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メッセージ  作者: K
6/30

6 それもいいかもな

「進学するのか?」

「いや。」

「本気で、就職するつもりなのか?」

「ああ。」

「俺より、頭、いいくせに?」

「関係ないだろ。」

二階堂家の和室は、玄関から入ってすぐ隣の部屋になる。鍵もないふすまで仕切られたその狭い部屋の入口で、岳は、渉に話しかけている。

渉は、壁に身体をもたれかけ、岳の声を聞き流しながら、学校からくる宿題を含めた大量のプリント類を整理していた。

その渉を見下ろしながら、岳は続けた。

「埜々下は、公務員試験を受けるって言ってたぞ。」

「そうか。」

「公務員試験は、受けないのか?」

「受けない。」

「父さんに遠慮してるんだろ。同じ公務員で、お前の頭だったら、すぐに父さんを抜いちゃいそうだから。」

「関係ない。」

「お前が、本気で進学しないって聞いて、母さんが、えらくホッとしてた。」

「そうか。」

渉は、岳の言う事に、全く動じず、短い言葉を返すだけだ。

岳を無視してるわけではないが、話に乗っているわけでもない。

「母さんは、お前とお前の母親に、ずっと引け目を感じてたからな。俺が大学に行くのに、お前が高卒で就職なんて、お袋にとっては、さぞ胸のすく話なんだろうよ。」

自分の母親ではあったが、岳にとって、母親は、決して、尊敬すべき存在ではなかった。

「…。」

「あいつらが、お前に、色々プレッシャーをかけてたんだろう? でも、あんな奴等のために、進学をあきらめることはないんだぜ。ほおっておけよ。」

「いや、感謝してる。」

渉は、感情をあらわす事も無く、淡々と答える。

「嘘をつくなよ。」

岳は、少し苛立った口調で言った。

けれども、渉は、そんな岳の様子を気にする素振りも見せず、大量のプリントを分け終えた。

岳は、渉を見下ろしながら、聞く。

「就職したら、こっちから通うのか?」

渉は、はじめて、岳の顔を、仰ぎ見た。

「働いて、敷金貯めたら、出ていく。」

とたんに、岳が笑顔をみせた。

「敷金貯まるまでは、ここから通うつもりなのか。」

岳は、嬉しそうに言った。

「そうなるな。」

「だったら、俺と同居しようぜ。」

渉は、怪訝げに首を軽く傾げる。

「おまえだって、こんな家からは、一刻も早く出たいだろう? お前が、父さんと母さんの劣等感の象徴だったから、立場が一転してからの、あいつらの態度には、俺が我慢できないんだ。俺は、この家から出るつもりだ。」

「…。」

「今、模擬テストでDがついてる大学に、合格することができたら、一人暮らししてもいいって、親と約束してるんだ。お前も一緒に来いよ。こんなとこよりいいだろ?」

「…。」

「なあ、そうしろよ。」

渉は、しばらくだまっていたが、やがて

「それも、いいかもな。」

と、つぶやくように言った。


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