徒歩5分の冒険
外に出た。空を見た。
家の前を車が通り過ぎるのを、ただじっと見つめた。
玄関のドアを開けて締めただけでも、外は別世界のように感じる。
家から出るだけのことが、ここまで新鮮な気持ちにさせられるのは子どもを産んでからだ。
子育ては想像以上に大変で、1日があっという間に終わる。
朝起きて、気づいたら夜になっている。大げさな表現では無く、実際にそういう日々である。
それだけ専念させられるので、意識して、他の世界にも目を向けないと、子どもと自分だけの世界に閉ざされてしまう。人は狭い世界に長く身を置いていると、心まで狭くなるものだ。窮屈な所にいつまでも居ると、酸素が足りなくなって苦しくなってくる。
新鮮な空気が欲しい。そういう気持ちになる時、私は外に出る。
自宅から徒歩5分の場所に、喫茶店ができた。
子どもを少し預かってもらえる時に、そこへ通う。
大した距離ではないけれど、気持ち的には旅と同じだ。
ふと空を眺めると、今日は飛行機雲がある。
道端に花が咲いている。
道中のコンビニの店員さんがゴミ出しをしている。
猫が通り過ぎた。
今まではそんなこと、気にもとめていなかったような事が、何でも新鮮に感じられる。
徒歩5分の距離でも、旅をしているように感じるほどに、世界はとても広かった。
ふと思う。子育ては視野を狭くするけれど、狭くなった視野で世界を見ると、その広大さに驚かされ、閉じかけた目が全開になる。
その感覚は、幼い頃に感じていたものだ。
何も知らない者が見渡す、何もかもが新しい世界。
何でも知っているつもりになって、日々をありきたりに感じるようになった、長い長い大人としての日常に浸り、忘れていた感覚だった。
子育ての息抜きのつもりで、少しだけ外に出た日々の中で、子どもが大切なものをくれた事を思い知る。
この世界は、徒歩5分でも豊かな冒険の日々なのだと。




