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昨日、僕は半ば無理矢理にペンブレ部に入部させられた。まぁ、嫌な事ではなかったから良いのだけれども。
次の日、僕はまたあの場所にいた。言うまでも無いと思うが一応言っておくと、美術準備室(とはいってもほとんどペンブレで場所をとっている)にいた。扉に手をかけてガラガラと開く。そこには…
坂本部長が椅子に腰掛けて本を読んでいた。
「部長、失礼しますね」
自分が来た事を伝えるために声を掛ける。
「ん?お、筆峰くんか!では始めようか!私達の部活を!」
そう言うと部長は立ち上がり、筐体の電源を入れる。
「今日君にはこのゲームの、ペンブレのルールを覚えてもらおう!」
何処から出したのか、丸メガネと指し棒を持って大型モニターの前に立つ。
いつものテンションが高い感じで、坂本講師によるペンブレ講座が始まった。
「まず、ペンブレの基本ルールだね。ルールは簡単!まず二人一組のチームを作る。片方は武器や防具を描くドロワー、もう片方はその武器を用いて戦うアートル。」
「じゃあ僕はドロワーになるんですか?」
「おそらくね!ただ、まだどちらも体験していないだろう?決めつけるのはすこーし早いよ」
「な、なるほど…」
確かに、僕は絵を…いや、武器を描いただけなのであって、戦いを見ていない。
「さて、本題に戻ろう。これを見たまえ。」
部長がリモコンを鳴らす。するとペンブレの試合らしき様子がテレビに映し出された。
「これはペンブレの試合なんだけれども…まぁ習うより慣れろ、百聞は一見にしかずともいうしね?説明は後で付け加えよう」
二人のキャラが戦場である荒野に立つ。一人はブレイド、もう一人はデュアルとPNと書かれた名前らしき文字の横に書かれてあった。
ゲームスタート!の文字と共に、試合が始まった。
はずなのに。
「…あれ?すぐ戦うんじゃ…」
戦い合う二人は、一向に動く気配がなかった。
「今はセットアップの段階だね、ほら見てごらん、どんどん装備されていくだろう?」
部長の言う通り、二人のキャラにどんどんと防具や武器が装備されていく。
「最初から装備出来ないっていうことですか…」
「まっ、そういう事!始まったと同時にドロワーはアートルのバトルキャラに装備していく、もちろん自分の絵によってね。それでもって相手よりも先に装備を終えた方が先制攻撃を仕掛けられる、というわけ。」
「つまり早くすればするほど先に動けて有利になるって事ですね」
部長はうんうんと頷き返事をした。
試合が進み、火花散り、汗拭う暇無い戦いが続く。すると片方のキャラの武器が突然弾けて消えていった。
「消えた⁈」
「あーあ、クオリティ切れだねありゃ。武器も防具も耐久性能はクオリティによって変わるんだ。武器が消える事をブロークと言うんだけど、ああなるとドロワーは次の剣を用意しなくちゃいけない。」
「…じゃあ最初から剣をもう一本描いておけば…」
「だと良かったんだけどねー…ブロークした方の横っ腹を見てみればわかると思うよ」
ブロークした方、つまりデュアルと書かれていたキャラの横っ腹。そこにはブレイドの両手剣によるものだろうか、大きなヒビが入っていた。
「あれは…クオリティが無くなりかけてるんですか?」
「そうそう、多分武器と防具のどっちを先に描くか迷ったんだと思うよ。でも追加で描けるのは一枚ずつ。仕方無いと先に防具を描いてたら先に剣が壊れちゃったってわけ」
ようは装備は二つ一緒に描くことは出来ないため、その場の判断が必要、と言うことだろう。
試合も終盤に進むにつれて、装備もまたかわっていく。デュアルが装備していた二本の剣には、赤いオーラと青いオーラが纏わりついていた。
「部長、あのオーラみたいな物は…」
「お?よく気づいたね。あれは一般強化スキルと言うんだ。赤はパワー、青はスピード、緑はアンチダメージを表す。まず一般強化スキルっていうのはドロワーが最初から使用できるスキルだよ。他にもスキルはあるが…今は一般強化スキルの話をしよう。あのスキルは武器、もしくは防具に付与する事が出来る。制限時間は無い、だけどもその代わりに、付与された武器がブロークした場合には一定時間使用不可になるよ。
一応劣勢であればあるほど時間は短くなるって事も覚えておいてね?」
よく見ると少し劣勢なデュアルのキャラのスキル再使用時間は30秒ほど短くなっている。だが、30秒だ。
「でも30秒程度ならもう劣勢になったら巻き返せないのでは?」
「と、思うでしょう?そう上手くいかないのがこのゲームなんだよ。30秒でも勝負は決まるしね。それに…は、まぁもうちょっと見てたらわかるかな」
部長は鼻歌交じりにモニターを見続ける。何かあるのだろうか。
「…そろそろかな?このゲームの醍醐味だよ!」
部長のテンションがまた上がっていく。
試合中の二人のキャラがそれぞれが何かを溜める様な行動に移った。
画面の中のキャラが同時に吼える
『燃え滾る一撃!』
ブレイドの両手剣が紅く燃え光る。灼熱の斬撃でもって、相手を消し去ろうと。
『闇にのみ光りし刃!』
デュアルの両手に光る剣は揺らめき、幻影を魅せる。相手の首を落とす覚悟を持って。
「…必殺技?」
「そう!そのとーり!これぞ!公認大会の優勝者にのみ与えられた必殺の特権!唯一残された逆転の一打!どう⁈凄いでしょ!」
あまりにも部長のテンションが高すぎてついていけなくなったので、近くにあった用語解説で補足しよう。
特有スキルとはその人のみが持つスキルである。スキルの獲得方法は色々とあるのだが、最もメジャーな方法は大会に勝つ事。大会の賞品としてスキルが渡される。ちなみにそのスキルは渡される時まで分からないらしい。
特有スキルは大きく分けて二つ。一つは先ほどぶつかり合っていたスキル、「必殺」。文字通り必ず相手を倒す…とは限らないが、その場の優劣を一撃でひっくり返す事も可能だ。もう一つは「強化」。これは一般強化スキルとは違い、何かを犠牲にして大幅にステータスを上げるものもあれば、自分に特殊効果を付与するというものもある。
ちなみに特有スキルは名前を変える事が出来る、覚えておこう!
と、書いてあった。
「…と言う事なのだよ!って、聞いてた?」
しまった、自分で説明を読んでる間に部長が解説してたみたいだ。
「き、聞いてましたよ〜…」
「…怪しいね〜…まぁいいさ!で、この試合を見てどう思った?」
もう試合は終わっていた。両手剣を空に掲げている方と、負けたのかシュウシュウと音を立てて消えていく方。
「どうって…まぁ、面白かったですよ?」
「そーんな一辺倒な答えはダメだよ!もっと詳しく言わないと!例えばあの戦闘が熱かったとか!あのテクニックを真似したかったとか!」
肩を揺さぶられながら力説される。
あー、頭がボーッとしてきた。あ、それ以上揺らさないでください。あぁやめてやめて
グワングワンと揺れる僕の頭。そろそろ意識を手放すかシャットダウンするかの二択に迫られそうになった頃、助け舟が渡された。
「はい部長、ストップ」
部長の背後から手が伸びる。
部長の頰には冷え切ったソーダがくっつけられた。
「冷たいっ⁉︎」
ババッと僕の身体から離れる。
「助かりました…」
「あら、新入りさんと聞いて誰かと思えば…隣のクラスの絵描き君じゃない」