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理想になりたい最強たちのボス  作者: うちよう
一章 ギルド創設編
9/21

09 冒険者たち

 せっせと素材回収をしている最中に、俺はフランにあることを聞いた。

 それは、孔雀との戦闘時に起こった「生霊力(ライフ・コア)」の使用不可についてだ。

 孔雀が不穏なオーラを放ち始めてから、「身体強化」と「破滅の呪縛」がなぜか使えなくなったのである。


 それで話が済むのであれば、それでよかった。

 しかし、同じ「生霊力(ライフ・コア)」の過程にある「生霊吸収」はなぜか使えたのだ。

 この矛盾が指す答えは何なのか、答えは以外と簡単なものだった。


 「「生霊力(ライフ・コア)」の効力は、主に攻撃系統と防御系統に分かれるのよ。「身体強化」と「破滅の呪縛」が使えなかったのは、恐らく攻撃系統の力を封じ込められたから」


 フランの話曰く、「身体強化」と「破滅の呪縛」は攻撃系統、「生霊吸収」は防御系統という事らしい。

 確かに、その理屈だと「生霊吸収」が使えたことも納得だし、吸収してから「身体強化」と「破滅の呪縛」が使えるようになったことも筋が通っている。

 なるほど、今回もかなりいい勉強になった。


 「それより、早く収集しないと朝になっちゃうよ?」

 「あぁ、そうだな」


 いつの間にか止まっていた手を再び動かして、孔雀の素材回収を進めて行く。

 そして、全ての素材を回収できた頃には、すでに陽が登り始めていた。

 時間にして、大体五時と言ったところだろうか。

 意識とは別に、自然と大きな欠伸が口から漏れる。


 「今から寝る?」

 「いや、休むならせめてどこかの国についてからにしないか?」


 フランを先に寝かせても、しばらくしたら寝てしまう自信しかしない。

 お互い疲れているわけだし、やはり安全な国で休んだ方が良いだろう。


 「それもそうね、それよりこの素材をどうやって運ぶ?」

 「そうだな……」


 俺たちの足元は、孔雀から取れた数多くの素材で埋め尽くされていた。

 妖しい闇光を宿した羽毛に、肉体を貫通させてしまいそうな鋭利な嘴、そして三叉の冠羽。

 嘴と冠羽の部分は普通に持て行けそうな気がしたのだが、闇色の羽毛は量的に不可能だ。

 量にして、大体五キロぐらいある。

 何か、袋になるようなものがあればいいんだけど……。


 「何か袋になるようなものとか持ってないよね?」

 「持ってないわ」

 「だよなー。さて、どうしたものか……」


 良い方法がないか模索していると、ふと遠くから人の声が聞こえた気がした。

 声がする方に集中して耳を傾ける。

 慌てているような……楽しんでいるような……そんな感じの良く分からない声だ。

 でも、確かな情報を手に入れることができた。


 「どうやら、遠くの方に人がいるみたいだな。問題はそこまでの距離をどうやって運ぶかだが……」


 戦闘は全て俺が引き受けると言った手前、ここにフランただ一人取り残していくわけにも行かないだろう。

 かといって、偶然手に入れたレア素材をここへ放置していくわけにもいかない。

 さて、どうしたものか……と頭を悩ませていたところへ、何か考え付いたのかフランがツンツンと腕を突いてきた。


 「何かひらめいたのか?」


 フランの方を窺ってストレートに尋ねてみるも、フランの視界の先には俺の姿は映っていなかった。

 ただ、フランは生い茂る森林の中を一心不乱に黙って見つめていて——————


 「……来るわ」


 と、一言だけそう告げた。

 フランの唐突な発言を理解するのに数十秒の時間を費やしてしまったわけだが、それでも言葉の意味はさっぱり分からない。

 来るって、魔物のことを言っているのだろうか?

