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第一章:非日常と日常の交差点

 ここはよくある地方都市。昼間はテレビなどで特集されることもあるなど、そこそこ有名な観光地である。では夜の顔はというと―――。


 こんな良くある観光地にも、もちろんヤンキーはいる。治安の悪い地域も当然ある。何年か前には某会社の社長が襲撃され亡くなるなんてこともあったくらいだ。だがそんな彼らは普段表には出てこない。では何をしているか、それは……。


「来たぜ~~~!竜ケ崎!!」


 夜の街の中心、そこを騒音鳴らしながら走るバイクが数台。


「どけどけどけ~~!」

「うわっ危ないなあ……」


 彼らの走り方は危険そのもので、時に歩道の近くも通るので歩行者にも当たりそうになる。


「どけどけつってもこの時間に走っている車のほうが少ないんですけどね……歩行者もまばらだし。」

「うるせぇ!こういうのは気分なんだよ!」

「偵察がてら乗り込んだのはいいですけど特に何も起こらないですねえ~」


 そんな彼ら。目的は……。


「ここいらシマにしている奴の拠点があるはずなんだけどなあ」

「どうします柳さん?竜ケ崎の中心かっ飛ばして気持ちよかったことですし、今日のところは帰ります?」

「バカ。正確なアジトの位置くらい掴んで帰らないと目玉食らうのは俺なんだぜ。見つけるまで帰れっかよ。……ん?何かあそこ妙に人集まってないか?」

「ほんとですね、しかも何か全員こっち向いてません?」

「構やしねえ、このまま進むぞ。車道の真ん中でたむろってる奴らがワリい」

「よっしゃー!おらどけどけ~~!!轢かれてえのか!!」


 このセリフを言い終えるか終えないかのところで、彼らの体はバイクごと金縛りにあったようになっていた。


「なっ、なんだ!?体が!いうことを聞きやがらねえ!」

「バイクも急に止まっちまいやがった!」


 その時ドスのきいた女性の声が聞こえた。


「私のシマで随分勝手してくれてるみてえだな…、ご近所迷惑じゃねえかおい」


 ヘッドライトに照らされた道路にいた集団は、金属バットを持っていたり、木刀を携えていたりと、がらの悪そうな人しかいなかったが、その中心に居た存在がひと際異彩を放っていた。


 そこに居たのは、美少女だったのだ。とびきりの。後に彼は語ったという。自分たちの金縛りの原因とドスのきいた声の発生源、それが目の前の美少女だと認識するのはこの段階では困難だったと。ただ目の前の状況がその理解をいやが上にも正しいと思わせる。いかにもガラの悪そうな、自分たちと同じ匂いのする連中はその美少女を囲むように、守るように立っているのだから。


 まともに思考できたのはここまでだった。まだ数メートル離れていたと思っていたその少女が気づいたら目の前におり胸倉を掴まれていたのだから。バイクが倒れ、体が宙に浮く。


 勿論そんなことをされて抵抗しないわけはない。振りほどこうと脳は試みるのだが、体が動かない。まるで目の前の少女に腕から神経を止められているようだった。


「お前……何者だ……?」

「あ?てめえ、人に名前聞くときは自分から名乗るのが礼儀だろうが。これだから三下のやつは……。まあいい、てかお前ら私たちのアジト探りに来たんだろ?トップの顔と名前も知らずに来たのかよ」

「いやトップが女なのは知っているが……、あ!?」


 元からで宙ぶらりで青ざめていた顔から、暗い夜でもはっきり分かるくらいさぁーっと血の気が引いていった。


「ほう?流石に私の名前は知っていたか。だがまあ、せっかく私らのシマに遊びに来てくれたんだ、サービスで名乗ってやるよ。アタシは―――」

「ここらで番格やってる桐山遥だ!この顔と一緒にそのちんけな脳みそによく刻み込んでおくんだな!」

「ひゅー!遥さんかっけえ!!」

「茶化すなよ。で、どうする?一応こっちは精鋭を揃えてきたが……喧嘩(やる)か?」

「チッ、喧嘩(やる)にしても多勢に無勢、元から今日は偵察だけのつもりだったからな。どこから情報が漏れたんだよ……。しゃーねえ、降参だ。身ぐるみかっぱぐなり何なり好きにしろ」

