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05:どうしてそうなった!

 メイド長のイレーネが部屋を整えている間、フィオナはヴィクトールと共に応接室に案内された。お茶を出してくれた執事のヘンリウスはメイドたちのように騒ぎ立てることはしなかったが、ヴィクトールを見る目はまるで孫を温かく見守るおじいちゃんのようだ。


「あー……何だ、その……色々と騒がしくしてすまなかった」


 人払いをした室内に、紅茶の香りがふわりと舞う。きっといい茶葉を使っているのだろうが、今の二人にその香りを楽しむ余裕はない。


「い、いえ! 少しびっくりしましたけど……皆さんが優しそうで良かったです。平民の私が婚約者だなんて、普通は反対されるものと思っていたので」

「家はもともと階級制度にあまりこだわらないからな。母も市井の人だったから彼らも慣れているんだろう。だが、もし誰かに心ないことを言われたらすぐに言ってくれ。君にはできるだけ心穏やかに過ごしてもらいたい」


 そう言った後で、二人同時にはっと顔を見合わせた。まるで本当に婚約者みたいなやりとりをしていたことに気付いて、気まずい空気が室内を徐々に覆っていく。その恥ずかしい沈黙をぶち破ろうとしたのか、ヴィクトールが出された紅茶をがぶがぶと一気に飲み干した。


「婚約のことといい、竜のことといい、正直君にとっては災難でしかないだろう。だからせめてもの償いとして、この屋敷では楽しく暮らして欲しいと……思ったのだ」

「……ありがとう、ございます。私の方こそ、何だかとんでもないことをしてしまったようで……すみません」


 恥ずかしさが落ち着くと、今度は事の重大さがフィオナの心に重くのし掛かった。テーブルの端には、鳥籠の中で眠る子竜がいる。無害に思えるほど愛くるしい見た目なのに、闇に染まれば世界を滅ぼす暗黒竜になるという。それを阻止するために、フィオナは子竜に溢れんばかりの愛を注いで聖竜へと導かねばならないのだ。

 竜のことはまるでわからないし、子育て経験ももちろんない。愛を注げと言われても、正直今は自分の置かれている状況についていくのが精一杯だ。


「幻竜は確かに危険獣だが、聖竜に育てば国の守り神となるだろう。偶然とは言え稀少な卵を孵化させたんだ。君はもっと胸を張っていい」

「でも……責任重大で……。ちょっと、怖いです」

「不安なのはわかる。だが、私もいるんだ。一人で背負う必要はない」


 そう言われて、フィオナは心が少しだけ軽くなった気がした。

 周りの状況についていくのがやっとで、気付けばフィオナはヴィクトールの婚約者として屋敷に住むことまで許可されている。自分のことで頭がいっぱいだったが、よくよく考えてみるとヴィクトールの方こそ巻き込まれただけではないか。

 それなのに彼はフィオナのことを邪険にせず、彼女が過ごしやすいようにと細部にまで気を遣ってくれている。女性に慣れていないのに、女性を大切にしようとするその姿勢に随分心が救われていたのだと、フィオナは改めてヴィクトールの優しさを実感するのだった。


「ありがとうございます」


 先ほどよりもしっかりと声を張って礼を言う。逃げられないのなら、やるしかない。何よりもここまで付き合ってくれているヴィクトールに、少しでも恩返しをしたいと、そう思った。


「子竜のお世話、頑張ってみようと思います」

「そうだな。二人で立派な聖竜に育ててやろう」

「はい。夫婦らしいことをたくさんして、子竜にたくさんの愛を見せつけてあげましょう!」

「どうしてそうなった!」




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