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夏のホラー2021年企画『かくれんぼ』 ホラーコメディ~怖がらせるまで成仏できません~幽霊なって30年ッ!!

作者: トケイマル



俺はクライ、勤続30年のベテランだ。


ガシャコ。


17時になり、俺は時給計算30分制のタイムカードを切る。



「お、クライ、今日はあがりか?」



ペタペタ、スリッパを鳴らしながら同僚のジロウがシケモク吸いながら笑う。


黒ずんだ欠け歯が酷く印象的なおっさんだ。


俺は帰り支度を手早く済ませてジロウの肩を叩く。



「おう、これからシロクマ墓地で夜勤よ。まあ、軽く気合い入れとくわ」


「へぇ~、お前すげー真面目だな。俺チャンなんて、ここが気に入っているから適当にやっているけどな~」



その言葉が何故かムカついて言葉を交わす。



「……ジロウはここ来て10年目だっけ? 次の場所に行く気はないのか?」


「今のところはな、まあ、俺チャンすげー実力者だから飽きるまでは楽しむさ」


「はん、余裕だな。ずっぽりと楽しみすぎて、俺みたいに時期逃すことを心から願っているよ」


「ハハハ、ナイナイ、クライみたいに30年も怖がらせることが出来ない才能は俺にはないからな」



その言葉に俺はかっとなる。



「ほざいてろッ! 今日こそはキメてお前とは今生の別れとなるからな。あばよッ!」


「ふひっ、クライ……またのお越しをお待ちしております」



俺は乱暴に外に出た。





時刻は23時。


俺はシロクマ墓地に到着する。


最低限の管理はされているが、錠門や墓石などにサビやコケが目立ち古ぼけている。


確か、全体が昔ながらの日本墓地で、振り返れば俺と同じくらいの年期があったと思う。


俺は墓地管理小屋に入り出退記録簿に記入する。


すると、後輩のキョウキがおちゃらけて現われた。



「クライ先輩、ウッス。今日もサイテーな顔ですね」


「お前もナ、開口一番で人をディスるな」


「やだなー、コミュニケーションじゃないですか~。先輩ももっとゆるーくやりましょう」


「ハッ、冗談は存在だけにしとけ。……そんで、今日の成果は?」


「現時刻24時、墓地の予定来場者8名ですよ。そして怖がらせ担当者4名の内、2名は既に達成済みで成仏しました……まあ、いつも通りな展開で僕と先輩の2人体制ですね~……ハッ、笑える」


「……わかった」



俺はじわりと沸き起こる感情を無に戻して業務に取りかかる……といっても、することはほぼ無くこの墓地に肝試しに来たヤツらを恐怖に陥れるだけである。


そう、俺ことクライは幽霊なのだ。


俺がどういった経緯で死んだのかは分からない。


だが、死んでから既に30年が経過していた。


始めの頃は絶望したり、楽しんだりしていたが、10年くらい幽霊やっていると次第に飽きてくる。


そろそろ成仏するかなーと思って同輩に聞いたところ、幽霊には幽霊のルールがあって、『人を怖がらせないと成仏できない』というのだ。


故に俺はルールに従い、人を怖がらせようとしたのだが……結果は無残なものだった。


人に見つけてもらえる努力、生きている人間に触れるようになる為の努力、離れた物を動かす努力、人をゾクゾクっとさせる努力等々、幽霊に出来ることを散々苦労して習得するも人が怖がる気配がなかった。


その間に他の幽霊同僚が適当に切り上げて成仏していくのを見飽きるほど送っていった。


才能や運のせいにはしたくないが、俺は他の幽霊同僚と何かが違っていた。


そんなとき、



「先輩~、変顔やめてくださいね。こっちもマジになっちゃいますから」



俺は顔を上げてキョウキをみる。


満面の笑顔で俺を見つめていた。




そしてそんな語りを続けて時刻は午前4時。


気がつけば明け方になっていた。



「あれ~、今日の来場予定人数が8名なのに、7名しか来てませんよ」


「そうだな、グループ4名、カップル2名、ぼっち1名だったから1人足りないな」


「プッ、あくまで僕の予想ですけれども、来る人来る人に、先輩ことごとく笑われてたから1人取りやめたんじゃないんですか?」


「そんなわけあるか、あれだほら、この俺が怖すぎるから、明るくなってから来るんだよ」


「ですかねぇ~」



後輩はニヤニヤ笑っている。


それがイヤに気に入らなくて、



「おい、その笑いをや――――」


「ふぁ、そろそろ起きるか……」


「!?」



突然の第三者の声に俺は驚く。



「な、なんだぁー!!」



慌てて振り返ると、少女が寝袋から這い出していた。


いつからいたのか分からない、そんな少女はゆっくりと俺の方を向くと、



「あ、いつもの方ですね……お世話になっています」



っと、ぺこりとお辞儀をしていた。



そんな幽霊のようで幽霊でない少女に俺は驚きつつも声をかける。



「え~と、君は?」



少女はうっすら汚れたデニムズボンを叩きつつ応えた。



「はい、私は名も無き美少女A子さんです。毎回必ず美少女とつけることを忘れずにお願いします。あ、キョウキさんいつものお茶をお願いします」


「ん? 毒入りドクダミ茶(ドクダミ抜き)で良いならいれるぞ?」


「お手数をお掛けするなら、何でも良いですよ」



と、美(?)少女とキョウキがごく自然に会話していて俺はついていけなかった。


あれよこれよとお茶を飲みつつ語る2人に俺を交えて話すと、どうやらこの美少女さんは存在が希薄で人に見つけてもらえないとのことだった。


そんな不幸な人生を歩んでいるのかと俺は同情しかけたのだが……、



「え!? クライさんって幽霊なのに30年も怖がらせること出来ないんですか……それって凄くこわーい」


「なんだと…………え!?」


「えっ?」



俺の思考がフリーズし、沈黙が流れる。


そして、俺の足から消えていく。



「ちょっと、待って!? え、これで終わり!? 終わりなの!?」



突如の成仏達成に俺は慌てる。


そんな俺にキョウキが声をかける。



「だから言ったでしょ。もっと、ゆるーく生きましょうって……まあ、見つかって良かったですね」



そんなキョウキの言葉を残して、俺は成仏したのだった。

ここまで、読んで頂きありがとうございました。


なお、古い言葉を当時のまま使っている部分もありますのでご了承下さい。

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