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2-12(2) 怒りの英雄

息切れした声で少年は安堵する。

「はぁはぁはぁ、間に合った。」

遠くから声が聞こえたから全力で走ってきたけど、本当に危なかった。


母の思いは届いていた。必死に助けを呼ぶその声は確かに彼に届いていた。


「静香、神宮寺さん

二人を安全なところへ

こいつは俺が倒します。」


「あぁ、任せろ。

お母さん失礼します。」

怪我を負って動けない女性を軽々と持ち上げる神宮寺少佐と幼い子供を抱きかかえる静香


「ありがとうございます。ありがとうございます。」

死を覚悟した二人を救ってくれた軍人に感謝を述べると。


「その感謝はあの子へ送ってあげてください。

自分は、あなた方を連れて逃げるだけ。

戦うのはあの少年です。」


「あの少年は、大丈夫なんですか?

あんな怪物に刀一本で。」

少し落ち着きを取り戻す母は、軍人に問う。


「ええ、大丈夫ですよ。

彼はこの国を救う英雄になる男ですから。」


そう、英雄に。

メディアの印象操作で、今回の騒動で英雄にさせる。

神の子学園を国内で認めさせるためのプロパガンダとして。


だが今は、

「きばれよ、坊主

勝たなきゃ意味ねぇーんだからな。」

少年の勝利をただ願うしか無かった。


ゴブリンは困惑している。

なんで、俺の剣は止まっている?


こんな小さな存在が止めることなどできないはずだ。

こんな棒切れのような刀で、全力とはいかないまでもなぜ振り下ろしを止めることができる?

それよりもなんだ、いいところで邪魔して。


ムカつく。ムカつく。ムカつく。ムカつく。

疑問は瞬間憎悪へと変わった。


剣也が止められたのは、静香の剣をボールペンで止めた時と同じ原理

普通にぶつかれば剣が折れるか、腕が折れる。

しかし、加速した世界で、スローの剣をゆっくり同じ速度で受け、少しずつ力で返す。


たとえるなら投げられた卵をつかむこと。

ただつかめば卵は割れる。しかし、優しくキャッチする速度を合わせれば力を殺せる。


剣の腕はないが、思考加速をもつ剣也だからできる芸当だろう。


ゴブリンの剣をはじき返し、少年はゴブリンへ怒気が混じる言葉で問う。

「なぁ、あの親子がお前になにをしたんだ?」

ゴブリンは首をかしげる。何か言ってるのか? この小さな存在は。


少年は再度問う。さっきよりももっと大きな声で。

「あの親子がお前になにをしたか聞いてんだよ!!」

ゴブリンは笑う。この小さな存在は怒っているのか。 

こんな小さい存在になにができるというんだ。


「人が、人間がお前達になにをした!!

なぜ俺たちを襲う!! なぜ弄ぼうとする!!」


剣也は怒っていた。

息切れする肺と脈打つ心臓

そのどちらにも負けずとも劣らないほど体が震える。

恐怖ではなく、怒りでだ。


「なんでお前たちは俺たちを殺そうとするんだ!!」


剣也はあの親子を重ねていた。

ケルベロスにさんざんもてあそばれて殺された過去の自分を重ねていた。

あんな小さな女の子が親を守ろうとしているのを

必死に母を守ろうとする少女を、楽しんで殺そうとする存在が許せなかった。


ゴブリンにはわからない。

この小さな存在が、叫んでいることなんか。

ただわかることはこの存在は邪魔だということ。

ならばやることはひとつだけ。


ゴブリンは剣を振り下ろす。

しかしすんでのところで避けられた。

惜しい、次は当てる。またかわされる。


「あぁ、わかってるよ。お前たちにそんなこと言っても理解されないぐらいは。

だからわかるように教えてやるよ!! この刀で! その体にな!!」


次こそは、と思ったところでまたよけられた。

かと思ったら、刀が目前に迫る。

ギリギリかわすが、鼻先が切られた。


反撃された? そんなバカな。

こんな小さな存在に?


信じられないという顔のまま、また刀が横から飛んでくる。

止めようと盾を構えたら、

盾を避けるようにして、刀が動いた。


その分速度は落ちたが、それでも傷をつけるには、充分だ。

そんな剣戟を繰り返しいつしか全身傷だらけになり、倒れているのはゴブリンだった。

なんでだ? なんであんな存在に勝てない。

すべて攻撃はかわされる。それほど強い反撃ではないが、毎回返される。

一体何が起きている?


剣也も、思考加速の使いすぎで、疲労が溜まっている。

しかし怒りというアドレナリンは、剣也の体を動かした。

まだまだやれそうだ、このクズを殺すためなら。


負ける。ゴブリンは感じた。

初めての死の恐怖

自分は狩る側だったはずなのに、いつのまにか逆転していた。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


その時ゴブリンが取る行動は逃げの一手

その場を去ろうとする。

が、逃げられない。

逃げようとする足の健を切られ、無様に地面にころがる。


強い。

女の子をヘリに乗せて、剣也のもとに戻った静香が見たものは、ゴブリンを圧倒する姿。


あのゴブリンが弱いわけではない。

私では2、3回切り結んだら握力はなくなり

次の一手で積みだろう。それほどに強い。あのゴブリンは。


それをあんなに一方的に。

「ほんとにつよいな。剣也

これでは私の役目はないじゃないか。」


そして剣也は這いつくばるゴブリンに

トドメの一撃を喰らわそうとした。


過去の弄ばれた自分の怒りと、

あの親子を弄ぼうとした怒りを

刀に乗せて。


嫌だ嫌だ死にたくない。

まだ誰も食ってない! まだ誰も殺してない!

ゴブリンは死の恐怖を感じるものの、血を流しすぎたのか体が動かない。


「じゃあな、ゴミくず

これで終わりだ。」


刀がゴブリンに刺さるかと思われた瞬間それは起きた。

黒い繭にゴブリンが包まれる。刀は繭に弾かれた。


なんだ? 何が起こった?

一歩距離をとった剣也に、聴きなれたあの声が答えるように脳に響く。


「一定時間が経過しました。

ゴブリンジェネラルは、ゴブリンキングに進化します。

クエスト難易度はAランクへ上昇しました。」


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