なろう系作者は自分の作品の世界に転生してしまったようです。
「雑魚転生者が敵のランダム転移魔法で偶然ダンジョン最下層の隠し部屋へ!?アルティメットスキル『万物操作』を拾って最強冒険者になってしまった…と」
結構いいタイトルなんじゃないか。流行りの要素も拾えてるし、アイキャッチになりそうな単語も多い。散らかった1Kの部屋。下らないバラエティ番組の流れるテレビから聞こえる笑い声だけが満ちた部屋で、ノートパソコンを広げながら思案している。
タイトルから書き始めたこの作品。主人公は「転生者」であり、「転生モノ」だ。あらかた現代日本で何の変哲もない日々を送っていた主人公が交通事故にでも遭って、ファンタジーの世界に転生することにすれば良い。お決まりのやつだ。最初は誰がみても「雑魚」にカテゴライズされる主人公が、ひょんなことから「アルティメットスキル」を手に入れてその後は作中最強キャラになる…恐らく何百、何千の作品でひとしきり繰り返されてきた王道プロット。タイトルの時点で約束された展開を、今一度繰り返す。
僕は今、小説を書き始めた。お決まりのパターンをなぞって。なんてことは無い、ただの暇つぶしである。文章を書くことは昔から好きだった。その趣味の延長を、偶然にも今日、インターネット上で作品として公開するのだ。
適当な設定をまとめ、サラリーマンの主人公が交差点でトラックに轢かれるシーンを書き進めている途中で、最初の飽きがきた。別に小説家として食っていこうという訳でも無いのだ。気持ちは簡単に途切れた。
近くのコンビニにでも行こうか。今は土曜の22:00。酒とつまみでも買おうか、と考えながら足は既に玄関に向かっている。マンションから部屋着のまま、徒歩2分のコンビニに向かう。
交差点に差し掛かった頃、ふと思った。そういえば先ほど書いていた作品の主人公は、コンビニに行く途中でトラックに轢かれて死ぬことにしたのだ。特に意識はしていなかったが現在の状況と一致している。
両側二車線の少し大きな交差点である。青信号を確認し、横断歩道を渡り始めたところで、トラックが近づいているのに気づいた。
小さな偶然が重なって、少し居心地の悪さを感じる。このままトラックが信号無視して轢かれるんじゃないか、と僅かに不安を覚える。
一瞬の内にそれは現実になった。トラックは停止線の手前で急加速した。恐らくはアクセルとブレーキを踏み間違えたのだ。
「あっ!」
僕は短く叫んだ。直後鈍い痛みがした。加速するトラックを避けようと体勢を後ずさりした僕の右肩に重量物がぶつかる感覚がした後、何も考えられなくなった。身体が宙に浮いたような感覚を最後に、何も考えられなくなった。
次に目が覚めた時、気づいた。
その場所は明らかに現代日本ではなかった。僕は自分で書いた物語の世界に転生したのだ。
作者アキヤマの考えた設定とは?