 答えが曖昧なまま時間だけが過ぎていき、やがてフランが口にした言葉は現実となった。


 「おい、やべぇって! このままずっと逃げ続けるのかよ!」

 「しょうがねぇだろ! 今の俺たちには攻略難易度が高すぎるんだから!」

 「ダメ……私、体力が……」

 「って、おい!?」


 草むらを飛び越えたところで、ローブを纏った魔法使いらしき女性が倒れ込み、鎧を身に付けた男二人が慌てて後ろを振り返る。

 装いからみて、三人はパーティーを組む冒険者のようだ。


 「クソ! こうなったらやるしかねぇ!」


 一人の男の掛け声とともに、二人はそれぞれ剣と槍を構え始める。

 すると次の瞬間、森の奥から重々しい足音を鳴り響かせながらこちらへ迫ってくる黒い巨体が窺えた。

 ハリネズミのような刺々しい体毛に覆われた体長四メートルを超える巨体に太くて短い四肢。

 その様はまるで、ハリネズミの要素を兼ね備えた新種の熊のようだ。


 「来たな! このバケモンが!」

 「グォォォォォォォォォ!!!」


 地響きを錯覚させる怒声が、辺り一帯に響き渡る。

 そして熊は、男たちの方に目掛けて喰らおうと一心不乱に突進していく。

 流石に三人の助けに入った方が良いだろう。

 ここまで逃げてきたということは、自分たちの手には余るという結論に他ならないのだから。


 俺は、「身体強化」と「破滅の呪縛」を使用して颯爽と三人の助けに入ろうとする。

 だけど、状況はすぐに一変した。

 体長四メートルを超える巨体を囲うように吹雪が覆い尽くし———————


 「「氷獄(ヘル・ブリザード)」」


 フランがポツリと言葉を零すと、吹雪が取り囲んでいた熊に向かって収束していく。

 熊は怒声を漏らす隙も与えてもらえず、黙って氷漬けにさせられた。


 「い、一体何が起こって……」

 「俺たち、助かったのか……?」


 男たちは突然の出来事に状況を飲み込めていない様子で、氷漬けにされた熊を見つめながら言葉を漏らす。

 まあ、実行犯は確認するまでもない。


 「ふ、フラン? 戦闘は俺担当じゃ……」 


 戸惑いながらフランに問いかけると、彼女は反応を見せることなくスタスタと熊の元まで歩み寄っていってしまう。

 その背中を追いかけるようについて行くと、そこで三人は俺たちの存在に気が付いたようだ。


 「あ、もしかして、あなた方が……」


 剣を持っていた男がこちらへ振り返った途端、言葉を止めた。

 代わりに口を開いたのは倒れ込んでいた女性だった。


 「ば、「爆氷の女王」!?」


 ローブを纏った女性は、驚きのあまりか倒れ込んでいた身体を一気に起こした。

 他の男二人も視線の先がフランに釘付けになったまま固まってる。

 てか、「爆氷の女王」って、フランにはそんな格好いい二つ名があるのか……。


 そんな三人の横をフランは黙って通り過ぎると、転がってた石を拾い上げて氷を打ち付き始めた。

 どうやら「孔雀」の時と同様、素材回収のために氷漬けにしたらしい。


 「え、一体何が……?」

 「何かの儀式なのかな……?」

 「いや、氷を石で打ち付ける儀式なんて聞いたことねぇぞ……?」


 あまりの異様な光景に戸惑っている三人に、俺はフランに代わって話しかける。


 「大丈夫でしたか? 怪我とかは……」

 「あぁ、何とか助かったよ。ありがとうな」

 「いえいえ、俺は何もしてないので、礼を言うなら彼女に言ってあげてください」


 フランからならともかく、この三人から話を振って上げられれば会話ができるかもしれない。

 だけど、顔を見合わせる三人の表情は戸惑いの色で染まっていた。


 「助けてもらって失礼ですけど、いきなり氷漬けとかにされないですよね……?」


 三人を代表して女性が口を開く。

 予想だにしていない返答に、思わず目が丸くなる。


 「いや、フランってそんな理不尽な存在なんですか?」

 「お兄さん聞いたことねぇのか? 「爆氷の女王」って言ったら、一国を永久凍土に変貌させた極悪の女王なんだぞ?」

 「しかも、気に入らない者は片っ端から氷漬けにするっていうのもあるよな」

 「へ、へぇ……。そうなんですね……」


