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メッセージ  作者: K
8/30

8 就職しないのかよ

翌日の放課後、恭平は、階段のそばで、立っている榛名渉の姿を見つけた。

凛からは、階段のところで、いつも、二階堂岳と待ち合わせしていると聞いていた。

階段から右に行けば、6組、左にいけば1組なので、部活を卒業した二階堂と待ち合わせをして帰るつもりなのだろう。

「榛名。」

声をかけると、榛名渉は、少し、面倒臭そうに足を止めた。

「はい…。」

「肩は、治ったか?」

「はい。」

触られるのを警戒してか、一歩退いて、渉が答える。

「就職先についての、卒業生のレポートを、片桐先生から預かっている。明日渡すから、興味のある就職先があったら、教えてくれ。」

「はい…。」

「じゃ、明日。」

そう言いかけて、職員室に帰りかけた恭平は、フと思いついた。

「お前、防衛大学には興味ないか?」

「防衛大学?」

渉は、おうむ返しに言葉を返す。

「卒業生の中に、家庭の事情で、普通の大学を断念した奴が、防衛大学を受けているんだが。」

「自衛隊ですか?」

「まあな。倍率は、10倍を超えるが、ここなら、学費は0で、生徒といえども、その身分は、防衛省職員になるから、学生手当が、何万か支給される。全寮制で、学費の心配はないし、卒業後は幹部クラスだ。卒業後の進路についても、自衛隊にこだわることはない。」

「全寮制で、学費ゼロ?」

「考えてみるか?」

「あ…はい。」

渉は、別に、乗り気で、うなづいたわけじゃなく、恭平の勢いに流されて、うっかり返事をしただけのようだったが、事情が何にせよ、今の能力を活かせる道が、まだほかにもあることを考えてくれるだけでいい。

タイミングを逸すると、また、拒否モードに入るかもしれない。

「じゃ、少し待ってろ。ついでだから、資料を取ってくる。」

「…。」

渉の返事を待たず、恭平は、進路指導室に向かった。

5分もすれば、行って、戻ってこれるはずだった。



渉は、恭平の後姿を見て、小さな溜息をついた。

自衛隊に、興味を持ったことはない。

なるつもりもなかった。

ただ、全寮制で、学費ゼロ、学生手当が支給されるということが、つい、ひっかかってしまっただけだ。

「渉、防衛大学に行くのか?」

そこに通りかかったのは、二階堂岳だった。

「聞いてたのか?」

「就職しないのかよ?」

「そうじゃない。」

「就職して、俺と、あの家を出るんじゃなかったのかよ?」

「?」

渉には、岳の顔が歪んで見えた。

その瞬間、岳が、ドンと榛名の身体を押した。

渉が目をみはる。

ここは、階段の最上段なのだ。

手すりも壁も、泳ぐ手に触れない。

そのまま、宙を浮いたと思った次の瞬間、渉の身体は、激しく階段の中段に叩きつけられ、そのまま、下の踊り場にずり落ちた。

上から見下ろす二階堂の視線は、渉の顔をしっかりとらえている。

苦痛に歪んだ渉の表情を、岳は、じっと見つめ、そして薄く笑った。



しかし、次の瞬間に、岳は、はじかれたように、渉の傍に駆け降りてきた。

「大丈夫か? 渉。ごめん。俺が悪かった。」

「う…。」

痛みの為に、動けない渉は、低い声でうめく。

そこへ、激しい音に驚いた生徒や教師たちが集まってくる。

「どうしたんだ? 一体…。」

「階段から落ちたのか?」

「榛名か? 大丈夫か?」

教師たちが、口ぐちに叫びながら渉に駆け寄ってくる。

その教師らに、岳は、自ら宣言した。

「僕のせいです。」

教師たちが、一斉に岳を見る。

「僕が、ふざけて、渉を突き落してしまいました。すみません。」

駆けつけた教師が、渉に

「そうなのか?」

と聞くと、榛名は、苦痛に目を閉じ、横たわったままだったが、力なくうなづいた。

「わかった。二階堂には、あとで話を聞く。榛名は、頭は打ってないか?」

「はい。」

「じゃ、とりあえず、保健室に。」

男性教諭たちが、渉をかかえて、保健室に連れて行った。




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