第三話!!! 疾風、『邪悪の森』で暴れまわる!! (無駄に)
森の中は、とても静かでした。
「なぁんでよおぉ!?」
疾風は激昂するあまり、片手剣を両手で振り回してしまいます。
「は、疾風! 落ち着いて!! 木が! 木が倒れちゃう!!」
マウは必死に疾風の気持ちを落ち着けようとしますが、暴れまわる疾風に中々近づく事が出来ません。
そこで、マウは思いきって、地面に落ちているくの字に曲がった木の枝を、疾風の後頭部に向かって投げてみる事にしました。
とても軽く、山なりに。
「えい」
マウの投げた木の枝は、乱暴に振り回している疾風の片手剣をすり抜け、狙い通り後頭部に当たってしまいます。そして、その鈍い音は森中に響き渡り、疾風は何も言わずその場で倒れてしまいました。
「きゃああああぁぁぁぁーーーー!!!! 疾風ぇー! 大丈夫ぅ!?」
マウは一目散に疾風の元に駆けていくと、地面に木の杖を置いて疾風の背中を揺さぶります。
「ごめんね! ごめんね! まさか本当に当たるとは思わなかったの!」
ですが、疾風は一向に起きる気配がありません。
「疾風……まさか……」
マウの脳裏に最悪の事態がよぎります。
「やだ……起きて! 起きてよ!! 疾風!!」
涙ぐみながら、懸命に疾風の背中を揺さぶるマウ。
……と、その時でした。
「ううん……」
疾風が、うめき声をあげます。
「疾風!!」
安堵の声をあげるマウ。疾風はゆっくりと目を開けると、両手で上半身を起こします。
「……私、何してたんだっけ……?」
地べたに座りながら辺りを見渡す疾風。マウは、そんな疾風を後ろめたい気持ちで声をかけます。
「大丈夫、疾風? 後ろ頭、たんこぶ出来てるよ?」
それを聞いた疾風は、腫れた後頭部を確認する様に擦ります。
「……そうだった!」
そして、地面に片手剣を突き刺すと、それを杖代わりにしてふらつく身体に鞭うちながらも何とか立ち上がります。
「マウ! 私、今うしろから攻撃されたの!! 何処かに魔物が潜んでるかも!?」
疾風は、懸命に片手剣を構え、マウに周囲を警戒するよう呼び掛けますが、マウはそれをとても申し訳無さそうに否定します。
「あ……あのね、疾風。違うの……」
「違うって、何が!?」
真剣な眼差しで辺りを見渡す疾風に、マウは胃の痛くなる想いで語ります。
「疾風の後ろのたん瘤……私のせいなの……」
「そう! だからマウも……なんですと?」
疾風はあまりに驚愕な事実に、目を白黒させてしまいます。
「だ……だからね……私が、疾風の後頭部目掛けて木の枝を『えい』って……」
「……え? マウが……? どうして……?」
「疾風があまりも興奮して片手剣を振り回すものだから……何か当てればおさまるかなー……って思って……」
それを聞いた疾風は気が抜けてしまったのか、崩れ落ちる様に地べたに座りこんでしまいました。
「そっか……マウだったんだ……殺気がないから判らなかった……」
「……疾風? それ、どういう意味?」
「ううん……何でもない!! 魔物じゃなくて良かったなって事!!」
「……??」
……マウは、疾風の漏らした言葉の意味を探ろうとしてみますが、良く理解出来ませんでした。
疾風は、そんなマウに向かって頬を赤らめながらこう言いました。
「なんか、気が抜けたらお腹空いちゃった」
「もう、疾風ってば!」
マウは、軽く握った左手を口元に添えると、くすりと笑みを浮かべます。
「でも、そうだね。疾風の言う通り、そろそろ何か食べるものを探しに行かないと、辺り一面見えなくなるかも」
マウがそう言って周りを見渡すと、辺りは少し薄暗くなっていました。それを聞いた疾風は、片手剣を掴んでいた両手に力を入れ、マウの言葉に賛同するかの様に立ち上がります。
「じゃあ、どの辺探しに行く? 多分、茸とかしかないと思うけど」
疾風は癖なのか、また頭の上で片手剣を振り回しながら、話し合いを始めます。
しかし、ここは魔界。全く土地勘がないマウは、至極まともな答えを返します。
「……どこって……魔界来たの初めてだから、良く解らないよ……」
「ですよねぇ……」
ふたりの間に数十秒の沈黙が流れ……その間、森には疾風の片手剣を振り回す風切り音だけが響きました。
「ま……こうしててもしょうがないや……」
突如、疾風は振り回していた片手剣を流水のような淀みない動きで、もと来た道に向かって突き出します。片手剣の動きにつられ、もと来た道を振り向くマウ。
「……どうするの?」
「確か、来る途中に小さな川が流れてる所があったわよね? 一旦通って来た道なら迷う事も無いだろうから、今日はそこで何か食べられるものがないか、探してみましょう?」
「え? 一回戻るの?」
「じゃあ、今からどこか他の場所、探してみる?」
「……それはちょっと……」
そういう事になりました。
魔物の出番はあるのか、無いのか……いったいどっちだ!?(く、苦しい!!)