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初投稿です。

僕は小さな頃から、もう記憶の片隅にすら残らないほど幼い頃から絵を描いていた。チラシの裏、本の目次、ノートの端。

高校になっても変わらない、そう思っていた。そう、「思っていた」。そんな僕の運命という名の線路が変わりはじめたのは高校一年の春だった。


僕はただ絵を描ければそれでいい。動物、人、植物。なんでもいい、なんでも良かった。だからそれ故に、友達と呼べる存在はいなかった。別に喋るのが苦手だとか、話しかけられても無視を決め込む、なんてことではない。単に異様なのだろう、ひたすらに絵を描き続ける僕が。


僕は仕方なく、絵を描く場所を図書室へ移動させた。静かで何かにのめり込みやすい場所だったので怪我の功名といったところか。

暫く描いていると、誰かに覗かれているような気がした。顔を上げると、本を読みながらもこの絵が気になる、という様子の、服装からして上級生らしき女性だった。これまでの目線はほとんど呆れの感情が含まれていたのだが、この人は特別興味をもって見てくれていた。

しかし、ただの絵である。誰もがご存知と言えるような物ではなく、何かのアニメやゲームのキャラクターという物でもない。ごくごく普通のライオンなのである。思い立ったが吉日、画家の閃きは一瞬でもある、という言葉の下、僕は行動に移った。

「あの、ライオンに興味があるんですか?」

すると目の前の彼女はフフッと笑った。何か可笑しかったのかなと首をかしげる僕。

「いや、ライオンに興味があるわけじゃぁ無いんだ。僕の興味が惹かれるのはその才能だよ」

彼女の興味の対象に選ばれたのは、僕の才能らしい。

「それは…褒め言葉ととって良いのでしょうか?」

しかしその言い方には何か含みがあるようにも思えて、一応の確認をとっておくことにした。

「そう思ってくれて構わない。…少し皮肉に聞こえてしまったかな、すまないね。」

「いや、えっと…ありがとうございます…?」

なんと言うか、褒められたのは初めてだった。親も、同級生達も、僕の絵を見ることはあったけど、観たことはなかった。

「君は絵が書くことが好きなのかい?」

彼女から質問が飛んでくる。顔は存ぜぬが先輩であることは確かなので、急ぎ答えることにした。

「えぇ、小さい頃からずっと描いてました。あ、でもそれだけが趣味では無いですよ?本を読んだりとか…」

「あぁ、ストップ。少し尋ねたいことがある。」

話を止められた。他人と喋るのは久しぶりだったので、喋りすぎたのかと思った。

だがどうやら違うらしい。

「君は、絵で戦う、というゲームがあるのを知っているかな?」

「絵で…戦う…?いえ、そんなものは…」

僕の人生において、そんなものは無かった。

「もし興味が湧いたなら、放課後に美術準備室の前に来て欲しい」

そう言うと彼女は本を片手に立ち去っていった。



放課後、僕はテクテクと美術準備室へ向かった。

「確か、ここだよな…」

目の前には美術準備室の文字。にしても、絵で戦うゲームとはどういうものなのだろうか。色々な想像が膨らみ、シャボン玉のごとく上がっていく。

「ん?君、もう来てたのかい?」

そのシャボン玉を破ったのは、昼間に目の前で聞いていた声。

「まぁ興味が湧いてくれるのは嬉しいよ。さ、入りたまえ」

僕の横を通り美術準備室の鍵を開ける。僕を部屋へと招き入れる彼女の思うまま、僕はその未知の空間へ引き込まれていった。


そこにあったのは近未来的な機械、パソコンのようにも見えるが、画面のすぐ側にはゲームセンターにありそうなコントローラーがあり、少し離れた場所に、アイランドキッチンの如く大きな液晶パネルがあった。


「これが…ゲームですか?」

そう聞くと、昼の女性が大きく胸を張って答える。

「いかにも!これは一人が武器を描き、もう一人が描かれた武器で戦う、いわば対戦ゲームなのだよ!その名も、pen(ペン) Bladers(ブレーダーズ)!」

そういうと機械の電源を入れ始めた。

「君はそこのパネルの前に立ちたまえ、すぐに準備は終わるから」

そういうと彼女はコントローラーでモードを選んでいた。

「…絵で戦う、かぁ…」

そう言いながら液晶を見ると、色々な武器がデモとして描かれていく。なるほど、こういう武器を描いていくのか。

するとロード中の文字が右下に現れた。

「さぁ、準備完了だ。…そういえば名前を聞いてなかったね?私の名前は坂本 麻里、君は?」

「筆峰 謙成です」

「よし、なら筆峰君、早速だけどそのパネルを見たまえ」

そこにはパソコンで絵を描くような画面が映し出されていた。

「このゲームは絵のクオリティで武器の強さが決まる。そこで、君にはこのモードをやってもらおうか!」

「わかりました、やってみます」


僕はまず一線、描こうとした。

スッと指で液晶をなぞる。

「…?」

スッスッスッ

「……坂本さんこれ動かないです」

スッスッスッスッスッ

「え?あぁ!待って待って!そんなに擦ったら液晶汚れちゃうから!」

数分後、僕はもう一度、液晶の前に立っていた。此度は液晶用のペンをもって。


「…よし」

スッとペンで線を描く。頭に思い浮かぶのは、昼間描いたライオン。しかしこのゲームで描くのは武器、ライオンのイメージを良くあるような剣に叩き込む。


坂本 麻里は驚いていた。

(初めてこのゲームを触る人は大抵描く武器に迷うのだけど…)

彼の右手は迷いなく武器を作り出していく。


「完成…!」


彼が描いたのは、誇り高き獅子の剣。剣身には獅子の刻印、柄頭にはライオンの横顔が描かれている。


「…これは…凄い…今まで私が見てきたどんな武器よりも…」


「えっと、これで良いんですか?」

感動を隠せない彼女に問う。

「…凄いよ、凄すぎるよ!私の想像を遥かに超えるクオリティだ!是非私達の部に、ペンブレ部に入ってくれないか!?」

僕の右手は彼女の両手で握られていた。しかもかなりハイテンションで。

「え、あ、ハイッ!…あ」

勢いに押されてしまった。

「そうかい!ならこれを書いて欲しい!」

いつの間に用意したのだろうか入部届けを胸元に押し付けられる。

「では明日までにそれに必要事項を書いて欲しい!そろそろ完全下校時間だからね!ではまた明日!」

そう言うと彼女は荷物を持って出て行ってしまった。

「…なんか、突風みたいな人だなぁ…」

そう言うと、自分の剣を眺める。

「にしても、我ながら凄いものを描いたなぁ」

西洋の騎士が持つような両手剣、その剣は彼のいまだ知らぬ彼自身の未来を暗示するかの如く、黄金に輝いていた。


「そういえば、坂本さん鍵閉めしてないよね?」


彼の黄金の未来は、まだまだ遠い先らしい。

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