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理想になりたい最強たちのボス  作者: うちよう
一章 ギルド創設編
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06 意外な一面

 「なあ、聞きたいことがあるんだけど、ちょっといいか?」


 国へ向かい始めてから十分が経過し、俺はふと疑問に思ったことをフランに尋ねる。

 しかし、フランは「今忙しい」と一言だけ言って、俺の疑問に取り合うつもりはなさそうだった。

 心に疑問を持ったまま、俺とフランは黙って歩き続ける。


 今向かっている国が一体どんな国なのかも知っておきたいところでもあるのだが、それよりも確かめたいことが俺の中にはあった。

 でも、フランは聞く耳を持ってくれない。

 だから俺は、黙ってフランの後をついて行くしかなかった。

 そして、それから歩き続けること一時間以上が経過した頃、さすがに黙らずにはいられなかった。


 「なぁ、そろそろ答えてもらってもいいか?」

 「……」


 俺に背中を向けたまま、フランは無言を貫いている。

 それでも、俺は声が届くと信じてフランに言葉を投げかけた。


 「道、間違えたんだろ? 近くに国があるって言ってたけど、かれこれ一時間は過ぎてるし」

 「……」

 「誰にだって間違えはあるし、気に病む必要はないぞ? だから、今日はこの辺で休憩しないか?」


 気が付けば、西の空が橙色に染まっている。

 今日中には森林帯を抜けたかったが、これ以上森の中を彷徨い続けるのは危険だろう。

 それに、野宿するとなればそれなりの準備が必要になる。

 個人的な意見としては、明るいうちに一夜を乗り越える準備を最低限整えておきたかった。


 「……バラン、大変よ」


 急に足を止めたフランが深刻そうに言葉を紡ぐ。

 現時点でもかなり深刻な状況なのだが、とりあえず話だけでも聞くとしよう。


 「何が、大変なんだ?」

 「緊急事態とは、まさにこのことをいうのね」

 「いや、だから大変な事って一体なんだよ」


 すると、フランは夕陽に当てられた煌めく銀色の髪をふわっと靡かせ、無機質な表情を浮かべながらこちらへ振り向いた。


 「こっちにあったはずの国が、なくなってるわ」

 「いや、普通に道を間違えただけだろ?」

 「酷いわ、私が嫌いだからって姿を眩ませるなんて……」

 「いや、そんなことはないと思うけど……」


 フランが僅かに悲しそうな表情を浮かべるものだから、ツッコミを入れる気力も失ってしまう。

 まあ、どちらにせよ、今日はここで野宿する他ないだろう。


 「この近くに、薪を取れるところか川のあるところはないのかな?」

 「……あるわ」

 「変な間を置かれると、余計心配になってくるんだけど」

 「大丈夫よ、私に任せて」


 フランの表情は自信に満ち溢れている。

 だけど、俺の心の不安は拭いされそうになかった。


 フランと出会ってから初めて気付いたのだが、彼女はきっと方向音痴なのだ。

 そんなフランに案内役を任せるのは正直不安でしかないのだが、何もできない俺があれこれ文句を垂れる筋合いはない。


 「それじゃあ、案内してくれるか?」

 「分かったわ、きっとあっちの方だわ」

 「きっと!? 確実じゃないの!?」


 俺の渾身のツッコミを無視して、フランはスタスタと茂みの中へと消えて行く。

 急いでフランの後を追いかけるのだが、先ほどの道とは違って誰かが通りかかった痕跡がまるでない。

 刻一刻と時間が経過するにつれて、影が森林を徐々に侵食していく。


 そして歩き続けること五分、俺たちは無事に川辺へと辿り着くことができた。

 鮮度の高い澄み切った川が、俺の不安を一気に拭い去っていく。

 このまま人気のない森林の中で野宿する羽目になったらどうしようかと不安で一杯だったが、今回ばかりは本当に辿り着けてよかった。


 「それじゃあ、俺は焚き火の準備に取り掛かるから、フランはこの付近で食材集めでもしててくれ」

 「分かったわ、私に任せて」


 川を発見したことで自分に自信がついたのか、フランの表情は少しばかり自信に満ちている。

 少々不安だが、陽も沈みかかっていることだし、二人で共同作業はかなり効率が悪い。

 だから俺は、フランを川辺に残して一人薪探しを始めた。


 キャンプとか「勝ち組」の奴らがやる行事なので、「負け組」の俺は全くしたことないのだが、一度だけ興味本位で調べたことがある。

