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悪魔と契約して死ぬまで生きましょう  作者: ユメノヒツジ
3/3

3話 地獄体験

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 ゲボルドさんの手を取った瞬間、一瞬激しく光りが上がり目が眩んだ。


「ひゃあっ!」

『しっかり握ってろよ!』


 突然の出来事に混乱している内に宙に浮く感じがして、その後急降下。

 まるで目をつぶったままジェットコースターに乗っているような感覚。

 悲鳴も上げる暇がない内に安定した感覚になり、薄らと目をあけた。


 光に眩んだ目を開けてみるとそこには



 …地獄絵図が広がっていた。



 いや、特に誰かが拷問を受けているだとかではなく、見た感じは少し海外風な普通の街並みそのものなのだが、歩いている者モノが異彩を放っていた。


 首無し、部位が宙ぶらりん、血まみれ、異形、浮遊する光…

 そんな方々であふれかえっていた。


 皆が皆楽しそうに笑い声をあげたり歌ったりと雰囲気的には陽気ではあるのだが、

 その"見た感じ"の異様さに耐えきれず嗚咽が出る。


「おっぇ…」

『おっ、大丈夫か?まぁ突然この群衆には無理ないかな。最初はみんなそうだぜ、すぐ慣れるよ』


 人?は見た目では無いと言うが、あまりにグロテスクなその群衆に今度は頭が眩んだ。


「ゲ、ゲボルドさん…この方々は」

『ああ、未だ死んだりして日が浅いと死んだときのままの状態でここに来ることになる。時間がたつにつれ人間の形とかの本来の姿に戻っていくんだが、もっと日が経つと俺みたいに悪魔とかにグレードアップする奴もいるな。みんな違ってみんないい。』

「ゲボルドさんは一体どれくらいここに居てそうなったんですか…ウっ」

『そうさなあ、もう大分経つな数えてないけど。ざっと数百年は居るかな?俺だって元は人間だったんだぜ。死んだ時姿が無い状態であれば異形になって表れるなあ。』

「そ、そうなんですか…なれるって私、ホラーとかホントダメで…ウゥっ…」


 半泣きになっている私に気付いた周りの方々が優しく声をかけてくる。


「大丈夫?どこか痛いの?」


 腕と足が宙ぶらりんの御姉様


「お姉ちゃん泣いてるの?嫌な事あった?」


 眼と口が空洞になっている御子様


「なんだなんだ?女の子が泣いてるなんて黙っておけないな」


 眼が10以上ある紳士様



 次々通りかかる方々が心配して声をかけてくれるこの優しい世界に私は暫く目を開けることが出来ず、ただ「大丈夫です」と繰り返しながらその悪夢のような世界観から目を背けるしかなかった。

