3-2 護るべきものたち
剣也はランニングにしながらも街の様子を見て復興が進んでいるのを感じる。
防衛省までのいつものランニングコースには、
ファンがちらほらと出待ちしており、いつも通る商店街では、みんなに挨拶された。
「頑張れよ!坊主!」
いつも、買い物していた肉屋の親父
「応援してるわよ。剣也君!!」
いつも買い物する魚屋のおばさん
「がんばれぇ!にいに!」
そのおばさんのまだ呂律の回らない小さな娘
いろんな人からの応援をうけながら
剣也は防衛省に走る。
自分の守るべきものの存在を自覚しながら。
広大な敷地の防衛省につき、中に併設されているジムへ向かう。
入口では、受付のお姉さんと毎朝の挨拶を交わし、
八雲さんにもらったら入館証で入館する。
中の職員の方達とも、挨拶を交わしながらジムへ向かう。
ジムへつくと神宮寺さんが待っていた。
「よう!坊主
今日も時間通りだな。
そんな真面目じゃ人生損するぞ。」
時間通りに来たのにひどい言い分だな。
と思いながら剣也は答える。
「おはようございます。神宮寺さん
今日もよろしくお願いします。」
「あぁ、今日も筋肉と語り合おう。」
神宮寺さんは筋トレマニアだ。
趣味は筋トレ
好きなものは自分の腹筋
好きな食べ物はプロテインとささみ
嫌いな食べ物は脂質
脂質は食べ物じゃないだろと思ったが、どうでもいいのでノータッチだ。
30代半ばなのに、この肉体を保てるのは
普通にすごいと思う。
俺は着替えを済ませてジムへ入る。
まだ朝も早いためジムにはほとんど人はいない。
そこに若い黒髪の女性がマシンを使って筋トレしてる。
「おはよう!静香!」
俺はちょっとした悪戯心でゆっくり近づき
静香に勢いよく挨拶した。
「ひゃう!」
静香は、びっくりしたのか
変な声を上げて、マシンを勢いよく手放す。
「け、けんにゃ。いつからいたの?」
顔を真っ赤にしながら静香は、噛みながら、あたふたと答える。
そんなにびっくりしたのか。すまない。
「今だよ?相変わらず静香は早いね。」
「ふ、ふん!私はあなたと違って努力しなければ魔獣の一人も倒せないからね。
あなたの倍頑張るわ。」
今日も相変わらずツンツンしてるなと思いながら、努力家の静香を俺は尊敬している。
毎日なんでこのジムまできてやってるのか知らないが、俺と同じでさぼってしまわないようにだろう。
「そっか、じゃあ俺も頑張らないとな。」
そう言って俺はベンチプレスから始めた。
俺の新しいギフト
護りの剣豪
攻撃を受けた後、一定時間身体能力を10倍にする、だが
もともとの身体能力を向上させておけばより強い効果が得られることがわかった。
一度静香に攻撃してもらい、発動させたとき
すごい力が溢れるのを感じた。
そのときの握力計を使って測定したが、握力は250キロあった。
もともとが25キロなわけじゃないぞ?
シンプルに10倍だから力も10倍というわけでは無さそうだ。
強い力を持っていても、力の出し方がわからなければ最大値は出せない。
なので、午前中は筋トレ、
午後からはギフトの練習に費やしている。
思考加速も1000倍の加速の中でうまく体を動かす方法を学んでいた。
どうしても普段よりは思考と身体にズレが発生してしまう。
こう思うと、やはり神の子学園は必須だった。
他のナンバーズのギフトも基本的に練習しなければ使いこなせなさそうだという。
そんなことを思いながらも
剣也は、ベンチプレスにせいをだす。
始めた頃は30が限界だったが、今では50も余裕だ。
目標は100だが、ちょっと厳しくないか?
そんなひたむきに頑張る剣也に熱い視線を注ぐ少女がいる。
あの戦いからだ、彼のことが気になって仕方ない。
尊敬はしてる。本当に強い心の持ち主だと思う。
それに戦ってる姿はかっこよかった。
尊敬は憧れへ、憧れは恋へ
しかし少女はまだその気持ちに気づかない。
恋というものを知らず、ずっと女子校で育ってきた、
言い寄ってくる男は多かったが、どれも取るに足らないものたち。
今はまだ本人も自覚していない秘めたる想いに気づいているのは、一人だけ。
「むふ、かっこいいわよね。剣也ちゃん。」
そこには、筋骨隆々のオカマが立っていた。
ニヤニヤと笑いながら、ピッチピチのスポーツウェアをきて。
静香はギョッとしたが、すぐに平静を保つ。
「な、何を言ってるんですか。
50キロあげるのに必死な男を馬鹿にしていただけです。」
「うふ、そういうことにしといてあげる。
でもね、しずちゃん。
ライバルは多いわよ、待ってるだけじゃ幸せなんか来ないんだから。
女は度胸よ。後悔しないようにね。」
そう言って早乙女 恵は剣也の元へと向かっていった。
後悔。
恋も失恋したこともない彼女には、なんのことかまだ理解できないのも仕方ない。
でも後悔しない生き方をしたい。
だがそれ以上はよくわからなかったので、今日も筋トレに精を出す。
毎日このジムに通っていることが答えだというのに。