「カッコつけるねぇ。だけどウチ、金は取らねえんだよ。そうだな、アタシの顔すら部下に知らせてないお前のとこのトップが無能なのがワリいよな。今日のところは見逃してやるよ」

「ア?情けでもかけてるつもりか?」

「柳さん!今日は引きましょう!あいつの気が変わらないうちに!」

「おう早く失せろ。あ、町の外に出るまでバイク乗るなよ?お前らのうるせえから」

「くっ」


 これ以上話して気が変わるのは柳とて本望ではない。踵を返し重そうなバイクを押して去っていく。姿が見えなくなったところで、


「ふうー、隣町のチームか……、面倒だな」

「遥さんお疲れ様です!ついに他の街を根城にしているチームからも警戒されるようになったんすね!」

「これが有名税ってんならちーっと高いな。毎回こんな夜中に来られたら面倒ったらないぞ。てかあれくらいのレベルならお前らだけでも対処できるだろ、今後はヤバくなってから呼べよな」

「すみません。隣町からチームが乗り込んでくるって情報が入ったから、どんな大人数かと思いきや偵察部隊だけだったんですよ……」

「はいはい。ただまあ、用心しておくに越したことはない。お前らも気ィ引き締めとけよ」

「「「はいっっ!!!」」」

「んじゃあ今日は解散。明日も学校あんだから」

「遥さんはマジメっすねぇ~。いっつも遅刻してるけど」

「うるせえよ」


 夜、非日常の空間。この日の一幕を境にこの非日常は日常に少しずつ染み出していくことになるのだが、それはこの時点ではまだ誰も知らないことだった――――。



 ―――朝。何の変哲もない朝。目覚まし時計を叩き顔を洗い、家族とおはようを交わして朝ご飯をニュースの内容と一緒に飲み込む。歯を磨いて制服に着替え、髪を整えて鞄を持ち靴をつっかける。自転車にまたがりよく会うお隣さんに挨拶をして学校へ向かう。


学校までは十五分程度。家を出ると青い空との境目には山が見える。まあこの町は南以外の三方を山に囲まれているため、家の正面が山なんてことは珍しくもない、というかむしろ多数派だったりする。走りだして感じた五月の朝の風は寝ぼけた頭を起こすには十分な爽やかさだ。


「はよーっす」

「おはよう、賢人」


 行きすがら出会ったのはクラスメイトの坂口賢人。一番親しい友人であり、中学の頃からの付き合いである。彼とは家も遠くなく、お互い自転車通学なので割とよく登下校が重なる。


「あーー今日もまた学校って何かもうしんどいよなあ」

「あはっ、賢人は五月病?」

「そうじゃねえけど……、あーやっぱそれかも、五月病。姉ちゃん見てるとさ、授業昼からなのに行くのダルいからサボろうかな~とか言いやがって、こちとら毎朝八時半には登校してるってのによ」