 良い人々なのに。ただ具合が悪そうなだけの私に通りがりでこんなに話しかけて心配してくれる世の中なんてとうに廃れたはずの優しい世界なのに。

 ただただ見た感じだけが暴力的過ぎて私には刺激が…つよ……


『大丈夫かお前』


 ハッとして飛びかけた意識を取り戻した。


「ゲボルドさん、すみません取りあえず人気の少ない所に連れて行ってください…」

『お、おう。なんかごめんな。』

「いえ、皆さんは全く悪くないむしろとても良い。良すぎるんです。今の私には良すぎるんです…」

『隠れ家的カフェがあるからそこでちょっと休むとするか』

「おねがいじまず……」


 なるべく視界に方々が入らないように下を向きながら、ゲボルドさんに手を取って貰いつつようやく歩き始め、

 その隠れ家的カフェテリアに連れて行ってもらった。


『もう着くぞ』


 ふと顔を上げるとそこには外観は洋風のオシャレなカフェ…

 なんか仄暗いのはこの際気にしないでいや気になるけども。


 カランカラン


「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」


 首の無い店員さんがどこからか声を出し案内してくれウェっ。

 確かに人気は少なく、ちらほら方々はいるものの


『どこ座る?』

「一番奥の席にお願いします…」


 情けないながらまだ顔を上げられない私をゲボルドさんが引率する。

 一番奥の席に座ると店員さんがメニューとお水を置いて、「お決まりになったらお呼びください」と去って行った。

 一番奥の席は顔を上げると辺りが見まわせてしまうので壁向きの方に座らせてもらい、メニューを開く。


『俺がおごってやるって言いたい所だが、ここでは金っていうものが存在しないから好きなモノ好きなだけ頼んでいいんだぞ。』

「あ、ありがとうございます…」


 お金というものが無いという事も気になったが今まさに食欲も何も無い混乱状態であるので、飲み物だけお願いして一息つくことにした。


 暫くして正気を… 落ち着きを取り戻してきた自分は色々と気になる事を質問する事にした。


『の前に』

「ハイッ」


 …したらゲボルドさんから質問を受ける事になった。


『そういえばお前、名前はなんて言うんだ?』

「あ、そういうのわかるタイプのアレじゃないんですね。園川伊織そのがわいおりって言います。申し遅れまして。」

『イオリか!よろしくなイオリ。俺とお前は契約関係にあるわけだが、友達になったみたいな感じだからもっとフランクにしてくれていいんだぞ。』


 心なしかゲボルドさんがにこにこしている気がした。


「えっとゲボルドさん、お金の概念が無い上に三大欲求が無いって言ってましたけど…」

『そうだ。性欲睡眠欲食欲、満たされないっていうストレスがかからないし金ってシステムも無くなんでも不自由なく暮らせるから人とのトラブルだって限りなく薄い。たまに喧嘩してる所とか見かけるけど誰かしら仲裁に入るか、原因を上の職って言うのかな。長くやってるやつが逐一解決するから悪しき心がうまれない。が。』

「が?」

『食についてだけはちょっと違うな。欲はある。腹もメシも減らないからストレスになるこたあ無いが、地獄での娯楽っていったら食なんだ。ほら、飲み物来たぞ』

「あ、ココア。私です。」


 話を聞いているうちに手際よく店員が飲み物を置いて去って言った。

 緊張とかなんとやらもう喉が渇いて仕方なかったのと落ち着きたいが為にホットココアを注文していた。生前?肌寒かったし。


 なにやら物凄く芳しい匂いがしてきて少し目が覚めた。


「頂きます。」

『おう。因みに空腹も無いが満腹も無い。好きなだけ飲み食いしたらいいさ』



 …美味しい!

 跳ね上がりそうになるくらい口の中に芳醇なココアの風味が広がって思わず顔が緩んだ。


「美味しいです、ゲボルドさん!」

『お、ようやく笑ったな。地獄の食べ飲み物はいっくら飲み食いしても飽きない美味さなんだぜ。それを死なないで永遠に堪能できるんだ。極楽だろ?』

「こ、これは…はい…」


 ココア。確かにココアなのだが、今まで口にしていた物を疑ってしまうような美味しさに先程まで無かった食欲まで出てきて、追加注文に駆られメニューをメニュー立てから引っ手繰る。

 多分、目がぎらぎらしていたに違いない。


『なんだ、何か食えるのか?』

「食っていいんですか?」

『極楽浄土お試しだからな。死にたくなっても知らないぞ?』

「うぐっ…」


 確かに、ココアだけでも破壊力が凄かったのに美味しいごはんなんて食べてしまったらどうにかなってしまいそうなレベルだ。

 目前の美食をここは我慢しておかないと本当に死にたくなってしまいそうだったので遠慮する事にした。


「ココアだけもう一杯下さい…」


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 ある意味取り乱したが、美味しさの暴力で完全に落ち着きを取り戻した私は辺りを見回してみた。

 カフェの窓から見る方々はなんだか開催されているわけでもないのにお祭りのような陽気さで、歩く人皆が知り合いのような感じで時にハイタッチをかましたり。

 グロテスクな外見はまだクるものがあるがちょくちょくココアで口直ししながら(飲むたびに美味しくて驚くんだ、これが。)ここは本当に満たされた空間なんだと再認識する。


「今日が特別賑わっているという感じでは?」

『ないね。毎日こんな感じだ。陽気な奴らばかりだろう?』

「そうですね、なんだかカーニバルです。」

『常に満たされてるっていうか、逆だな。穴が開かないような世界なんだ。なんせ欲が無い上に嬉しいモノはいくらでもあるんだ。ここの店員だって無給だけど、暇だからって理由で夢だったカフェ店員になる為魔王様にカフェ作って貰って働いてるんだからよ』

「そんなことも!?」

『不死の状態だと何かと退屈してくるだろ、そういう時は紙一枚出せば直ぐに望んだように対応してくれる。』

「神対応ですね。」

『なんだって?』

「いえ、なんでもありません。」


「…その、管理している人がいらっしゃるんですか?」

『基本は管理してる奴がいて、それを管理してる奴がいて、それを…ってな感じなんだが、階級とかはあってないようなもんだ。最終的には魔王様、想像主様が全てを見据えて管理してる感じだな。こんな世界でも悪い事企むやつはゼロってわけじゃないからな。生まれ持っての破壊願望とか。そういうやつは直ぐに天国送りになるけど。』