 確か、火起こしに向いている木が、スギ、松、ヒノキなどの針葉樹で、葉の形が針のように尖っているとのこと。

 多分、この異世界にスギとか松、ヒノキが存在しているとは考えられないので、代用となるそれらしい木を探してみることにした。


 すると、思いのほか、それらしい木をあっさりと見つけることができた。

 辺りにも枯れ木が沢山落ちていたので、なるべく多く枯れ木を回収してからフランの元へと戻る。

 辺りはもう、すっかり夜だ。

 完全に真っ暗というわけでもないが、数メートル先がすでに見えなくなっていた。


 「フランのやつ、一人で大丈夫だろうか……?」


 そう思うと、帰りの足取りが自然と早くなる。

 そして、俺が無事川辺に戻ると、フランは浅い川の中で中腰になって構えていた。

 魚を捕まえようと躍起になっているのだろうか。

 その姿が、なんとも可愛らしく——————


 「……ん?」


 俺は、あることを不思議に思った。

 フランって、あんなにスタイル良かっただろうか?

 いや、最初からスタイルは良いなとは思っていたけど、「出てるところは出てて、引き締まるところは引き締まっている」と、目視だけではスタイルを確認することができなかった。

 でも、今はなぜか目視で確認することができる。


 「バラン、帰ってたのね」


 フランの少し離れた位置から川辺を眺めていたため、今まで気が付かなかったようだ。

 そして、フランが一歩、また一歩とゆっくり近づいてきたタイミングで、俺の中にあった疑念はすっかり解けた。


 「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」


 らしくもない甲高い声を上げながら、俺はすぐさまフランに背中を向ける。

 それもそうだ、だって今のフランは全てが丸見えのすっぽんぽんだったのだから。


 「ちょっと、フランさん! あんた一体何してんの!?」

 「……? 魚を獲ってたんだけど?」

 「それは見てたから分かってるよ!」


 見なくても分かる、フランの口調から察するに今の彼女は不思議そうに首を傾げているはずだ。

 まるで、俺の反応がおかしいと言わんばかりに——————


 「どうしたの? それより見て、魚大量に獲れたよ?」

 「この状況で見れるわけないだろ!? さっきまで着てた服はどうしたんだよ!」

 「……「霊装」のこと?」


 そうか、フランの着ていた服は「霊装」というのか。

 俺に「霊装顕現」と口にさせたのは、フランと同じ類の服を作り出せるか試していたらしい。

 あの時は、俺ができなかったせいで話をすぐ切り替えられたから、結局何をさせられたのか分からなかったが、ようやくフランの奇行を知ることができた。


 「……って、そうじゃなくて!」


 自分の思考にツッコミを入れてから言葉を綴る。


 「だったら、なんで「霊装」を解いた!? 着たままでも魚は獲れるだろ!」

 「馬鹿ね、着たままだと服が濡れるわ」

 「そうだとしても! すっぽんぽんのまま魚を獲るのはまずいでしょ!?」

 「まずくないわ、身体も洗えて一石二鳥。バランも浴びる?」

 「浴びません! 普通、異性の前で裸にならないでしょ!?」

 「でも、私は裸になってるわ」

 「もういい! もう分かったから早く服を着てくれ!」


 このままだと、俺の方がどうにかなってしまいそうだった。

 フランは別段恥ずかしがる様子もなく、「分かったわ」と淡泊に告げてくる。


 異世界人は、威勢の前でも平気で裸になれる者ばかりなのだろうか。

 もし、そうだとしたら「負け組」の俺にはあまりにも刺激が強すぎる。


 「もう、大丈夫よ」

 「ほ、本当だろうな……」


 両手で顔を覆い隠してからゆっくりとフランの方へと振り返り、指の僅かな隙間からフランの様子を窺う。

 目の前には、純白のドレスを着た少女が一人。

 どうやら、服をきちんと着てくれたようだ。


 「何してるの?」

 「いや、フランがちゃんと服着てるかを確かめただけだ」


 顔を覆っていた両手を剥がし、フランの疑問に反論する。

 すると、フランは首を傾げながら不思議そうな視線を俺に浴びせてきた。


 「バランって、本当に変わった生き物ね」

 「それは、今まさに俺が思ってることだ!!!」


 腹から出した俺の叫び声は、光を落とす薄暗い森林に木霊していった。



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