「お姉さん今大学二年だっけ?ちゃんと勉強して大学入ってるんだからそれくらい多めに見てあげなよ。単位とかはちゃんと取れてるんでしょ?」

「それがあいつのタチの悪いところなんだよなあ。昔から容量だけは無駄にいいから。しかもサークルがあるからとか言って夜遅くに帰ってくるし。ほんと自由だよ」

「その容量のいいお姉さんに助けられたテストがいくつあったか数えてから悪態ついた方がいいんじゃない?」

「グッ……!」


 自分自身も賢人と一緒に勉強を教えてもらったことがあるが、とにかく分かりやすい。将来学校の先生になれるんじゃないかって俺なんかは密かに思っている。


「うるせえ!お前も毎日同じ家に居たら俺の気持ちが分かるよ!」

「はは、それだけ元気にツっこめるなら五月病の線は薄いかな。ほら、もう学校つくし元気出そうぜ」

「はいよ……。っておお!校門のとこいんの美鈴ちゃんじゃん!声かけてこよーっと!」


こんな具合に女の子に積極的なのも彼の良い(?)個性なんだと思う。……さっきまで話していた俺を置いていくのはどうかと思うけど。


 そんなこんなで無事女の子と挨拶を終えた賢人と下駄箱で合流。二人で教室に向かう。


「んで?さっきの子誰なんだよ、結構かわいかったじゃん。もしかして彼女?」

「いやいや、テニス部の一年の子。この間たまたま話すことあって知り合った」

「何でこの時期に自分の入ってるわけでもない部活の一年と知り合えるのかねえ……。羨ましいというか何というか」

「お、美鈴ちゃんと知り合いたいのか?アキの頼みとあらば紹介するけど?」

「いやいいよ、そんな風に知り合っても完全にワンチャン狙ってる痛い奴じゃんよ」

「それもそうか」


とかバカな話をしているうちに僕たちの教室、二年三組につく。

クラスメイトに挨拶しながらお互い自分の席に向かう。


「あ、おはよ高瀬くん!」

「おはよう柊野さん」


 自分の席についたところで隣の席の女の子が挨拶してくれる。ウチのクラスは最初名簿順で席が決められているので、四月からもう一か月くらいお隣さんだ。席が隣だと必然的にペアワークやグループワークで一緒に作業することが多いので、仲は悪くない。顔だちも整っており、性格も明るいので男子からの人気はかなり高い。そんな子と一か月も隣の席にいられるのは神に感謝しないといけないかもしれない。帰ったら神棚に手合わせとこ。


「そういや柊野さん今日出てた宿題やってきた?」

「うん、ばっちり!」


 にっこり笑って言ってくれる。かわいい。……じゃなくて。


「お、ほんと?僕今日の英語の課題自信なくてさ、今日もしかしたら当たるかもだからよかったら答え合わせさせてくれない?」

「もちろんいいよ!……って、え、英語……?」

「あれ、今日って課題英語と数学じゃなかったっけ?……あ」


 ここで彼女の表情を見て僕は全てを察した。


「もしかして柊野さん、数学はしたけど英語の存在忘れてた……?」

「うっ……、仰る通りです……。」


 チラッと上目遣いになる柊野さん。かわいい。


「あの、高瀬くん?お願いがあるんだけど……」

「分かってるよ、いつものことだけど自信ないし間違ってるかもしれないけど良い?」

「もっちろん大丈夫!恩にきるよ~!」


 こんな風にちょっと気の抜けた隣人がいるおかげで、二年生になってからの成績は右肩上がりだったりする。一年の時、授業に少し置いて行かれている感のあった俺にとっては、かわいい子に感謝され、成績も上向くという正にwin-winな状態である。


 問題の英語の時間。柊野さんは教科書も忘れていたらしく、隣の僕が見せることに。教科書を見せるということは、机をくっつけるということで。必然的に二人の距離も近くなる。周りの男子からは怨嗟の視線が集まっているが、こっちはこっちで汗臭くないかとか柊野さんいい匂いだなとか肘ぶつけないようにとか、とにかく必死なのである。ちなみに一番恨みがましい視線の主は言うまでもなく賢人である。後で何か言われそうだな。


 結局気にしていた匂いについて苦情を受けることもなく、肘をぶつけることもなく時間が過ぎていった。案の状、昼休みに賢人から羨ましいだのなんだの言われたが鬱陶しいので総スルー。無視かよ~とか言ってくるけどそれもスルー。お互いこんな感じでも放課後にはケロッと一緒に帰ってるからいい関係だと思う。