「想像主様?」

『一応通称地獄だから閻魔様的に魔王様って呼んでるけど、この世界の想像主様なんだよ。全知全能であーる。』

「本当にこっちが神様みたいな感じなんですね…」

『不死の魂が無限に増え続けるこの世界を統べてるんだ、とんでもないお方だよ。』



 こうなってはこれが夢でない限り、この世界やゲボルドさんの言う事は信用する以外に無くなってきた。

 ところで気になっていたそこらにいる方々、所謂ホラーな見た目をされているが、よく俗的に悪魔だ幽霊だ妖怪だと言われるような姿ばかりで現世のメディアや映像と酷似している事が気になった。


『そりゃあそこら辺うろついてるからな、あいつら。』

「えっ。」


 ゲボルドさんに尋ねてみると、どうやらこの世界から生きた人のいる現世を行き来したり干渉したりできるルートや場所があるらしく、

 怪奇現象や幽霊、妖怪、都市伝説等はここの方々の娯楽の一つだそうだ。


『例えば。』

「ハイ。」

『アイツとか見た事あるんじゃないか?マスクの背の高い、赤いコートの女。』

「えっ…もしかして所謂口裂け女…?あの私綺麗?って聞いて綺麗って答えないと口を同じように大きく切り刻まれてしまうっていう都市伝説の…」


 私は彼女の手元にハサミが握られているのを見てぞっとした。


『ああ、都市伝説ではそんな感じだな。でもアイツ人を傷つけたりなんかしないぜ。』

「え、あのハサミは?」

『アイツ美容室の店員なんだよ。』

「は?」

『地獄と天国の印象と一緒で、実際の怪奇やら都市伝説やらは確かに茶目っ気で驚かす目的であったりするんだが人に害を与えるような事は一切しない。彼女は本当に自分の見た目を嘘でも綺麗と言って欲しいが為だけに人前に表れて「私綺麗?」なあんて言うナルシストだよ。』

「えっナル…ナルシストだったんだ。」


『これから生き返るんだったら天使や神もそうだが、ここいらにいる奴らも見えるようになるからその度驚くんじゃないぜ。悪い奴らじゃないからよ。』

「でも驚かしにくるんですよね。」

『危害は加えないんだ、ご愛敬って感じで許してやってくれ。』

「しかし、死んだ後でも現世に干渉できるものなんですね。」

『今危害は加えないと言ったが、勿論なんでも好き放題できるわけじゃない。魔王様のなんというか、気の許される範囲の行動しか出来ないようになってるな。』

「例えば、死んだ後家族に会いたいとか…」

『見た感じがこれらなもんだから、大体話したら納得して姿を隠してそばに居たりするような感じになるな。姿もそうだが、一概に喜ばれるかどうかわからなかったりするし。』

「そうなんですね…」


『おっと、そろそろ時間だぜ。』

「あ、もうですか。」


 もう、と言っても話し込んで随分時間が経っていたように感じた。

 現世の自分は大丈夫なんだろうか。


「あの、神や天使の邪魔をするってお約束ですけど…」

『ああ、それは生き返ってから追って説明するよ。これで死んじゃいましただったら俺、詐欺師になっちゃうからな。』

「あ、はあ…」

『なに、難しいもんじゃないさ。ミズキは"見える人"として天使や神の存在を感じたら俺に言ってくれたら俺達がどうにかするって流れだから特別何かするってわけでもないからよ。』

「存在…?」

『様子がおかしい人間がいるとかだな。現世の事は魔王様も俺くらいの悪魔でも見渡しきれるもんじゃないから、例えば宗教であったり鬱っぽい自殺しそうなやつとかがいたら大抵神か天使が干渉してるから俺ら悪魔やらが追っ払うとか。』

「ほえ…」

『じゃあそろそろ戻るぞ。もう一回俺の手を握れ。』


 あ、はい。と差し出された手をまた軽率に握り、眩い光を浴びてまたジェットコースターが始まった。

 目を瞑りながら。





 これから私は生き返って(死んでないけど)【寿命まで死なない】人生を過ごすのだが、

 それはちょっと普通の人とは違う

 悪魔さんと過ごす"非日常"な毎日の幕開けであった。




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