5-2 悲しみの狂戦士(2)
下卑た顔の軍人に連れていかれた場所は、一部分だけ汚れているコンクリートに囲まれて場所
「じゃあ、お兄ちゃんからいってみようか」
そして、王偉は、コンクリートの真ん中に立たされる。
「何をするつもりだ!」
王偉は必死に抵抗する。しかし鎖でつながれ動けなくなる。
「準備よーし! 発射!」
「え?」
直後放たれた銃弾の雨
そのすべてを王偉は受けた。
「兄ちゃん!!」
妹は叫び、目をそらす。まさか殺されるために捕まったのか?
混乱する頭の中で兄の死を悲しむ間もなく銃弾は終わり、妹は恐る恐る兄だったものを見る。
「え?」
直後現れたのは、まったく無傷の兄の姿
「ほぉーすごい。ほんとに無効化するのか」
軍人は、わかっていた。
にわかには信じられない話だとは思っていたがこの結果は事前に知っていた。
「なにが起きているんだ?」
王偉は、確かに銃弾を受けた。
受けたと思っていたが、直前で幾何学模様のバリアが身を守ったのを理解していた。
頭では理解できなかったが、確かにバリアのようなものが体を守っていた。
「よーし、じゃあ次は火炎放射!」
そして放たれる人間が存在できるような温度ではない火炎の息吹
しかし、現れたのは、やはり無傷の少年
「ふぅーむ。火もだめか、どうなっているんだ? では気温などは感じているのか?」
王偉は、理解した。
こいつらが何をしているのか。
何が起きているかはわからないが、自分は特別な力を得たらしい。
そして、それをこいつらは実験しようとしているらしい。
実験は続いた。
しかしどの兵器に対しても王偉は、バリアで無効化していた。
「ふむ、無効化するのは、攻撃か。もしかして攻撃の意志を感じ取っているのか?ならじわじわと効くようなものならいけるか?」
そして、兄妹は牢屋に連れ戻された。
「兄ちゃん、大丈夫?」
「あぁ、何も感じなかった。よくわからないがバリアみたいなものが守ってくれているらしい」
そのまま時間は経ち、数時間。
「な、なぁ! 軍人さん! 水をくれないか? できれば食べ物も。あんたたちも俺たちが死んだら困るんだろ?」
「ははは! 困らんよ。なんせ俺たちはお前たちがどうやったら死ぬかを実験しているんだからな。餓死? 大いに結構。そのまま死んでくれ」
「な?」
兄妹は絶望した。軍人の回答は、幼い兄妹に絶望を感じさせるには十分だった。
「兄ちゃん。喉が渇いたよ」
「あぁ、大丈夫だ。俺が何とか逃がしてやるからな」
その日の夜 兄は妹を抱きしめて休んだ。
明日だ、明日こそ隙をついて逃げてやる。こいつだけでも。たった一人の妹だけでもここから逃がしてやりたい。
翌日
そんな兄の思いをあざ笑うかのような完全な拘束のもと二人は別室に連れていかれる。
「まずは溺死からためしてみようか」
直後二人は、そのまま水につけられる。息ができない! 苦しい! 死ぬ!
「おぉ、これは効果ありか! 溺死は攻撃に含まれないと。よし引き揚げろ」
「はぁはぁはぁ、もう許してくれ、せめて妹だけでも、俺がいれば十分だろう」
兄は嘆願する。
「何言ってるんだ。お前が死んだあと用のストックだ。ストックはいくらあっても足らないからな」
そんな兄の願いをあざ笑うかのように軍人は笑って答える。
「あ、悪魔め! はなせ! これをほどけ!」
このままでは、いつか殺される。兄は必死に拘束を解こうとするが、外れない。
「じゃあ次は、ゆっくりナイフを刺してみるか」
次は、電撃、次は、圧殺、次は、毒殺、次は、落下死
次は、次は、次は、次は、次は、次は、次は、次は
あらゆる方法を試された兄妹は心身ともにボロボロ。
すでに生きる希望を失っていた。
そんな地獄のような日々が3日続く。
人間は3日も水を飲まなければ死ぬ。
兄は、思った。やっと解放される。この地獄から。
すでに逃げる気力は失っていた。唯一心残りなのは、妹を助けてあげられなかったこと。
その妹も疲弊し、牢屋の横で横たわる。
何度も妹の悲鳴を聞いた。何度も殺してと叫ぶ妹の声を聞いた。
兄は最後の力で、妹に近づく。
これ以上、つらい思いをしないように。これ以上あいつらに弄ばれないように。
せめて俺の手で妹を楽にしてあげよう。
兄は、起き上がれない体を張って妹に近づき、馬乗りになる。
そして妹の首を絞める。精一杯残りの力を使って。
「ごめん。ごめんな。あとで兄ちゃんもいくからな」
もう水分など枯れてしまったとおもっていた。それでも目から涙があふれる。
どうして殺さなければならないのか最愛の家族を。
その涙はそのまま落ち、妹の頬を伝う。
妹もうっすらと目を開け、兄の意図を感じ取る。
干からびた唇をゆっくり開き最後の力を振り絞るように兄に語り掛ける。
「ごめんね。兄ちゃん。ありがとう」
妹は、力なく目を閉じ、笑った。
そして静かに息を引き取った。
手の中で脈打つ妹の血を感じなくなった。
唇は変色していき、体は冷たくなっていく。
殺した。俺は、妹を殺した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」
妹の息の根を兄は止めた。枯れたと思った声がでる。心の叫びが。
唯一の肉親。唯一の妹。たった一人の愛する家族
それを自ら手にかける。それはどれほどの痛みを伴うのだろう。
どれほどの試練だったのだろう。
無慈悲な音声が脳に響く。
『心の急激な増大を確認しました。』
憎い、あいつらが憎い。
俺たちが何をした。妹がなにをした。なんで死ななければならない。
『心の鉢が最大値となりました。』
殺してやりたい。あいつらを
殺してやりたい。全員を
『これによりSランクギフトを発芽します。Sランクギフト 狂戦士を取得しました。
ギフト説明:目的を設定したのち、その目的を達成するまで理性を失います。
対価として、状態異常無効と身体能力が100+(殺害した累計人数)倍増加します。
(最大値100000)』
目的? 決まっているだろう。殺すんだよ! あいつら全員を!
『目的が設定されました。 狂戦士を発動します』
「ギャァァァァ!」
その咆哮は、天まで届く彼の怒りの咆哮
この世界に、初めて誕生したSランク
それは神のごとき力、世界を滅ぼさんとする破壊と悲しみの化身
彼を止めることなどできる存在がいるのだろうか
彼の怒りを止めることなどできるのだろうか
彼の悲しみを受け止めることができるものなどいるのだろうか
見なかった人用;概要
兄妹は、特別な力を手に入れたため中国の軍人に実験として、いろいろな方法での攻撃を試されます。
その過程で心身が疲弊した兄と妹。兄は妹を手にかけます。もう苦しまなくていいように。
そしてその影響で、心の鉢が最大となりSランクギフトを発芽 身体能力が向上し、すべてを滅ぼさんとします。
辛い。