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家出したADHD女子の話

作者: あではで

これは、ADHDグレーゾーンの私が

実際に家出したときに書いたときの物語です。




私は家出した。

最悪の一日だった。



その日の朝、私は父の言いつけどうりにジョギングに行った。行かないと怒られるかもしれないと思うと体が痛くても、嫌でも体が動いた。その日はとても寒かった。ギシギシいう体を動かしながら5km走った。胸が苦しいのは酸素不足なのか、心が痛いのか分からない。家に帰ったあとはあまり汗をかけていなかったし、シャワーを浴びると冷えて風邪をひきそうだったから、シャワーはしなかった。かわりに体をふいて着替えた。




朝ごはんを三姉妹で食べた。誰も話さないし笑いもしないが(妹2人は多少喋っていた)次女が先に食べ終わり皿を片付けた。次に私はも食べ終わり、皿を洗った。3女は私が食べ終わったかなり後に食べ終わった。それを見届けると私は2階にあがった。その間におそらく、3女はテレビをつけながらゲームをしていたのだろう。父が起きてきて1階に来る音を聞くとガチャガチャと急いでゲームを置いてリビングから逃げた。(と思う)

父はテレビがつけっぱなし、ゲームは床に無造作に置かれて、皿も片付けていない。その状態に激怒した。2階にいる私がびっくりするほど大きな足音をたてながら、階段下から

「テレビつけっぱなし、皿も洗わない。

お前かぁ」

と叫ぶ。はっきり言って心臓が飛び出しそうだった。私はADHDだ。また、「ルール」を忘れていけないことをしたのかもしれない。そう思い、必死で記憶を甦らす。しかし、自分の落ち度はない。(と思う、と思った。あったとしても思い出せない)そう考えているうちに父はすぐに犯人だと思っている私が謝らず、1階に降りても来ないので

「ああああああ、お前、また俺に逆らうんだあああああ??このゴキブリが!」

と言った。あわてて1階に下がるとそこには怖い顔した父と3女の食べ残した残飯と皿、ゲーム、つけっぱなしのテレビだった。

「なんで片付けてないんだ?」

と言われびっくりした。私の皿じゃないのにめちゃくちゃに怒鳴られている。意味が分からない。おそるおそる

「私のじゃないよ。」

と言うと、一瞬戸惑った表情を見せてから

「妹のけつは、姉が拭くんだよ!」

と言った。グワングワンする頭の中に、妹の皿を洗うぐらい普通だろうがあああ!、ほっんと自己中だな!、と響く。確かに小さい妹のかわりに姉がやるのは当たり前かもしれない。だが、妹が失敗したことも最初から姉のせいと決めつけ怒鳴られるのは納得がいかない。怒鳴る声を押しのけ、妹の皿を持ち洗う。妹は父に優しく促され私にごめんねと言う。自分の中では最大限(その時できる)優しい言い方で大丈夫だよ、と言った。

「妹が謝ってるのになんでそういう顔をするんだ!」

「妹の過ちは許して当然だろう!」

驚愕した。なんで怒鳴られてるの。

はっきり言って私がムカついていたのは父が最初から私が悪いと決めつけ怒鳴りちらされたことだ。だから、妹には怒っているつもりはなかったし、しょうがないかなとも思っていた。

必死にそんな顔をわざとしている訳じゃないと贖罪するが、怒りが静まる気配はなく、ますます酷くなるばかりだった。もう話していて意味が無いと思った私は急いで2階に上がろうとした。私の背中に

「そんなクズなお前は家から出ていけ!」

と突き刺さる。その時、素直に出ていこうかと思った。反論する余地もないし、反論しても怒るだけだ。そのほうが嫌だ。出ていったほうが怒られないですむ。しかも、今謝っても(なにに?)おせぇよの一言で一蹴されるだけだ。この家にいてもだめだ。

カチリと頭の回路がはまると、体は勝手に動かされるものだ。小さいショルダーバッグに友達に貰ったお菓子と財布を入れると1階に降りようとした。その行動についに父の腸が煮えくり返ったらしい。

「なんで、お前は素直じゃないんだぁ!」

「謝れよ!」

その言葉に私も心の中でキレてしまった。

(なんで、謝らなきゃいけないの?)