 フランがそんな氷の殺戮兵器みたいな存在には思えないが、この世界で生きる彼らがそう言うのだから間違いないのだろう。

 俺を氷漬けにしないのは、きっと交わした約束があるからだ。

 もし、約束をこちらから一方的に破棄しようものなら間違いなく氷漬けにさせられる。

 もしかしたら俺は、とんでもない子と約束を交わしてしまったのかもしれない。


 というか、フランが人々から距離を置かれてる原因ってそれらが原因なんじゃ……。

 コミュニケーションがうんぬんの前に、フランの性格をどうにかしなければなさそうだ。


 「でも、「爆氷の女王」が誰かと一緒に居るなんて噂聞いたことねぇな。何か弱みでも握られてんのか?」

 「いや、弱みというか約束を……」

 「何ですってぇ!? もしかして人類殲滅計画の手助けを!?」

 「いや、だったらここで三人を助けてませんよ!」

 「だったら「爆氷の女王」とどんな約束を交わしたんだ!?」

 「それは……」


 まあ、誰かに言っても問題ない約束だし話しても問題ないだろう。


 「い、色んな人と仲良くできるようにするっていう約束を……」

 「「「……嘘言っちゃいけないよ」」」


 タイミングを合わせてもいないのに、三人の声が絶妙にハモる。

 さて、この三人をどう説得させるか……。

 そんなことを考えると、素材収集の手を止めたフランがこちらへとやってきて一言——————


 「嘘よ」


 と、宣った。

 一瞬にして、場の雰囲気が冷たくなる。


 「い、いや、お前、色んな人と仲良くしたいんだろ?」

 「したいわ」

 「じゃあ、嘘じゃないじゃん」

 「嘘なのは、そっちの三人の方よ……」


 フランがチラッと三人に視線を向けると、三人の肩が同時にピクリと上下に動いたのが目に見えて分かった。

 三人揃って氷漬けにさせられるとでも思ったのだろうか、表情がかなり強張っている。


 「三人が嘘って、どういうことだ?」

 「私、理不尽に氷漬けなんかにしないわ」

 「……あ~」


 どうやら、三人が口にしていた噂に対しての訂正を入れていたらしい。

 というか、話題が持ち上がってるタイミングで訂正を入れて欲しかったよね。

 だけど、ちゃんと訂正したおかげで、緊張で表情を強張らせていた三人の表情が少しだけ緩んだ。


 「……バラン、どうしたの?」

 「え、何が?」

 「なんだか、安心した顔してる」

 「え、嘘!?」


 表情を指摘されて、反射的に顔を触る。

 触ったところで、自分が浮かべてる表情なんて分からないのに……。


 「もしかして、噂を信じてたの?」


 何でもないたったその一言に、俺の心臓が大きく跳ね上がった。


 「い、いやいや! フランはそんなことする奴じゃないって信じてたぞ!?」

 「まあ、一国を永久凍土にしたのは本当だけど」

 「……え、全部嘘だったんじゃないの?」

 「私が訂正を入れたのは、理不尽に氷漬けにしないってことだけよ」

 「そ、そうか……」


 言われてみれば確かに、フランは一国を永久凍土にした噂に訂正を入れなかった。

 つまり、フランは本当に一国を氷の海と化して滅ぼしたという。


 「でも、もしそうなら何かしらの理由があってそうしたんだろ? フラン言ったじゃないか。理不尽に氷漬けにしないって」

 「そうね、滅ぼした理由ならもちろんあるわ」

 「俺たちも、ぜひ聞きたい!」


 俺とフランの話に割って入ってきたのは、剣を腰に備え付けた男だった。

 その表情からは、恐怖に怯えながらも真実を知りたいという強い気持ちが読み取れる。

 男だけじゃなく、残りの二人も同じ気持ちのようだ。

 そんな三人を、ただひたすら黙って見つめるフラン。


 「俺も友達として、フランに何があったのか知りたい」


 すると、フランは俺たちの元から離れていきながら一言告げた。


 「素材収集を手伝ってくれたら、教えてあげる」

 「情報提供料にしては安すぎじゃね!?」


 ツッコミを入れつつ、俺と三人の冒険者は素材収集をすることになった。


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