 お昼明け一発目の授業は生物だった。理科系科目は実験以外基本的に座学であり、しかも昼休み明けすぐなんていったら皆睡魔との戦いに必死である。


 僕自身も黒板の映像がブラックアウト(黒板だけに)しそうになっていたが、視界の隅で何かが動いたのが見え、ふと顔を向けると教室の後ろのドアが開いていた。そこから一人の生徒が入ってくる。


 容姿は日本人離れしたような端麗さ。髪は色素が薄いのか窓から差し込む日の光に透けるようで、均整のとれたスタイルを誇る。


 彼女こそ、入学以来我が校の美少女ランキングぶっちぎりの1位にして、我が校のボッチランキングでも独走体勢を貫いている桐山遥その人だ。よく小説などには容姿端麗、成績優秀、コミュ力お化けなんていう三拍子揃った超人がいるものだが、彼女はそうではない。


 容姿こそ先程紹介したように圧倒的なのだが、成績は遅刻が多く、居眠りしている姿もよく見るのでそこまでよろしいとも思えない。コミュ力の方はさらに顕著で今まで彼女とまともに会話している人を見たことがないくらいだ。流石に授業で当てられた時に答えたりするので声を聞いたことがないとかいうことはないのだが……。


 そんな彼女を一瞥した先生は恒例となっている声をかける。


「おい、桐山~、お前遅刻何回目だ?また担任の先生から小言くらうぞ?」

「……すみません。気をつけます」


 小声でそう言って彼女はそそくさと席に着く。先生も毎度のことなので、それ以上何か言うつもりも無いようで授業に戻る。


 桐山さんは実家がお屋敷でお嬢様らしく、クラス替え当初は男女問わず彼女と話してみたい人で机の周りに山ができていたが、彼女が話すのが好きではないと察してくると次第に人垣は減っていき最終的に今の様相である。おまけによく遅刻してくる。最初はたまたまかと思っていたが結構頻繁に、しかも昼過ぎに来るといった具合である。自称女の子ならお任せあれの賢人も彼女には音を上げて諦めたくらいだ。


「?」


 と、そんな回想をしながら左後ろの彼女の席の方を見ていたら不思議そうな表情をした彼女と目があった。もちろんすぐ逸らされるが……。そりゃ授業中に後ろの方見てたら怪訝な顔されるわな。


 その日の放課後。高校に入ってからは特に部活もしていないので、基本的に真っすぐ帰宅するのだが、その日は運悪く教室を出ようとしたところで担任につかまってしまった。年度初めにじゃんけんに負けて、クラス委員(雑用係)なるものになってしまったせいで、ちょくちょく頼み事をされる。……最後に一騎打ちで僕を叩き落した賢人は絶対許さん。その日は翌日使う資料を運ぶだけですぐ解放された。終わり際にいつも手伝わせてワルいねと、担任がジュースを奢ってくれたのでちょっと機嫌よく教室に戻る。


 見ると残っているのは数人で後はすでに部活に行くか帰宅してしまったらしい。夏至が近づいているせいか放課後のこの時間でも外はまだ日が高く、心なしか外から聞こえてくる部活の掛け声も活気のあるように思えた。教室を見たが賢人や柊野さんも既に姿がなく、先に帰ったらしい。全日本早くお(うち)に帰りたい協会会員の僕としては教室に留まる理由も特にないので、鞄を持ち自転車を拾って校門に向かった。


 いつものように校門に向かうと、なんか危なそうな男に囲まれた桐山さんを見かけた。まともに同年代の人と話してるの初めて見た……。じゃなくて、彼女ほどの容姿であればナンパされることは日常茶飯事だろうけど、どうにもキナ臭い感じがする。



校門を出て角を数回曲がったところで姿を見失った。そんな遅れて曲がってないのに……。


そうして一歩踏み出した瞬間―――。


 急に視界が暗転し、平衡感覚がなくなる。持っていた缶ジュースがアスファルトに跳ねる乾いた音を最後に意識を失った。


初めての小説執筆、投稿になりますので至らない点もあると思いますが、楽しんでいただけるよう頑張ります!

お話はこれからが本番!ご期待ください!!

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