最終章-1 英雄たち
『ワールドクエストをすべてクリアしました。最後の間を解放します』
北極の最後のダンジョンマスターを倒した剣也たちに流れたのは、いつものシステム音声
そしてワールドクエストをすべてクリアしたとの報告
「最後の間?」
三人が疑問に思うと、それは現れた。
ボス部屋の真ん中に巨大な扉
あぁ俺はこの扉を知っている。
何度も何度も開けてきた。たった一人で。
剣也は、ゆっくりと扉に近づき、手を添える。
その手には王の手、そして静香の手が重ねられる。
温かい。仲間の手。もう一人じゃないんだ。
「行こう。俺たちならきっと大丈夫だ」
…
巨大な門を開き、一人の男が足を踏み入れる。
その後ろには、二人の仲間を引き連れて。
『あなた一人ではないのですね、ここまできたのは』
そこには、一人の女性が立っていた。
顔は見えない。いや、ないといった方が正しいか。それでも少し嬉しそうに答えた。
「あぁ、俺には仲間がいる」
『今回は、どれだけ殺したんですか?』
「誰も殺させないための戦いだ」
『変わったのですね。やっと』
「そうらしい、お前は誰なんだ?」
『やっと、聞いてくれましたね。私はEND。この世界の頂点として作られた存在です。私を倒してください。そうすればすべてがわかります。では始めましょうか。最後のクエストを』
『ラストクエスト 【最強の討伐】 ENDの討伐をもってこの世界は終了します』
直後女性は、巨大な女神像となり、体からは多くの触覚のような触手が何本も生える。
そして、英雄たちとENDの戦いが始まる。
王は、手始めにENDに殴りかかる。
直後発生するシールド、そして【Unbreakable】という文字列
「は? なんだそりゃ」
「破壊不能?」
三人は、困惑する。その文字列の意味することに。
もしそうだとしたら勝てるわけがない。
確かめるように、何度も何度も攻撃を繰り返す。
しかしすべて同じ。
破壊不可能という文字と共に幾何学模様のシールドが現れる。
「まじかよ。強いとかそういう話じゃねぞ、剣也」
「あぁ、もう少し試そう」
女神象の攻撃をかわしながら、剣也たちは、何度も反撃を試みる。
どれだけの時間がたっただろう。
永遠にも感じるその戦闘を経て、唯一わかったこと。
俺たちでは、あいつを倒せない。
扉は消失し、撤退も不可能
これはいよいよ、まずいと剣也たちに冷や汗が流れる。
ただ一人静香だけは、何かを迷っているようだった、
『今回もだめなのですか、御剣剣也』
「うるさい、反則技使いやがって」
剣也は、悪態をつきながら触手をかわす。
10時間はたったか、3人の疲労はピークを迎える。
そこで、剣也は、触手の攻撃を受けそこなった。
ガードこそしていたが、疲労からか筋肉が思うように動かず、受け流すのに失敗した。
「ぐあぁぁぁ」
うずくまる剣也。すかさず王が間に入り、援護する。
このままでは、敗北する。
三人の脳にその考えがよぎる。
それを見た静香は剣也へ近づいていく。何かを決心したように。
*
「ねぇ、剣也? あなたのポイントは今いくつなの?」
静香は、最後のダンジョンに入る前の休息で剣也とした会話
「95億ぐらいかな。正直使い道はないけど」
「そう、私もこのダンジョンでちょうど100億になるわ」
「これだけあっても無意味だけどな」
「ええ、そうね…」
静香だけは、意図に気づいていた。この世界の仕組みに。残酷な仕組みに。
もしその時がきたら、私が、彼に…。
*
「王! 5分だけ時間を稼げる?」
「あぁ、全力出せばなんとかな。なにか考えがあるのか?」
「ええ、お願い」
「剣也」
静香がなんとかその場で立ち上がる剣也に歩み寄る。
「少しだけ目をつぶってくれない?」
静香は、剣也の前に立つ。しっかりと剣也の目を見据えて。
「え? どうして?」
「いいから!」
「わ、わかった!」
キス? この状況で? 剣也はキスされると思った。
でも、静香は少し泣いていた? わからない。
直後感じたのは、唇の感覚などではなかった。
刀で刺される痛み。驚き目を見開く。
静香が、剣也の左腕を、少しだけ刀で刺していた。
「し、静香! 何を、ぐっ!」
剣也の体が動けなくなる。静香の能力麻痺によって。
「剣也、折れないで。そして絶対に勝ってね」
静香は、笑顔で俺を見た。
何を言っているんだ?
静香は、剣也の右手、閻魔を握る手を握る。
まさか。
しかし、剣也の体は動かない。
「剣也。あなたが大好き、私は幸せにできないけど、きっと幸せになってね」
静香は満面の笑みで剣也をみる。そして閻魔を自分の心臓に突き刺した。
剣也の手を強く握りながら。
「しずかぁぁぁl!!」
やっと動いた体で剣也は静香を抱きかかえる。
「なんで、なんで静香!」
「きっとこれしかないの。ずっと気づいてた。でも気づかないふりをしてた」
この旅が始まった時から、この世界が求めていることに静香だけは気づいていた。
200億ポイント、それが意味することを。
血を吐きながら静香は、血の付いた手で剣也の頬に触れる。
「ごめんね、剣也。勝ってね、あいつに。世界に」
「静香、静香! 目を閉じないでくれ! 静香」
剣也は必死に静香を呼ぶ。その手を必死に握り返す。
この世界につなぎとめようと、必死に静香の名前を呼ぶ。
「剣也、最後のわがまま。あなたから…キスし…て」
困惑しながらも剣也は、静香にキスをする。
彼女が望むのなら。
「やっぱ…り、むずか…しいね、うまく…うごか…な…」
静香は、笑いながらゆっくりと目を閉じた。剣也を強く握ったその手には力はない。
『No00023 二菱静香の討伐を確認しました。ポイントが移ります』
システム音声は、静香の死を無機質に剣也に伝えた。