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収穫祭deパニック・1

※注※

フィオナはまだ団長さん呼び。思いを通わせる前の時期設定です。




「フィオナ。急な話だが、これを着てくれないか?」


 そう言ってヴィクトールが大きめの箱から取り出したのは、丈の短い黒のワンピースだ。スカートの内側にはパープルピンクと黒のフリルをふんだんにあしらい、ふんわりとボリュームのあるシルエットになっている。

 襟元の黒いファーは手触りがよく、つい何度も撫でていると、スカートのお尻部分に細い尻尾がだらんと揺れているのに気が付いた。箱の中を見れば、お揃いといわんばかりに肉球のついた黒のグローブとショートブーツ、そして猫耳のカチューシャまでがご丁寧に梱包されている。完全に黒猫コスチュームだ。


「えぇと……団長さん、これは?」


 さすがのフィオナも困惑気味でヴィクトールを見上げれば、真面目な竜騎士団長は服とフィオナから視線を逸らして赤く染まった頬をポリポリと掻いている。


「今朝、城から届いたんだ」


 町娘のフィオナは、普段シンプルなシャツとスカートで過ごしている。慣れない屋敷での生活を普段通り……といってくれたヴィクトールの厚意に甘えていたが、もしかして本当はこういう服を着て欲しかったりするのだろうか。

 仮初めとはいえ、フィオナはいまヴィクトールの婚約者だ。いつもフィオナを気遣ってくれる彼のために、服くらいなら好みのものを着てやるべきではと、フィオナは服を手にしたまま無言で思案する。


「団長さん。……もしかして、こういう趣味が?」

「ぶはっ! ちっ、違うぞ! 断じてそうではないっ。確かにこの服を着た君を見たいと思ったことは認めるが、だからといってそれを着た君を見ていかがわしい妄想はしないと絶対に誓う!」

「いかがわしい妄想……」

「いぃぃかがわしくなどないっ。私の中で君は常に清らかだ! 安心してくれ!」


 頭が爆発するのではないかと思うほどに、ヴィクトールの顔が真っ赤に染まる。何なら湯気まで出ていそうな状態に「安心しろ」と言われても、むしろヴィクトールの体の方が心配で安心できない。


「あ、あの……団長さん。大丈夫ですか? 私なら大丈夫なので……その、なんなら今から着てきましょうか?」

「うぅむ……。ぁ、いや、違う。実は二週間後に収穫祭の催しがあるんだが、最終日の夜に城で仮装パーティーが開かれるんだ。この衣装は、その仮装パーティーに出席するためのものだ」

「え? 私も出るんですか?」

「本音を言えば、あまり君を大勢の前に出したくないのだが……。あぁ、君を見せたくないとか、そういう意味ではないぞ。その……社交場は華やかなだけの場所ではないからな」


 ヴィクトールが言わんとすることは、フィオナにもわかった。彼の母親も平民だったと聞いたことがあるが、身分差ゆえにその結婚はおそらく祝福だけではなかったのだろう。

 城で開かれるという今回の仮装パーティーは、一般市民も参加出来る気楽なお遊び感覚のようなものだ。ヴィクトールが心配するようなことは起こらないだろうと思うものの、そういう細かなところまで気にしてくれる彼の優しさは、いつでもフィオナをあたたかな気持ちにさせてくれる。


「ありがとうございます。でも、私なら大丈夫ですよ」

「そう、か?」

「はい。だって、団長さんも一緒ですから」

「ッ……君はまた……」


 なぜかヴィクトールが言葉を詰まらせて、片手で顔を覆ってしまった。当然一緒に行くものだと思っていたが、もしかして違うのだろうか。そう心配して見上げれば、彼の耳が真っ赤に熟れているのが見える。


「えっ……、な、なんでそこで照れるんですか!?」

「照れてなどいないっ。そ、そうだ! ルルの仮装用のマントもあったんだった。私はこれをルルに装着させてくるっ。では、またあとで!」


 矢継ぎ早に捲し立てると、ヴィクトールはルルの衣装が入っているであろう小袋をむんずと掴んで、脱兎の如く部屋を飛び出して行った。

 その数分後。不機嫌なルルに頭を噛み付かれるヴィクトールという、もはや日常となった光景がフィオナの目に飛び込んでくるのだった。



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