2-16 八雲の戦い
日本国内でもアメリカに発生したドラゴンと同程度の脅威が発生したと
八雲から報告があり、多くの記者が足を運び緊急会見が開かれた。
緊張した空気の中日本中がその魔獣の動向に注目する。
そして八雲大臣の戦いが始まった。
「まず先日長野にて発生した魔獣事件のことは
ご存知の方も多いかと思います。そこから話させていただきます。
魔獣についてですが、発生する原因はわかっておりません。
ランダムで日本全国どこにでも発生する可能性があります。
今あなたの街にも、今この瞬間この場にも発生する恐れがあるのです。
そして、魔獣たちは発生してから一定時間たつと進化することがわかりました。
こちらの映像をご覧ください。」
ゴブリンジェネラルの映像が映し出された。
そして襲われる親子の映像も。
「少しショッキングな映像ではありますが、どうか目をそらさないように。
これは現実です。現実に起きたことなのです。」
それは見ているだけで心を締め付けられるような。
子を守る母と母を守る子供の映像。
そして、その状況を楽しんでるようにもみえる醜悪な化物の映像だった。
みる人たちは、このまま親子が殺される映像をみることになるのかと、
目を逸らすものや、涙するものもいる。
やめてくれという声を上げる記者もいた。
子を持つ親たちにこの映像は余りにも辛すぎる。
小さな女の子が母を守るため魔獣に立ち向かう姿に
胸を撃たれない人間はその場にはいなかった。
そして、いよいよその時はやってきた。
ゴブリンが剣をあげる。
もうダメかとみなが目を背けようとした瞬間、彼は現れた。
黒い制服をまとった少年 背丈から高校生ぐらいか。
その少年は、熊ほどの体躯の魔獣と幼い子の間に割って入り、
ゴブリンの攻撃を鈍く光る一本の刃で受け切った。
まるで漫画のヒーローのように。
演出の影響もあるのだろう、しかしその姿はまさにヒーロー
その背中は、
魔獣に対してあまりに小さく
高校生というにはあまりにも逞しかった。
少年は守るだけでは飽き足らず、ゴブリンに攻勢にでる。
怒号と共に怒りをぶつける少年の言葉は、映像を見ていた人たちの代弁
あの子供を殺そうとしたゴブリンへの恐怖を怒りに変えて本気で怒ってくれた少年に
見る人たちは一瞬で感情移入した。
剣戟が始まる。
その戦闘は、現代では見られない、極限の命のやりとり
寸止めなんかする気もない。お互い狙うは相手の命
それは、どんなスポーツよりも、みるものを興奮させる。
まるで、古代のコロッセオのように。
がんばれ、がんばれ!
いつしか会場の心は一つになる。
どうしてあんな動きができるのか、人間にあんなことができるのか。
記者たちは手に汗を握り、取材に来たことを忘れていた。
いけ!いけ!
少年は、ゴブリンを圧倒しているように見えた。
自分の2倍以上ものその体躯をものともせず避ける、切る、避ける、切る、
そしてついに、ゴブリンが無様に逃げる。
しかし少年は逃がさない。そのゴブリンを許さない。
そしてついに、トドメを刺す場面へ
「よーし!!」
記者の一人が喜びで立ち上がる。
しかしそれを見て変に思うものはいない。
なぜならみんなその気持ちだったからだ。
直後黒い繭が現れる。
ゴブリンが包まれトドメはさせない。
会場はざわめく。
何が起きたのかわからない。
わからないが、あれは良くないものだ。
そして数秒後 黒い繭は溶け中から現れたのは、
映像越しにも死を感じさせるゴブリンの王
「ひぃっ」
記者の中で椅子から転げ落ちるものが何人か現れた。
圧倒的死の恐怖は映像越しでも人々を恐怖させる。
無理だ、人間がかなう相手じゃない。
そして案の定
少年は剣ごと叩き折られ、10メートル近く飛ばされる。
このゴブリンを討伐したなどという情報は入っていない。
あの少年も吹き飛ばされた。
今回の会見は、この存在が日本を歩き回っているという報告のためなのか。
記者たちは絶望する。テレビの向こうの国民たちもみな一様に絶望した。
まだこの存在はこの国にいる。
すぐそばにいるかもしれない。その恐怖に震えた。
そして少女が立ち向かう。
しかし見ている人たちと同様に動けない。
あんな若い女の子が相手できるような存在ではない。
仕方ないだろう。
少女の死を覚悟したが、そこへヘリからの援護射撃。
人類の兵器
これならばと一瞬感じた記者達の思いは簡単に覆される。
ちがう、あいつには、あのバリアが。
そして砂煙のあと顔を出す。無傷の怪物
む、無理だ。あんな化け物どうしよもない。
人類の兵器が効果なし。
かと言って白兵戦であの存在に勝てるものなどいるはずがない。
打つ手なし この国もアメリカがドラゴンに対してニューヨークを放棄したように、
あの存在が通る道はすべて捨てるしかないのか。
皆の心が折れかけたとき、少年は再び立ち上がる。
額から血を流しながら、体はぼろぼろ
そして手には見慣れない黒刀を携えて。