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収穫祭deパニック・2

 王都リグレスの収穫祭は、七日間続く。街は秋らしいオレンジ色に染まり、店も民家もカボチャをくり抜いたランタンやリース、たまにお化けの人形などで賑やかに飾り付けられている。

 城下町には建物と建物を繋いでガーランドが張り巡らされ、いこいの広場にはしろがねの人たちが作った魔法具のおかげで常に何か(ミニカボチャや花びら、お菓子。そして稀にゴースト)の幻影が宙を賑やかに飛び回っていた。


 街全体がお祭り気分で、見ているだけでもワクワクと心が躍る。露店も多く並び、近隣の町や村からも多く人が訪れ、王都はいつになく大盛り上がりだ。

 二日目と四日目の昼にはヴィクトールが指揮を執る蒼の竜騎士団が空を駆け、城下町の広場に向けてお菓子の雨を降らせるというイベントもあり、目玉のひとつとなっている。


 そして収穫祭の最終日。七日間続いた祭りを締めくくるのは、城の大ホールを開放して行われる「あなたも私も、みんなで踊ろう! 仮装ダンスパーティー」だ。

 参加条件は仮装をしていることのみ。貴族も一般人も関係なく、ただ祭りを楽しもうという王様の粋な計らいのおかげで、城の大ホールは開始直後から大勢の人で溢れかえっていた。


「フィオナ、大丈夫か?」

「さすがにちょっと疲れましたね。皆さん勢いが凄くて、びっくりしちゃいました」


 会場に入るや否や、フィオナたちは仮装の参加者たちに囲まれてしまった。竜騎士団長という、ただでさえ目立つ存在のヴィクトールだ。そこにいま街で噂の婚約者フィオナがセットで付いてくる。人目を引かないわけがない。おまけに普段は見られないヴィクトールの仮装の珍しさも相まって、フィオナたちは今の今までずっと人の輪から抜け出すことができなかったのだ。

 さすがに疲れが見え始めたところでヴィクトールが助け船を出してくれたので、フィオナはようやく人の輪から解放されて、いまは壁際に置かれた椅子に腰を下ろしている。


「すまない。もっと早くに離脱すべきだった」

「普段は竜騎士の方々とこんなに近くで会うこともないですから、その団長さんともなれば注目を浴びちゃいますよ。おまけに今日の団長さんは仮装していて、何だかとても……かわいい、ですし」


 黒猫衣装のフィオナにあわせて、ヴィクトールも今日は普段の鎧を脱いで黒猫に扮している。漆黒の鎧と色味は変わらない服ではあるが、頭の猫耳と肉球のついたグローブとブーツは嵌めているだけでキュートな印象だ。いつものヴィクトールも近寄りがたいわけではないが、仮装することで親近感はぐっと増す。


 ここリグレスでは、憧れの的である竜騎士。その団長と話せる機会も滅多にない一般市民が、ヴィクトール目当てに殺到するのも無理はないと、そう思って返した言葉はそっくりそのままフィオナに戻ってきた。


「それを言うなら、君の方だ。皆は君を見たくて集まったようなものだからな」

「私ですか?」

「婚約者として、君がこうして人前に出ることは初めてだからな。君を誰にも見せたくなくて屋敷に閉じ込めているという噂まであるほどだ。……確かに、今夜の君は不届き者が思わず手を出してしまいそうなくらいに、かゎ……か……っ、渇いたなっ! 喉が!!」

「そ、そうですねっ! わたし飲み物取ってきます!」

「いいや、私が行こう。君は座って待っていてくれ!」


 立ち上がりかけたフィオナを片手で制して、ヴィクトールはまるで本物の猫のように人の波をすり抜けて行ってしまった。



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