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04:こんにゃく者

「最終確認をしよう。君は今夜から私の婚約者だ」

「はい」

「イスタ村で竜卵の密猟者に襲われた君を救出し、そこで私が君にベタ惚れして求婚した」

「……はぃ」

「君はそれを承諾し、片時も離れたくない私が君を屋敷へ呼び寄せた……と言うことで話を合わせよう」

「……はぃ、ぃ……」


 大きな屋敷の門扉前。すっかりと暗くなった通りには、ヴィクトールとフィオナの二人しかいない。そのどちらもが、病気かと心配するほどに顔が赤く染まっている。


「……頼むから、そんなに恥ずかしがらないでくれ」

「だ、団長さんも……顔が赤いです」

「む……そんなことは、ない」


 誤魔化すように咳払いをして、ヴィクトールが右手で顔を覆い隠した。フィオナはフィオナで顔を合わせづらいのか、さっきからずっと俯いたまま、腕に抱いた鳥籠をギュッと抱きしめている。その中に入れられた子竜は、王城を出てからコテンと眠りについてしまった。時々鼻を動かしては、ぴすぴすと気持ちよさそうに寝息を立てている。


「では、行くぞ」


 まるで戦場にでも赴くかのように気合いを入れて、ヴィクトールは屋敷の扉をくぐり抜けた。


「お帰りなさいませ、旦那様。……あら? そちらの方は……」

「う、うむ。フィオナ・イートンだ。今日からこの屋敷に住まわせることにした」

「え?」


 ヴィクトールの返答に、凜とした雰囲気のメイド長が驚愕に目を見開いた。近くにいた他のメイドや品の良い老紳士も、皆一様に作業の手を止めてヴィクトールとフィオナを凝視している。


「えぇと……旦那様? ちょっと聞き取りにくくて……申し訳ありませんが、もう一度伺っても宜しいですか?」

「彼女はフィオナ・イートンだ」

「ぁ、お名前ではなく、その先を」

「一目惚れしたので求婚したら承諾してもらえたので今日からこの屋敷にこんにゃく者として住まわせることにした」


 ほぼ棒読みで、しかも「こんにゃく者」と言い間違えたヴィクトールに突っ込む者は誰もいなかった。それどころか一瞬の沈黙の後、屋敷を揺るがすほどの歓声が沸き上がったのだ。若いメイドたちが黄色い声を上げるのは仕方ないにしても、厳格そうなメイド長や執事であろう老紳士までが笑顔を浮かべて拍手している。

 驚かれることは予想していたが、まさかここまで手放しで喜ばれるとは思っておらず、フィオナはその歓迎ぶりに若干面食らってヴィクトールの背に隠れてしまった。


「あの旦那様が女性をお連れに……!」

「しかもプロポーズ! あの女性に不慣れで不器用な旦那様が」

「このまま竜と添い遂げてしまうのか心配してたけど、あんなに可愛らしい方がお嫁に来てくれるなんて……これでティルヴァーン家も安泰だわ」


 なんて言葉があちこちから聞こえてくる。竜騎士団の団長ともなればお金も地位も申し分ないし、ヴィクトール本人も多少堅物ではあるがその精悍な顔立ちに心奪われる女性は多いだろう。

 なのに、現実は使用人に心配されるほど女っ気がない。こうして騒がれるだけで顔を真っ赤にして困るほど、その手の話に耐性もなければ経験もなさそうだ。

 イスタ村でフィオナを助けてくれた凜々しさはどこへやら。けれどその純粋さをフィオナは好ましいと思った。


「すまないが、みんな落ち着いてくれ。彼女が驚いている」


 ヴィクトールがそう言って場を宥めると、また遠くの方で「キャー!」という声が上がった。


「急で悪いが、イレーネ。彼女の部屋を用意してくれないか?」

「畏まりました。お部屋は隣同士が宜しいでしょうか?」

「……少し離してくれ」





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