入っているんじゃない?」


「それを言ってたら、きりがないよ……」



 疾風は、金色茸を手にしたまま深い溜め息をつくのでした。



 魔界茸の本を執筆したのは、魔界人と人間、いったいどっちだ!?

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― 新着の感想 ―
[良い点]  本を持ち歩いてる訳では無さそうって、事は…… (⌐■-■)疾風、意外な程の記憶力!?  え、待って鍋無いの?  何故水場へ行った?(笑) >魔界茸の本を執筆したのは、魔界人と人間、いっ…
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