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第3話 村、レベルアップ!

感想よろしくお願いします

 

 長い髪の毛を一本に束ねる。

 私のキューティクルな毛髪は元気だ。

 サラサラで手触りもよく、枝毛のひとつもない。

 扉を開ける。穏やかな日差しが肌を撫でる。

 爽やかな朝に、爽やかな自分。

 今日も素晴らしい1日になりそうだ。


「キーラ、ほら起きて」


 先程まで抱き合って寝ていたキーラの肩を揺すると、彼女は唸るような声をあげてから眩しそうに瞼を開けた。


「おはようございます、アイさん」


「おはよう、キーラ」


 彼女も私も、お互い全裸である。

 なにがあったのか、聞くのは野暮だろう。


───


 あのあと、キーラを襲っていた豚を駆除し終えた私は軽快すぎる足取りで村に戻ると、それはもうとてもとても歓迎されたのである。あの豚野郎──オークというらしい──が現れた村は大多数が壊滅状態に陥ってしまうらしいが、私が奴らをほとんど駆逐したから被害は軽微だったようだ。村人達、村長からは感謝感激の雨霰で、その日はお祭り騒ぎであった。当分ここに住まわせてほしいと改めてお願いしたら、一生いてくれとまで懇願されて困ってしまった。オークを倒せる人間がひとりいるだけでもその村は安泰だという。


 お祭り騒ぎの翌日、キーラからこの世界のことをやんわりと聞いてみたが、案の定ここは私の知る世界ではなかった。あんな豚の生き物は私の知る限りファンタジー作品にしか登場し得ないものであったから、衝撃の事実であろうことを聞いても、やはりな、としか思えなかった。ちなみにこの村はプルクラウ大陸南西にあるオーリムという名前の村だという。つまりこれは、異世界転生、もしくは異世界転移というのだろうか、まったく別の世界に飛ばされてしまったと。馬鹿馬鹿しい話だが、真実なのだろう、あのオークを殺した感覚は本物であったし、ドッキリ番組だとは思えなかった。キーラが嘘をついているようにも見えなかったのである。惚れた弱みといえば、否定はできないが。


「アイさん、お食事をご用意しました」


「今日の朝食はなんじゃらほい!」


 アイさん、アイさんとキーラは呼ぶが、これは私の本当の名前ではない。というか未だに思い出せないのだ。だからといって名前がなければ不便だということで、2人して数時間も悩みに悩んで、私の名前はアイに決定したのだった。愛に生き、愛を知る、愛の求道者である私にとってとてもお似合いの名前だと感激していたら、あぁ、そうですかと冷めた反応をされたので、その日は激しく抱いてやった記憶がある。


「パンと焼魚と人参のサラダです」


「わーお! 美味しそー!」


 そして、オーク襲撃から私達は寝食を共にするようになった。村長に土下座したら快くオッケーしてくれたのだ。どうやら話を聞くところによると、キーラは村長の孫だと言うではないか。良い人が見つかって良かったのう、と泣いていた村長に対キーラはなんとも言えない顔をしていたので、その場で彼女の唇を強引奪って既成事実を作り上げた。村長は驚きすぎて倒れたが、いまでは元気である。


「それじゃあ、いただきます!」


 この料理は村の女達が作ってくれたものだ。

 ここでは男達は狩猟をし、女は家事をするのだ。

 それも個人のためではなく、村の全ての者達の為にである。

 オーリム村に怠け者はいない、男も女も自分の仕事の価値を理解した上で勤めるのだ。非常に健全だと考えるが、時代が進んで便利な物が増えれば怠惰な人間が現れ始めるだろう。ボタンを押しただけで家事をした気になっている主婦のように。現代日本を知っている身としては、やや不便な方が人間の精神は正常でいられるのかもしれないと思った。


「ごちそうさまでした」


 いつの間にか全て食べてしまった。

 自然豊かな食材で作られた料理は美味い。

 ついつい食べすぎてしまうのだ。


「そういえば、アイさん。村長から何か頼まれてましたよね。どんな頼みごとをされたんですか?」


「うん? それはねえ……ちょうどいいや、キーラも見に来なよ。多分、自分の身になることだと思うから」


「え? あ、はい。わかりました」


 キーラの言う通り、実は村長にある頼みごとをされているのだ。時刻はわからないが、太陽が真上の頃、私は村の男達を集めた。普段から狩猟をしていることもあって全員が筋骨隆々の男達である。だがそれはただの筋肉である、適切に使わなければ余計な肉の塊、贅肉となんら変わりはしない。と、いうわけで、私は村長から再三お願いされて、彼らの訓練をすることになったのだ。彼らに、女なんかに負けるわけないだろうという嘲笑の感情はない、目の前にいるのはオークを千切っては投げ千切っては投げを繰り返したバーサーカーなのだと理解しているのだ。賢いことで結構だ、彼らの認識を改めさせる為のカリキュラムも用意していたが、どうやらそれは必要ないようだった。


「おはようございます! 皆さん!」


「お、おはようござ──」


「声が小さい! はっきりと喋りなさい!」


「お、おは──」


「もっと声を出せー! チンカスかお前らー!」


 だが、それはそれとして腑抜けてはいる。

 こんなことでは、もし私がいない間にまたオークに襲われたらこんなことでは全滅するだろう。

 声すら満足に出せない奴には指導をしなくちゃならないな。


「お前とお前とお前! 私の前に立て!」


「は、はい!」


「よし、チーム戦だ。お前ら3人私に襲い掛かれ、膝を地面につけたら負けだ。あ、ちなみに私はチームじゃない。つまり私は死ぬほど不利だということだ」


「すんません、ちょっといいすか?」


「はい、どうぞ」


「それってこっちが有利すぎるんじゃないすか?」


「いいんだよ、それで……ほら、かかってこい!」


 結果、3人の男達は僅か数秒で地面に倒れ込むことになった。3人の相手をするよりも、怪我をしない程度に威力を調整する方が、かなりしんどかった気がする。他の男達はその惨状を見て改めて自分達の立場を理解したらしく、少々不満はあるものの声を大きく出すことくらいなら出来るようになった。


 訓練その1、武器を使っての戦いだ。

 彼らにはとりあえず斧や槌を持たせてこちらに攻撃するように指示を出した。もはや彼らは躊躇ったらボコボコにされると本能的に感じてしまっていたようで、言う通りにいろんな武器を手に襲いかかってきた、最初は当てることすら難しかったが、次第に、防がれてはいるものの私に当てることができるようになった。2時間少々でこれなのだから、もしかしたら私は人に何かを教えるのが得意なのかもしれない。訓練その2は後日するとして、このあとの時間は男手全員でオーリム村の補強を行った。


 まずは大きな木の壁を作った。切るのも持ち運ぶのも全て私の仕事だった、私以外だったら1ヶ月以上かかりそうだったし、その間にオークによる報復が来ないとも限らなかったからだ。そして壁の外側に大きな落とし穴を作る。強固な出入り口を突破できないと知れば壁をよじ登ろうとするだろうが、そこで穴に落ちて、全てが終わったあとに高所から一方的な攻撃をされて駆除されるのだ。本当は落とし穴に大量の針を設置してやりたかったが、敵意のない動物や訪問者が引っかかって死なせてしまう場合を考えていまの形になった。


 僅か1日で、村が見違えるように強固になった。

 村の四方には高台を設置し、各々には弓矢を持たせて、襲撃に即対応ができるようにした。男達も鍛えられ、より強くなった。明日には訓練その2も待っている。

 オーリム村、レベルアップ! といったところか。

 

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