(素直ってなに?)

(だいたいあんたの勘違いで間違えて私を怒っているんじゃない)

その心の反論を見抜いたのかついに父はこんな言葉を吐く。


「言葉で分からないんじゃあ、

体で分かって貰うしかないな、これからは」


それからは、肩や腕、脚を殴られる。蹴られる。罵倒されるだけだった。


なんだか、肉体的に痛いのか精神的に痛いのか、分からなかった。


また、忘れたんだろう、私は。

なにを忘れたんだろう。思い出せないや。


なんでだろう。

なんで、生きてたんだろう。


口から溢れたのは

「ごめんなさい」


本当に怖かった。痛かった。悲しかった。


何かがプツンと切れた音がした。

目から大量の水が零れてきて、霞んだ。


「ここにいても、傷つくだけだ。

悲しいだけだ。死にたくなるだけだ。」


臭いと言われてシャワーを浴びながら自分の体を見た。赤くなって、悲しい色をしていた。

「もう、逃げよう。」


風呂からあがると、バックをかけて玄関を静かに開けて飛び出した。母と姉妹は庭に出ていて私が悲しいことなんて気づいていなかった。3人を手伝えといわれたが、そんな心にはなれなかった。


逃げなくちゃ。また連れ戻されて怒られないように。否、殴られる前に殺される前に。


きっと私は失敗作なんだ。

障害があって、勉強もすごい出来るわけでもない。かわいくもない。性格も悪い。


望む人には、なれなかった。


あいつはきっと実践する。殺される。排除される。


そう思うと、びっくりするぐらいに足が動いた。息がきれて、肺が痛かった。構わなかった、走らないと。


新宿までの看板を見ながら、新宿までの国道脇の道歩く。棒になった足を動かす。新宿まで行った時は、もうお昼だった。こんなに悲しいのに腸が減るのは吐き気がする。コンビニでなにか買うと、都庁の前に出た。コロナのせいで公園には子供が溢れていた。公園のベンチに座りながら、公園で楽しそうに遊ぶ幼児を見る。幼児の周りには親が見守っている。幸せの空気が流れている。隣に男が座った。すぐに子供がとととと、と走りよる。笑顔いっぱいの家族。どこでお昼食べようか、と母らしき人が言う。濁りなき、「家族」だった。


どうしてこうなったんだろう。どうやっていたら、こんなことにならなかったんだろう。

私が悪いんだろうか。

家に帰ればきっとあいつは怒るだろう。私が出てけと言われたから出ていった、なんてクズなんだと。そこは素直に謝るべきだろうと。これからは、と言った。つまり、帰れば怒られる、ではない。殴られるだ。

いつもまにか、手の中のビニールゴミを握りつぶしていた。


新宿駅まで歩いて、人混みに流れながら京王線に乗り、井の頭線に乗り換える。窓から零れる陽の光が幸せそうだった。吉祥寺まで行けば、図書館に行けるかもしれない。


開いていなかった。


時間があるから、吉祥寺のデパートを回った。人混みに紛れれば、見つからない。


好きな雑貨屋とか見たけれど、楽しい気持ちにはなれなかった。


待ちに待った夕方になった。夕方になって夜になれば逃げきれられる。そもそも私がいないことに気づきもしないと思うが。気づいても探しはしないだろう。

また、コンビニでご飯を買うと、井の頭線公園のベンチで食べた。カップルたちが楽しそうに笑い合っている。私の横を通り過ぎて行く。寂しかった。私を分かってくれる人はいない。


少しずつ夜が近づく。ベンチをかえて、WALKMANを聞く。曲の歌詞が耳に響いた。


前をランニングする人が次々と通り過ぎる。私と同じくらいの年齢の人達が、自転車に乗り通りすぎていく。みんなで笑い合いながらきゃっきゃっと楽しんでいる。彼女らと私の間では、深い谷がある。大違いだ。


寒くなってきて、手がギシギシいってきた。腕に手を当てて温めるも、意味がなかった。体の端が少しずつ壊死していくみたいだ。暖かいお茶を買った。井の頭線公園駅前のコンビニは、暗い道に明るく建っていた。

さっきからうるさかった、大学生の1人が近づいてきた。高校生?寒くないの?一緒にご飯いかない?と聞かれたが、今まで苦しんだこともないような奴に付き合うつもりはなかった。断った。

寒くなり、服が湿ってくるにつれて人出もいなくなってきた。また、お茶を買おうとしたところにブランコを見つけた。暇遊びに、こいだ。星もない空が目にしみた。とぼとぼと目の前を歩く社会人はゾンビみたいに、目の前しか見ていなかった。私のことなんて誰もみていない。


私がいないみたいだ。


こいでいれば体も温まるかと思ったけれど、逆に寒くなり、我慢出来なくなってコンビニでカイロを買った。体を温めるためにコンビニに入った目的もあったが、コンビニは暖かくなかった。


カイロも暖かくならなかった。

コンビニの通りに交番があった。中には誰にもいなくて、「見回り中」とあった。

きっと、夜遅くに歩いている私を警察は捕まえるだろう。そうしたら、絶対帰るたくない。と言って困らせてやろう。そうしたら、なんでと聞いて、事情を話せばあの家族から離れられるかもしれない。運が良ければ、あいつが警察に呼ばれて指導を受けるかもしれない。そうしたら、きっと殴られなくなる。

あいつも警察は怖いだろう。


トイレに行ったり公園を一回りしたり、ベンチで寒さに耐えていたら自転車に乗った警察官が帰ってきた。それをみてから、交番から挑める公園内の道をフラフラする。交番の前の道も何回か歩いた。

気づかれなかった。

本当にガッカリした。


私は誰にも見れないのかもしれない。


ベンチに座っていると、体がガチガチいいだした。口が勝手に上下した。息を吐き出すだけで体のなかに凍えが走る。耐えかねて、交番の前の道の向こうにある、自販機でコンポタを買った。最初は暖かいが、途中から冷たくなった。


コンビニに入り、時間を確認する。2時。あとちょっとで、始発が出る。コンビニの前やその前の道を公園内を力の入らない足で歩く。またコンビニに入り、始発を待つ。


待ちに待った、駅の明かりがつく。シャッターが開くのを待ち、駅に入る。疲れてずっとクラクラしていた私は、待合室に入り暖房の入ったなかで少しウトウトする。そんな中、隣におばあさんが座った。なにも話さず、私を見ると興味のないような顔をした。始発に乗りわざと端っこに座る。そうすれば、駅からは誰にも見れない。


渋谷まで乗り、吉祥寺行きに乗る。また渋谷行きに乗り吉祥寺で渋谷行きに乗る。その途中で寝てしまう。いつの間にか車内が混んでいて、隣の女性にもたれてしまい、小突かれた。7時ぐらいになってから、吉祥寺に降りる。コンビニで既に買っていた朝食を駅内のベンチに座り、食べる。ベンチにはかなりの人が座っていた。隣に座るおじさんは私と同じようになにか食べていたが、目もくれなかった。私が家出少女だとは微塵も思わないだろう。大丈夫?と声をかけて欲しかった。体を温めるために電車に乗ったのに体はまったく暖かくなかった。


ベンチでゆっくりしていたら、ふと思った。





ここで私の物語は終わりです。というのも、その時書いたときのメモがここで終わっているのです。




周りから見れば「ただの家出した女の子」の話です。しかし、それは今小説を書いている私も同じなのです。ADHDの私は記憶が薄れるまでの時間が短いようです。その時、私はなにを思ったのでしょうか。私はなにを見て、なにを感じ、そして家に帰ったのでしょうか。



そのときのことは私も含め、誰もしらないのです。












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